争いは時に全員に悪い結果を招く。ミュンヘンで起きたことを考えてみよう。先週末のミュンヘン安全保障会議とその前後に開かれた一連の米欧間の会議だ。

  米国のトランプ政権はこの場で、長年の同盟国に対する敬意などほとんどなく、ミュンヘン安保会議を率いる気などさらさらないことを明確にした。18日にサウジアラビアで行われたロシアとの協議でもそうだった。一方、欧州は米中ロの3極が支配する世界の中で、戦略的な重要性を失い始めていることを浮き彫りにした。

  欧州歴訪で、トランプ政権高官の出来はあまり良くはなかった。ヘグセス国防長官はブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部を訪問した際、ウクライナの和平に対する米国のアプローチを明示した。ウクライナはロシアが占領する領土の喪失を受け入れ、NATO加盟を断念し、ロシアの再侵攻を防ぐためのNATO支援の平和維持軍や米軍の駐留に期待するべきではない、と発表したのだ。

  ヘグセス氏の発言内容自体は衝撃ではないが、ロシアとの交渉を始める前から重要な4つの争点全てで公に譲歩を示したことには驚かされた。この翌日にヘグセス氏は発言を撤回したが、重要な外交政策へのアプローチを場当たり的に策定している政権という印象を残しただけだった。

  そして、ミュンヘンでのバンス副大統領の演説が続いた。真剣な欧州人は、防衛費や中国との関係について厳しい意見が出され、ウクライナでの交渉の進め方について率直な議論があるだろうと覚悟していた。そのようなものはなく、代わりに聞かされたのは欧州の民主主義が衰退の危機にあるという説教だった。バンス氏はその後、反NATO、反米の極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の指導者と会談した。

  一方、トランプ大統領はロシアのプーチン大統領とウクライナを巡る交渉をまずは電話でスタートさせた。だが、トランプ氏側近は交渉におけるウクライナの役割は限定的でしかなく、欧州連合(EU)に至っては、恐らくは何の役割も認められないと明確にした。ウクライナ支援の負担を欧州が担うよう要求しているにもかかわらずだ。

  さらにトランプ氏は、マフィアすら赤面するような法外な条件で、ウクライナに鉱物資源を明け渡すよう迫った。

  これらはすべて、トランプ氏が欧州を完全に蔑視していることの表れだ。ところが、欧州が戦略的に軽視されても仕方ない存在に堕してしまったこともまた事実だ。

  誤解のないように言えば、自国の防衛の一部をアウトソーシングする「ただ乗り」は、米国を軸とする同盟の特徴だ。ドイツや日本など欧州やアジアの諸国が寸分の隙もなく武装し、生き残りのため核武装までするような世界を、米国は数世代にわたり避けたいと考えてきた。

  しかし、ただ乗りは行き過ぎた。冷戦後に多くの国が軍事能力を過度に削減し、米国の支援や誘導がなければ行動を起こせなくなった。こうした状況は継続不可能になりつつあるとの警告が次々に表れたが、欧州は見逃してきた。

  冷戦後の欧州の防衛費削減は、ロシアによる2008年のジョージア侵攻後も続いた。14年のクリミア併合で防衛支出は上向いたが、小幅でしかなかった。トランプ氏の1期目の当選後、当時のメルケル独首相ら各国の首脳は、欧州は自らの運命に責任を持つべきだと大演説をぶったが、結局のところ大半の国は防衛費を国内総生産(GDP)比2%という小さな目標に向けてのんびり増やし続けただけだった。

  そして22年、プーチン氏がウクライナへの全面侵攻に踏み切り、その衝撃でようやく欧州の大半が防衛費2%の目標を達成した。だが、多くの国はウクライナに対して倉庫にある既存の兵器を供給することを選び、速やかに兵器生産を増やそうとはしなかった。

  急速に大規模な軍事力の整備にかじを切ったポーランドのような国もあるが、あらゆる口実を見つけては対応を先延ばしにするドイツもいる。こうして欧州は、悲劇的でありながら完全に予測できた状況に陥っている。米国が支援を渋るようになったことで、ウクライナを支援できないという状況だ。

  しかし、これは欧州の苦境の始まりでしかない。欧州の経済規模はロシアよりも数倍大きいにもかかわらず、ロシアの防衛支出はいまや、購買力平価を考慮すると欧州の合計を上回る。プーチン氏は攻撃的な手段もいとわず、ロシアの周辺国を不安定化させようしている。欧州当局者の間では、ウクライナでの戦争が終われば、プーチン氏が欧州東端のどこかに軍事行動を仕掛けるとの懸念が広がる。

  欧州は、もはや信頼できない超大国の保護を失った暮らしを想像できないという地点まで落ちてしまった。これに対処できるだけの活力があるのか、定かではない。

  ミュンヘン安保会議の後、マクロン仏大統領は欧州首脳を集めて緊急会合を開いたが、その会議は、いつものように対立が絶えず、結論の出ないものに終わった。さらに広く言えば、政治不安と経済的な停滞が常につきまとい、より強固な戦略的アイデンティティーの興隆を妨げようとしている。

  短期的には、18日にサウジアラビアでそうだったようにウクライナの将来に関する交渉だけでなく、欧州での米軍駐留や米ロ関係におけるその他の問題においても、傍観者の立場に追いやられる可能性がある。さらにその先には、より大きな危険が待ち受けている。

  欧州が団結しないなら、より活力があり、攻撃を受けやすい欧州の東部諸国がまとまって動きの鈍い西欧諸国を置き去りにし、欧州は分裂する恐れもある。あるいは、衰退する欧州は、消極的で時に敵対的な米国と、侵略的な独裁国家との間に挟まれるだけかもしれない。かつて世界を支配した大陸にとっては驚がくすべき結果だろうが、トランプ氏の時代においては、もはや考えられないことではない。

(ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)」の上級研究員でもあり、「デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突」を共同で執筆しています。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Europe Is Becoming an Afterthought for the World: Hal Brands(抜粋)

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