人類が到達を目指すフロンティア・火星。注目される惑星について、ユニークな視点から謎に迫ろうとする研究者が新潟大学にいます。使うのは、「水あめ」と「重曹」と「ケーキシロップ」。お菓子を作るかのような材料から得られる結果とは?

NHK新潟放送局アナウンサー 木花牧雄

火星の生命探査のホットスポットを探して

大阪・関西万博でも展示される火星の隕石。はるかかなたの星から飛んできました。

注目が高まる惑星・火星。2026年度には、JAXAが中心となって探査機が打ち上げられ、火星の衛星観測やサンプルの採取が計画されています。各国が研究を進めている人類のフロンティアです。


MMXと呼ばれる火星の衛星を探査するミッション

そんな火星の謎に、ユニークなアプローチで迫ろうとしている研究者がいます。


新潟大学理学部

新潟大学理学部の野口里奈准教授です。


専門は惑星火山学

学生時代から火星に関心があった野口さん。火星研究のため、環境が似ている南極やアイスランドでの調査も行ってきました。


南極


アイスランド

そんな野口さんが注目したのが、生命の痕跡が見つかるかもしれない「ルートレスコーン」です。

ルートレスコーンとは火星表面にある直径数m~数百mの穴のことです。火星には広く見られるものですが、地球上ではアイスランドなど、わずかな地域でしか見ることができません。


火星に広くみられるルートレスコーン


アイスランドのルートレスコーン

ルートレスコーンのメカニズムです。湖や川など水を含む地面と、高温の溶岩が接することで、水が気化・膨張し爆発が起きます。


水を含む環境に


溶岩が流れ込み


水が気化・膨張することで爆発が起きる

この時、溶岩だけではなく、下の地面も巻き上げながら周囲にまき散らすことでできると考えられています。


野口里奈 准教授

火山活動でできる地形なんですが、火山活動があったということだけではなくて、その当時、水もあったことも示す地形です。火山活動があった時に水もあったということで、温泉みたいな環境があったと想像できます。

温泉みたいな環境は生物にとって心地いい環境なので、生物の痕跡や生物が住みやすい環境だった証拠が見つかるかもしれないと期待しています。

しかし、このルートレスコーンが、実際にどのようにして形成されるのか、今まで詳しくわかっていませんでした。

1000℃を超える溶岩。ルートレスコーンはその溶岩と水が触れ合うことで爆発が起きるというものですが、それを実験室で再現するのは難しいものがあります。

ユニークな発想でメカニズム解明に挑む!

はるか遠く離れた星に加え、実験で確かめるのが難しい現象。それを解明するために、野口さんがとった方法がこちら👇


左からケーキシロップ・水あめ・重曹

「水あめ」と「重曹」と「ケーキシロップ」を用いました。水あめを溶岩に、重曹とケーキシロップで水を含んだ地面に見立てています。まるでお菓子でも作るかのような材料で火星の現象を解明しようという試みです。

実験方法です。まず、水あめを温めます。熱しすぎるとカラメル化してしまうので140℃までにします。


溶岩(熱々の水あめ)を作る作業

そして、重曹にケーキシロップを加えて混ぜ合わせます。


水を含んだ地面を作るための作業

そこに、100℃以上に熱した水あめを注いでいきます。すると・・・。



下から泡が湧きあがり…



水あめの層を通り抜ける道ができます

ぷくぷくと泡が湧きあがり、上に向けて伸びていきます。重曹は熱した水あめと接すると急速に分解して二酸化炭素を放出します。その性質を利用して、溶岩と接した水のような現象を引き起こすことができました。

将来の火星探査に向けた情報に

この研究によってわかったことがあります。溶岩の層を通り抜けてルートレスコーンを作ることができすに、溶岩の中で止まってしまう道(失敗火道)があることが観察されました。


途中で止まってしまった失敗火道

また、こちらは水あめの量を変えたものです👇水あめが少ないと、多くの道ができ、ルートレスコーンの数も多くなります。一方、水あめが多くなると、途中で止まってしまう道も多くなることが判明。通り抜ける道は少なくなるため、ルートレスコーンの数が少なくなることがわかりました。

この結果から、ルートレスコーンは、溶岩が薄いと、数は多くなる一方、エネルギーなどが分散されることで小さなものができ、

溶岩が厚いと、数は少ないものの、エネルギーなどが集中することで大きなものができるという可能性が見えてきました。


溶岩層の違いによって変わるルートレスコーン

このルートレスコーンの見た目の違いは、将来、火星で生命の痕跡を探査するうえで、調査場所を選択するときに有力な情報になるといいます。

例えば、火星の地下の物質を地上で手に入れたい時に、溶岩が分厚いところにあるルートレスコーンがいいのか、それとも薄いところにあるほうがいいのか、そういう判断基準は将来の地質調査の作戦を立てるのに使えるんじゃないかなと思ってます。

ユニークな発想力を得るためには

アイデア次第で、身近にある材料でも、はるかかなたの星の現象も研究できるなんて、実験の面白さがありますね。

人がやっていない事をするのが好きなんですよね。私があまのじゃくだからというのもあるんですが、みなさん、惑星探査のデータは「これを調べたらすごいだろう」と思うものを取ってきて、調べるわけなんです。そうすると、私がデータをもらった時には、ある程度大きい科学的成果はあげられてしまっているということがあります。でも、こういう実験だったら、自分の手元で新たなデータを見いだして発見ができます。こういう所に実験の面白みというものがあるかなと思っています。

アイデア勝負のところがありますね。そんなユニークな実験を思いつく発想はどこから来ているんでしょうか?

例えば、料理を作っていて泡がプクプク出る時に、出る場所がランダムかというと全然そうではなくて、同じ所から出続けている場合があったりします。「これって、何か火山と似ているよな」という目で私は料理していたりします。そういう目で見ているか、そうじゃないかという違いはあるかなと思います。

最後に、科学に関心のある子供たちに向けて、アイデアや発想を得るコツを聞きました。

野口里奈 准教授

気にしていなければ、例えば何かすごい宝石が落ちていたとしても気付かないわけですけど、「宝石が落ちているかもしれない」とか、「何かいい物が落ちていないかな」といった目で見ていたら発見できるということもあると思います。観察力といってしまうとそれになりますけど、とにかく物を見ることが大事だと思っています。

野口さんは、今、普段の生活の中で見かけた「配分を間違えて穴がきくなってしまったホットケーキ」や「空気がたくさん入ったチョコ」などからも発想を得て、火山や溶岩の実験につなげられないかアイデアを練っているといいます。皆さんの身の回りにあるものから、また新たな発見があるかもしれませんね。