奈良市の薬師寺で、毎年5月の「
玄奘三蔵会(げんじょうさんぞうえ)
大祭」で奉納される演目が今年、約30年ぶりに一新する。俳優が演じてきた玄奘役を、人形師のホリ・ヒロシさん(66)が等身大の人形と共に踊る「人形舞」で表現。人形の衣装には、今年で生誕100年の高田
好胤(こういん)
元管主から譲り受けた布が使われ、ホリさんは「ご縁を恩返しする舞台を作りたい」と誓う。(栢野ななせ)
大祭に向けて人形制作を進めるホリさん(東京都内で)
東京都内のアトリエで4月、ホリさんが玄奘の衣装制作に励んでいた。仕上がった切れ長の目が輝く頭部の傍らに、緑や黄土色など数十種類の布ぎれを並べて衣装の構想を練った。
高田さんから託された布 なかでも、白地に本金の糸が織り込まれた布が目を引く。管主だった高田さんが仏教の原点をたどるインドへの旅の途中で買い求めた上質な布で、30年以上前に贈られたという。「今回の衣装のためにあったのか、と心が震えました」 18歳で人形作りを始め、これまでに大小計1500体を制作。舞踊家や衣装デザイナーとしての腕もいかし、国内外で人形舞の公演や人形展を開催してきた。 高田さんは1992年、知人の紹介で東京であった人形展を訪問。小さな地蔵の作品の前で立ち止まると、その場でさい銭を置いて手を合わせ、ホリさんに直接「人形に使っていただけないか」と布を託した。 布は仏や神にまつわる人形衣装に少しずつ用いた。一方、高田さんは98年に逝去。「人形を優しくご覧になっていたまなざしを思い出す」と思いを募らせた。
薬師寺との縁が再び結ばれたのは2021年頃。コロナ禍で中断もあり、より親しめる大祭への刷新を考えた寺が、従来の「
伎楽(ぎがく)
」との共演を打診。ホリさんは快諾し、初披露に向けて昨秋から準備を進めた。
玄奘が26歳でインドへの旅を決意し、62歳で亡くなるまでの約40年間を一つの人形と衣装で表現するため、試行錯誤を重ねた。僧侶から講義を受けて玄奘への理解を深め、伎楽の上演に関わってきた天理大雅楽部総監督の佐藤浩司名誉教授と相談して、分かりやすい脚本作りにもこだわった。「すっきりと前を見据える高田さんの目線が、玄奘の目のヒントになった」 5日の大祭、6日に同じ会場で開かれる「薬師寺まほろば塾奈良塾」と2日連続で披露する。ホリさんは「人形舞を通じて、玄奘を身近な人として捉えてもらい、高田さんや寺にほんの少しでも恩返しができればうれしい」と力を込める。◆玄奘三蔵会大祭=
「西遊記」の主人公・三蔵法師のモデルになった中国の高僧で、寺ゆかりの玄奘三蔵の功績をたたえ、毎年5月5日に境内で行われる。長年途絶えていたが、1992年に復活。古代の舞踊劇を復元した「伎楽」を中心に玄奘の旅を描く演目を披露してきた。
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