
中国新興AI(人工知能)企業ディープシーク(深度求索)が今年初め、最先端の大規模言語モデルを無料で公開した際、メタ・プラットフォームズの主任AIである科学者ヤン・ルカン氏は「オープンソースモデルがプロプライエタリー(非公開)モデルを追い抜こうとしている」と述べた。写真はディープシークの事務所がある北京のビル。2月19日撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)
[香港 1日 ロイター Breakingviews] – 中国新興AI(人工知能)企業ディープシーク(深度求索)が今年初め、最先端の大規模言語モデルを無料で公開した際、メタ・プラットフォームズ(META.O), opens new tabの主任AIである科学者ヤン・ルカン氏は、「中国がこの技術において米国より先へ進んでいる」との見方に異論を唱えた。その上で「オープンソースモデルがプロプライエタリー(非公開)モデルを追い抜こうとしている」というのが正しい解釈だと述べた。
だが、中国が自由な技術革新によって世界をいつまで圧倒し続けるかは不透明だ。
オープンソース方式では、ソフトウエアやソースコードを誰でも自由に使用、研究、修正、共有することが可能だ。中国では電子商取引(EC)大手アリババ・グループ(9988.HK), opens new tab、ネットサービス大手騰訊控股(テンセント・ホールディングス)(0700.HK), opens new tab、検索大手の百度(バイドゥ)(9888.HK), opens new tabも次世代AIモデルのオープンソース化を受け入れている。
政府もこの姿勢を支持しているようだ。ディープシークの最高経営責任者(CEO)、梁文鋒氏は1月に李強首相と会談した際、AI部門の代表として出席した。
オープンソースは中国独自のものではないが、中国のAI製品は標準的な定義に則っている。ディープシークのソースコードは、ほぼ無制限の使用を許可するライセンスに基づいている。
その対極にあるのが、対話型生成AIモデル「チャットGPT」を手がける米新興企業のオープンAIだ。同社は自社の独自モデルの学習データとプロセスを厳重に保護しているが、今後数カ月以内に公開するモデルでは、訓練済みパラメーター(回答を生成するためにアルゴリズムが考慮する変数)を一般に公開する予定だ。
無料で利用できるメタの生成AIモデル「ラマ」でさえ、商業的な用途を一部制限しているが、同社は業界標準になるためには世代を超えてオープンであることが必要だという考えには賛同している。
中国政府は無論、オープンソース化を支持している。現時点では国家のために役立っているからだ。
米政府の輸出規制により、中国企業は米エヌビディア(NVDA.O), opens new tabの最も優れたAIチップにアクセスできない。AIモデルを訓練するには、このチップへのアクセスが可能な企業の高度なオープンソースモデルを使用するのが回避策の1つだ。ディープシークが登場するまで、中国の生成AIモデルは大半が、軍事用に開発されたものも含め、「ラマ」の亜種に過ぎなかった。
中国はこのようにリソースを蓄積することで、早期に米国に追随する機会が生まれる。この数週間で百度、アリババ、テンセント、ディープシークはいずれもオープンソース製品の更新や公開を行った。例えばブルームバーグの報道によると、アリババ傘下の金融会社アント・グループは、性能で劣る華為技術(ファーウェイ)[RIC:RIC:HWT.UL]製の国産チップを使ってAIモデルを訓練する技術を開発。エヌビディアのチップを使った場合と同等の結果を得たという。こうした画期的な技術が広く採用されれば中国は、習近平国家主席の目標である「技術的自給」の達成に近づくだろう。
欧州連合(EU)が仏ミストラルAIのような新興企業による同様のアプローチを支持しているのは、オープンソース化が企業の追い上げに役立つ可能性があるからだ。欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は2月、AI推進に向け総額2000億ユーロを投じる計画を明らかにした。
中国はイノベーションを気前よく提供することで、世界的な評価も得ている。ディープシークの梁CEOは取材にあまり応じたことはないが、昨年公開された珍しいインタビューで「(オープンソースへの)貢献で、我々は敬意を勝ち取る」と語った。
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これは中国にも当てはまる。無料で強力なAIモデルを利用できるようにしたことで、西側諸国以外でも中国のソフトパワーが強化された。米国の経済学者タイラー・コーエン氏は最近、中国が米国に対して「技術だけでなく好感度においても」優位に立ったと指摘した。
中国は他の分野でもオープンソースを利用している。政府は企業に対し、ファーウェイやエヌビディアなどが支援する、オープンソース技術のRISC─V(リスクファイブ)を採用するよう奨励した。ソフトバンクグループ(9984.T), opens new tab傘下の英半導体設計会社アーム・ホールディングス(O9Ty.F), opens new tab、米インテル(INTC.O), opens new tab、AMD(AMD.O), opens new tabからライセンス供与を受ければ、米政府からこれらの技術へのアクセスが遮断される恐れがある。
だが、オープンソースへの過度な依存にはマイナス面もある。企業の収益力が低下し、将来の投資が妨げられることになるからだ。
オープンAIのような生成AIモデルの所有企業は通常、モデルや製品へのアクセスを有料としているほか、チャットボットやその他の製品をAIモデルと統合しようとする開発者からも料金を徴収している。ディープシークのモデルはオープンソースであり、後者からの収益しか得ることができない。
梁CEOは、同社は非上場企業であり、利益よりも技術革新が優先だと語っているため、大した問題ではないのかもしれない。だが、AIとクラウドコンピューティングに約530億ドルの投資を約束したアリババのような上場企業にとって、収益の低迷は株価や企業価値の評価への重しとなる可能性がある。
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時価総額3150億ドルのアリババは、非公開モデルとオープンソースモデルを両方保有しているほか、大規模なクラウドコンピューティング事業も展開している。
蔡崇信(ジョー・ツァイ)会長は前週、香港で開催されたHSBCのグローバル投資サミットでこの戦略について説明した。顧客はオープンソースモデルを使用するが、演算能力、データ処理、セキュリティー、そして「複数の技術を兼ね備えた『フルスタック』のソフトウエア」はアリババから購入する、というものだ。これまでAIやITの導入で遅れをとってきた中国企業が、支出を増やすことが前提となる。
中国におけるオープンソースにとって一段と大きな脅威となる可能性があるのは、中央集権的な産業政策と厳格な規制を通じて経済を厳しく統制している中央政府かもしれない。たとえば、生成型AI製品およびサービスは「中核となる社会主義的価値観を順守」し、「国家安全保障を脅かす」コンテンツを排除する必要がある。分散的かつボーダレスであることがオープンソースモデルの本質であり、現在の規則はあいまいだ。
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生成AI分野で中国企業が欧米の競合他社に追いつくか、追い越すようになれば政府は、軍事やサイバー戦争でどの国が優位に立つかという決定力を持つ技術をオープンソース化していることについて、考えを改めるかもしれない。
テクノロジーニュースサイト「ジ・インフォメーション」は3月、情報筋の話として、ディープシークの従業員の一部が渡航制限を受けていると報じた。米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のグレゴリー・C・アレン氏は、ディープシークの革新的なAIトレーニング技術は、米国企業がはるかに優れたコンピューティング資源に適用できると分析。中国企業よりも米国企業に利益をもたらす可能性があるとの見解を提示している。
注目すべき点は、中国がオープンソースを採用している分野は、電気自動車(EV)用バッテリーやグリーンエネルギーなど、すでに世界的リーダーとなっている分野には及んでいないことだ。実際、政府は2023年に特定のレアアース(希土類)処理技術の輸出を禁止。さらに、フィナンシャル・タイムズ紙が3月、関係者の話として報じたところによると、技術が米国に漏えいする恐れがあるとしてEV大手、比亜迪(BYD)(002594.SZ), opens new tab(1211.HK), opens new tabのメキシコ工場建設計画を延期させた。
中国からは安価または無料の生成AIモデルが豊富に供給されるかもしれないが、長く続くかどうかは不明だ。
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

