イギリスの広告業界の自主規制機関である英国広告基準局(Advertising Standards Authority、略称ASA)はこのほど、『キャンディークラッシュ』などで知られるKingを含む4社のスマホ向けゲームの広告に対し、“実際のゲームとかけ離れた内容”であるとして広告の配信を禁止する裁定を発表した。GamesIndustry.bizなどが報じている。
今回、英国広告基準局の禁止裁定の対象になったのは、Kingの『ファームヒーロー』、Scopely傘下のLoom Gamesが手がける『Pixel Flow!』、Omnilojoの『Dark War Survival』、Vistrexの『Idle Zombie Miner: Gold Tycoon』の4つのゲームの広告で、いずれもFacebook、Google Playストア上で確認されたものだ。『Idle Zombie Miner: Gold Tycoon』についてはアプリストアの掲載情報についても指摘されている。なお英国広告基準局は法的な強制力をもつわけではないものの、広告主が削除要請に従わない場合には法執行機関に案件を付託できる権限を有している。付託先で法的措置が講じられる可能性もあり、一定の実効性を伴う裁定といえるだろう。

英国広告基準局の公開している裁定によると、『ファームヒーロー』のケースでは、画面の下半分では手の形のカーソルが操作する3マッチパズルが表示されていた。画面の上部では、ノコギリが壁を切り進みながら牛のキャラクターに迫っていき、パズルでアイコンを消すたびに、脱出口と思われるハッチを固定している釘が下に落ちていくというものだったようだ。なお、広告内では「Not in-game footage(ゲーム内の映像ではありません)」や「Not actual gameplay(実際のゲームプレイとは異なります)」という免責事項も表示されていたという。
なお、実際の『ファームヒーロー』は3つのアイコンを揃えて消す3マッチパズルではあるが、広告で表示されたような牛やノコギリ、ハッチ、釘などの要素は登場していなかったという。Kingは、これらが実際のゲームに登場していないことを認めたが、広告はゲームのコア要素である3マッチパズルを示すものであり、広告の表現はペースや緊急性を伝えるための架空の表現であると主張。広告で表示されている免責事項は、広告が実際のゲームプレイではなく創造的な表現であることを明確にするもので、広告の印象を矛盾させるものではないと異議を唱えた。
しかし、英国広告基準局は広告内で描写されたシチュエーションがゲームプレイの一部として理解され、消費者に誤解を与えると判断。表示されている免責事項についても消費者の理解を変える可能性が低く、ゲームについての理解を明確にするよりも、広告に矛盾を生じさせるものであるとの考えを示した。最終的に、「誤解を招く広告」や「誇張」など4つの規定に違反しているとして、現在の形式では二度と掲載してはならないと指示した。
Loom Gamesの『Pixel Flow!』では、実際のゲーム内に存在しないゲームモードが登場している広告が掲載を禁止された。また、Omnilojoの『Dark War Survival』では、3件の広告が禁止の裁定を受けた。この広告は高品質なグラフィックのムービーとともにゲーム内容を紹介するもの。広告で使用された映像は世界観紹介やキャラクター紹介としてゲームに登場する映像で、Omnilojoは捏造した内容ではないことを主張。英国広告基準局も実際にゲーム内に映像が存在するコンテンツに由来することを認めている。

しかし、ゲーム内のムービーシーンは操作できないにもかかわらず、広告上ではプレイ可能な部分と明確に区別されず、実際のゲーム体験を代表するように消費者に錯覚させるような演出がされており、ゲームプレイの範囲や性質、消費者の期待できるグラフィックの品質を誇張しているものと認められた。また、広告内で月桂樹風のグラフィックとともに“2026 Game Creative”と“2026 Survival Game”との文言が表示される演出も、何らかの賞を受賞したと誤認させるものとして、同様の演出の禁止も申し渡されている。
Vistrexの『Idle Zombie Miner: Gold Tycoon』では、Facebook広告やGoogle Playストアで確認できるスクリーンショットが実際のゲーム内容と一致していないとされ、これらの掲載が禁止された。『Idle Zombie Miner: Gold Tycoon』はゾンビに鉱山を掘削させるインクリメンタルゲームであるが、広告ではプレイヤーが掘削機を直接操作してアップグレードし、資源を集めて新しいエリアをアンロックする要素が紹介されていた。Vistrexはこの件について、実際のプレイ映像ではないが、進行に必須のミニゲームや、その他のゲーム内の機能を様式化した広告だと主張した。
しかし、広告内の映像は実際のゲームプレイと一致せず、またプレイヤーが直接操作するミニゲームも194の鉱山のうちわずか4つでしか発生せず、約60秒間しかないことが確認されたため、英国広告基準局は広告がコアとなるゲームプレイとはいえないと結論付けた。また実際のミニゲームには広告で登場したようなエリアのアンロックなども無く、誤解を招く広告であるとして該当の広告は禁止された。
英国広告基準局は1995年よりインターネット広告を規制対象としているが、今回の事例では、広告で提示されたゲームの映像が、消費者の実際のプレイ体験と一致するかどうかが主な争点となっている。“ゲーム内の映像ではありません”といった注意書きを表示している、あるいはゲーム内ムービーやミニゲームとして存在し、実際のゲーム内に登場すると言える余地を残していたとしても、広告の内容とプレイヤーのコアなゲーム体験が一致しなければ、広告としては不適切という線引きがなされたといえる。一方で今回の裁定でも、実際のゲームプレイではない演出であることが明らかな広告などでは、違反が認められないとの判断になっている。あくまで実際にはプレイできない内容を、ゲームプレイの一部であるかのように誤認させる広告表現が問題視されているわけだろう。
こうした実際のゲームとかけ離れた内容の広告は、特に基本プレイ無料のモバイル作品で多く見受けられる。なお、日本にも広告の自主規制機関として日本広告審査機構(JARO)が存在する。ただしJAROは問題のある広告に対して警告や改善要請などをおこなうものの、広告の掲載を強制的に中止させる権限はない(JARO)。景品表示法の「優良誤認表示」などに該当すれば、消費者庁や都道府県による措置命令の対象となるほか、一定の条件のもとで「適格消費者団体」による差止請求の対象にもなりうる。とはいえ、インターネット広告は膨大な数が配信され、ユーザーごとに表示される内容も異なるため、すべてを把握して問題のある広告を取り締まることは難しいだろう。
今回の英国広告基準局のように、国ごとに広告に関する法制度や取り締まり方も異なっている。消費者の誤認を招く広告が見受けられる現状に対応するためには、広告配信プラットフォーム側でも審査・規制強化など、配信前に防ぐような対策のさらなる強化も期待されるところだろう。
