地球と似たような公転軌道を持つ小惑星の中には、「準衛星」と呼ばれる特殊な軌道を取る場合があります。 “衛星” とはいうものの、これは見た目上の問題であり、真の意味での衛星ではありませんが、それでも地球と特殊な関係にあるため、惑星科学の分野では注目されます。

マドリード・コンプルテンセ大学のCarlos de la Fuente Marcos氏とRaúl de la Fuente Marcos氏は、「2025 PN7」という小惑星の軌道を解析し、新たな準衛星であると推定しました。ただ、2025 PN7の軌道は不安定であり、準衛星でいられる期間はかなり短いようです。

準衛星: 見た目は地球の衛星のように見える天体

地球と似たような公転軌道を持つ小惑星は、現在100個ほど発見されています。このような小惑星は頻繁に地球に接近するため、地球の重力の影響を受け、変わった軌道へと進化することがあります。

例えば、地球の重力に捕獲され、一時的に地球周回軌道に乗る “第2の月” (あるいは “ミニムーン” とも)として振る舞うような小惑星もあります。観測によって見つかったものとしては、これまでに5個が記録されています(※1)。

※1…「1991 VG」「2006 RH120」「2020 CD3」「2022 NX1」「2024 PT5」の5個。

図1: (Credit: 準衛星の仕組み。(1)準衛星は、その “中心” となる天体と同じく、太陽を真の中心として公転しています。(2)その天体から見た準衛星の位置に線を引いてまとめると(3)歪んだ形で衛星のように天体の周りを回って見えます。(Credit: Paul Wiegert / 著者(彩恵りり)により動画の一部をキャプチャ後、加筆)【▲ 図1: 準衛星の仕組み。(1)準衛星は、その “中心” となる天体と同じく、太陽を真の中心として公転しています。(2)その天体から見た準衛星の位置に線を引いてまとめると(3)歪んだ形で衛星のように天体の周りを回って見えます。(Credit: Paul Wiegert / 著者(彩恵りり)により動画の一部をキャプチャ後、加筆)】

これとは別に「準衛星」に分類される小惑星もあります。ただし、 “衛星” という名前こそ付いているものの、これは先ほどの “第2の月” とは異なる概念です。

準衛星に分類される小惑星を地球から見ると、確かに地球の周りを公転しているように見えます。しかしこの小惑星は、地球ではなく太陽を中心とした公転軌道を取っています。衛星のように見えるのは、あくまでも見た目上の話です。

準衛星が地球の衛星のような見た目となるのは、地球と小惑星との相対的な公転速度が関係してきます。地球から見ると、太陽に近い側を進む小惑星は相対速度が速く、地球を追い越します。逆に太陽から遠い側を進む小惑星は相対速度が遅く、地球に追い抜かれます。地球との相対位置と、見た目の追い抜き・追い越しが組み合わさることで、まるで地球の周りを回っているように見えるのです。

ただ、準衛星は完全に地球と無関係かと言うとそうではなく、地球の重力の作用によってこのような公転軌道を取っています。その起源を辿ると、月の破片なのではないかと推定されるものが見つかるなど、その起源が惑星科学の分野で注目されます。

ただし、準衛星は頻繁に地球に接近することから、しばしば軌道が不安定で変化しやすく、あまり長い間は存在できません。また、準衛星の大半はとても小さなサイズであり、観測そのものが困難です。このため、準衛星であると推定された小惑星は数個しかありません。

準衛星の正確な数は、参照する文献によって異なります。今回取り上げる研究ノートに準拠すると、準衛星はこれまでに「カモッオアレヴァ(Kamoʻoalewa)」「カルデア(Cardea)」「(277810) 2006 FV35」「2013 LX28」「2014 OL 339」「2023 FW13」の6個が見つかっています。

「2025 PN7」は不安定な地球の準衛星と判明図2: ビクター・M・ブランコ望遠鏡のダークエネルギーカメラで撮影された2025 PN7(中央部の緑丸の中)。(Credit: Antonella Palmese, Noah Weaverdyck, Jessie Muir, Frieman/Dark Energy Survey/CADC/NOIRLab/NSF)【▲ 図2: ビクター・M・ブランコ望遠鏡のダークエネルギーカメラで撮影された2025 PN7(中央部の緑丸の中)。(Credit: Antonella Palmese, Noah Weaverdyck, Jessie Muir, Frieman/Dark Energy Survey/CADC/NOIRLab/NSF)】

マドリード・コンプルテンセ大学のCarlos de la Fuente Marcos氏とRaúl de la Fuente Marcos氏は、「2025 PN7」という小惑星が7個目の準衛星であると推定し、その結果がアメリカ天文学会が発行する研究ノートに掲載されました。

2025 PN7は、2025年8月2日に掃天観測プロジェクト「Pan-STARRS」によって発見されました。今回の研究ノートはその1か月後に発行されたものです。2025 PN7は、推定直径20m前後のかなり小さな小惑星です。初期観測で推定された公転軌道が地球とかなり似ていることから、今回の分析が行われました。

図3: 今回計算された2025 PN7の軌道の変化(λr=2025 PN7と地球との平均黄経の差)。中央付近にある小さな波線が、2025 PN7が準衛星の状態になっている128年間の期間です。(Credit: Carlos de la Fuente Marcos & Raúl de la Fuente Marcos / 研究ノート図1よりトリミング)【▲ 図3: 今回計算された2025 PN7の軌道の変化(λr=2025 PN7と地球との平均黄経の差)。中央付近にある小さな波線が、2025 PN7が準衛星の状態になっている128年間の期間です。(Credit: Carlos de la Fuente Marcos & Raúl de la Fuente Marcos / 研究ノート図1よりトリミング)】

2025 PN7の軌道を分析すると、現在の2025 PN7は準衛星であることが分かります。ただ同時に、2025 PN7が準衛星である期間は128年だけであることも推定されました。これは相当短い期間です。

例えばカモッオアレヴァは、かなり寿命の短い準衛星として例示されることが多い天体ですが、それでも準衛星である期間は381年であると計算されています。これとくらべれば、128年という数値がどれほど短いかが分かるでしょう。偶然にも、今現在はこの128年間のちょうど中間に当たります。

準衛星は “第2の月” ではない

ところで、2025 PN7について取り上げている情報の中には、2025 PN7を “第2の月” や “ミニムーン” であると説明しているものが散見されます。先述の通り、準衛星が衛星であるかのように振る舞うのは見た目だけの話であり、決して “第2の月” と呼べるものではありません。

しかし、日本語でも英語でも衛星(Satellite)という名前であるためか、本当に地球の周りを回っているかのように説明する文章や動画は少なくありません。実際の準衛星は、一般の人々が想像する形での衛星とも、力学的な意味での衛星ともほど遠い概念ですので、これは不正確な説明となります。

これは筆者の意見ですが、本来この軌道を持つ天体は「疑似衛星」と呼ぶ方が正確なのかもしれません。もしかすると “衛星” と呼ぶこと自体が不適切なのかもしれませんが、見た目上は衛星であるという点が名前から分からなくなってしまうのも、それはそれで弊害があると筆者は考えます。また、英語名が「Quasi-Satellite」であることを踏まえれば、疑似衛星と訳すことが誤訳であるとまでは言えないかと思います。

ひとことコメント

準衛星は衛星じゃないんだけど名前のせいか勘違いされがちなのよ。衛星なのは見た目だけの話よ。(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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