JBpress ナナメから聞く

【JBpressナナメから聞く】前駐イラク特命全権大使、一橋大学国際・公共政策大学院教授、松本太氏に聞く(前編)

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 米国とイランが戦闘終結に向けて6月17日、14項目の覚書に署名しました。60日以内の最終合意を目指すとされる一方、署名後も双方の駆け引きは続いています。軍事衝突が続いていた両国は、なぜこのタイミングで合意に動いたのでしょうか。覚書には何が書かれ、米国、イラン、イスラエルにとって何を意味するのでしょうか。

 JBpressのYouTube番組『ナナメから聞く』。今回のゲストは、前駐イラク特命全権大使を務め、現在は一橋大学国際・公共政策大学院教授の松本太氏です。中東外交の最前線を知る松本氏に、JBpress編集長の細田孝宏が話を聞きました。2回に分けてお届けします。

※詳しい内容は、JBpress公式YouTubeでご覧ください。(取材日:2026年6月23日)

米国もイランも「ステイルメイト」

——米国とイランが覚書に署名しました。なぜ今なのでしょうか。

松本太(前駐イラク特命全権大使・一橋大学国際・公共政策大学院教授、以下敬称略):チェスの用語で言えば、王が詰んでいない状況で、手番が回ってきているのに、もはや指す手がないという、いわゆる「ステイルメイト」だと思います。今回の覚書は、米国にとってもイランにとっても、もはやオプションはなく、引き分けにするしかない状況で生まれたわけです。

スイスで協議に臨んだバンス米副大統領(左)、パキスタンのシャリフ首相(中央)、カタールのムハンマド首相(右)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 最大の理由は経済でしょう。トランプ大統領はいみじくも「世界恐慌を招いたハーバート・フーヴァー大統領にはなりたくない」という趣旨の発言をしています。ホルムズ海峡の封鎖などにより、米国経済だけでなく世界経済も危機に瀕しており、これ以上、「戦争」を続けられない状況になっているわけです。

 イランにとっても、米国の逆封鎖により、原油を輸出できずキャッシュが入ってこない状況です。そして油田そのものにも悪影響が出かねないところまで追い込まれていたわけです。

——今回の覚書にはどれくらいの拘束力があるのでしょうか。

松本:覚書には法的拘束力は基本的にはありません。「イランと米国が〜にコミットする」という趣旨の書き方にとどまっています。つまり、本合意が結ばれるまでは、双方が自発的に協力し、協議を続けるという「ジェントルメンズ・アグリーメント」に近いものです。

 ただしお互いが裏切るようなことになれば、再び武力行使に戻らざるを得ません。しかし米国もイランも、もはやそれはできないでしょう。その意味で、今回の覚書の意味合いは極めて大きいと思います。

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