2026/07/14

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は7月2日、「グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化/洋上風力運転保守高度化事業」の実施体制を決定した。この中で、愛媛県今治市に本社を置くBEMAC株式会社の提案が採択され、同県が目指す洋上風力発電市場への参入に向けた大きな一歩となった。
メイン画像:BEMACの自動船位保持システム(DPS)写真提供 BEMAC株式会社
洋上風力低コスト化を目指す
NEDO事業で2社が採択
日本の再生可能エネルギー主力電源化の切り札として期待される洋上風力発電は、その普及と拡大に向けては発電コストの低減が最重要課題となっている。特に海洋上という過酷な環境下での運用となるため、施工や維持管理におけるメンテナンス費用の抑制が強く求められている。こうした背景を受け、NEDOは、グリーンイノベーション基金事業の一環として「洋上風力発電の低コスト化/洋上風力運転保守高度化事業」の公募を実施し、7月2日にその実施体制を公表した。
この事業の目的は、着床式および浮体式洋上風力発電のコスト低減と早期の導入拡大、ひいては国内の産業競争力強化を図ることにある。具体的には、台風や落雷、激しい波うねりといった日本やアジア市場特有の気象・海象条件に対応し得る、先進的な運転保守技術の開発を目指す。国の強力な財政支援のもとで進められるこの重要な国家プロジェクトにおいて、愛媛県今治市に本社を構えるBEMAC株式会社と、神奈川県横浜市のニューブレクス株式会社の2社による提案が選定され、本格的な開発体制が始動することとなった。

洋上風力作業船の
DPS開発・実証を提案

BEMACのDPSを搭載した作業船(写真提供 BEMAC株式会社)
今回の公募において、BEMACが提示した研究開発テーマは「高稼働率と導入容易性に貢献するDynamic Positioning Systemの開発」である。同社は長年にわたり船舶の電気推進システムや各種制御技術を手掛けてきた実績があり、その高度な海事技術を洋上風力発電の運用現場へ応用する。洋上風力発電所の建設時や、稼働後のO&M(運営・保守)ステージにおいては、作業員を輸送する船(CTV)やメンテナンス支援船(SOV)、台船などが洋上で正確に位置を保持し、揺れを抑制することが作業の安全性と効率性を左右する。
BEMACの提案では、CTV向けに簡素化され扱いやすい簡易型動移動位置保持システム(DPS)の開発と、SOVや台船向けの動揺低減DPSの開発および実証を行う。これにより、気象が荒れやすい洋上環境であっても、操船に伴う大きな精神的・身体的負荷を軽減し、作業効率を飛躍的に高めて高稼働率化を実現する。さらに、この技術の2030年までの社会実装と商用化を見据え、市場拡大期に懸念される熟練船員の不足対策としても有効なアプローチとなる。この革新的な船舶制御技術の確立は、建設・メンテナンスコストの大幅な低減に寄与し、ひいてはグローバル市場における日本の洋上風力関連産業の優位性確保につながるものと期待されている。
BEMACは、「NEDOグリーンイノベーション基金事業『洋上風力発電の低コスト化』に採択され、洋上風力向けDynamic Positioning System(DPS)の開発に着手しました。CTV向け簡易DPSやSOV・台船向け動揺低減DPS、統合制御技術を開発し、洋上風力発電の運転保守の効率化、高稼働率化、安全性向上、低コスト化に貢献します」と意気込みを語る。
コンソーシアムの設立と
“スゴ技”が導いた官民連携の成果
今回のBEMACの採択は、一企業の快挙にとどまらず、愛媛県が地域を挙げて推進してきた産業振興施策が結実した成果でもある。愛媛県は、県内に集積する多様なものづくり企業の優れた技術、すなわち“スゴ技”を活かして洋上風力発電という新市場へ参入することを目指し、2024年5月に「愛媛県洋上風力産業振興コンソーシアム」を設立した。東予地域を中心に、世界的な規模を誇る造船業や海運業、舶用工業が集積する今治市、そして金属加工や機械製造で高い技術力を持つ新居浜市や西条市など、地域の強みを統合したネットワークが構築されている。
同コンソーシアムは、参入を目指す県内企業の認知度向上やビジネマッチングを積極的に支援してきた。その一環として、参入意欲を持つ県内企業のコア技術をまとめた関連企業ガイドブックを制作し、さらに英語版も作成して国内外に向けて広く発信している。また、国際的な展示会である「WIND EXPO」への出展などを通じて、愛媛のものづくり力を市場へ強くアピールする活動を地道に継続してきた。今回、コンソーシアムの主要メンバーであるBEMACが国の基幹事業に採択されたことは、地域一体となった取り組みが極めて高いレベルで評価され、サプライチェーン構築の確固たる基盤が形成されつつあることを証明している。
海事産業の知見を集約し
世界市場へ挑む愛媛の進路
NEDO事業の採択という大きな成功体験を契機として、愛媛県および県内ものづくり企業が目指す方向性はより明確なものとなった。造船や舶用機器といった既存の海事産業で培われた高度な設計・製造技術や品質管理の知見は、洋上風力発電という過酷な海洋インフラの構築において、他地域にはない強力なアドバンテージとなる。
愛媛県は、地域経済の持続的な成長に向けて、サプライチェーンの局所的な部品供給にとどまるのではなく、洋上風力発電の建設から運転保守までのライフサイクル全般を支える一大産業拠点の形成を目指している。今後は開発された制御システムのインテグレーションや、実際の作業船への実装プロセスにおいて、県内企業間でのさらなる連携強化と技術の高度化が加速することが期待される。
愛媛県洋上風力産業振興コンソーシアムの会長で、愛媛県経済労働部長の池田 和氏は「本コンソーシアムの参画企業であるBEMAC株式会社のGI基金事業への採択は、長年培われた技術力と洋上風力発電分野への積極的な挑戦が高く評価されたものです。この事業を通じて、洋上風力発電の効率化や低コスト化の実現に向けた技術開発が進展することを期待しています。本コンソーシアムとしても、こうした県内企業の挑戦を後押しし、洋上風力発電産業の発展につなげてまいります」と期待を込める。
地域に根差した“スゴ技”を次世代のクリーンエネルギー産業と結びつけ、国内のみならずアジアや世界の洋上風力市場で確固たる存在感を示す先進モデルとなるべく、愛媛県の挑戦は本格的な社会実装のステージへと進んでいく。

DATA
「グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化/洋上風力運転保守高度化事業」の実施体制の決定について
取材・文:ウインドジャーナル編集部