がん細胞を狙い撃ちする粒子線治療の専門病院、兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)について、県は2027年度末で廃止することを決めた。全国で唯一、「陽子線」と「重粒子線」の両方の治療が可能な施設として四半世紀にわたって実績を積み重ねてきたが、近年は赤字が常態化し、巨額の設備更新費を捻出できないと判断した。(神戸総局 荒田憲助)

■実績重ね

主ながんの治療法の特徴主ながんの治療法の特徴

 県は01年、理化学研究所の大型放射光施設「スプリング
8(エイト)
」など先端科学技術施設が集積する播磨科学公園都市の中核施設の一つとして、約280億円を投じてセンターを整備した。自治体が運営する初めての粒子線治療施設だった。

 患者数は増加傾向で推移し、ピークの13年度は745人が治療を受けた。

 技術革新で装置の小型化が進むのに伴い、粒子線治療の提供施設は徐々に増え、現在は全国で25施設に拡大。多くは陽子線治療を担い、重粒子線治療が可能なのは、両方の治療が唯一できる粒子線医療センターを含めた7施設だ。

 医用原子力技術研究振興財団によると、全国で粒子線治療を受けた人はこの20年で約10倍になり、24年度は1万1460人に上る。

■保険適用で苦しく

治療件数の推移治療件数の推移

 施設が広がる一方で、都市部から離れた粒子線医療センターの患者数は減り、24年度はピーク時の半分以下の355人だった。

 物価高や人件費上昇も重なって18年度から赤字が続き、24年度の経常損失は6億7100万円に上る。

 赤字には、公的医療保険の適用拡大も影響している。粒子線治療は当初、自費と保険診療を併用する「先進医療」だったが、治療実績の積み重ねで保険が適用されるがんの種類が広がり、施設側には国が定めた「診療報酬」しか入らなくなった。同センターの患者1人当たりの収益は、13年度の335万円から23年度は277万円に減少した。

 県は老朽化した施設の大規模改修には156億~270億円が必要と試算。他の県立病院の経営も厳しく、県は昨秋に廃止方針を決め、今年3月末、廃止時期を28年3月31日とした。

 同センターが廃止された後は近畿、中四国で重粒子線治療を受けられるのは、公益財団法人「大阪国際がん治療財団」が運営する大阪重粒子線センター(大阪市)のみとなる。がん細胞をより強いエネルギーで攻撃する重粒子線は、治療期間が短期間で済むなど陽子線とは違った利点がある。

 粒子線医療センターの沖本智昭院長は「現在の診療報酬では施設の維持は難しい。治療機会が失われかねず、残念だ」と語った。

2028年3月末で廃止される兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市で)2028年3月末で廃止される兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市で)

■他の施設でも

 経営難に悩むのは、粒子線医療センターだけではない。私立の相沢病院(長野県松本市)は、26年3月末で陽子線治療センターを休止した。相沢孝夫理事長は「機器の維持費で毎年2億円ほどの赤字になっている。病院経営を維持し、地域医療を支えるための苦渋の決断だ」とし、「診療報酬の増額など、支援が充実すれば再開したい」と語る。

 年間1000人超の患者を診療する大阪重粒子線センターも「収支はギリギリ」だといい、全国の患者に加え、外国人患者を呼び込む医療ツーリズムにも力を入れている。前山芳輝常務理事は「中国や中東でも粒子線治療施設を新設する動きがあり、今後市場は世界で拡大する。国の支援を期待したい」と訴える。

 日本放射線腫瘍学会の宇野隆理事長は「粒子線治療の有効性と安全性をより明確にして診療報酬の増額を求めていきたい。病院ごとの治療件数を増やすためには施設の適正な配置と集約化も必要になる」と語る。

 
◇粒子線治療=
放射線治療の一種で、陽子線や重粒子線を照射してがん細胞を攻撃する。体の内部の狙った位置に集中的に照射できるのが特徴で、同じ放射線のエックス線やガンマ線による治療と比べても健康な細胞や組織へのダメージや副作用を抑えられる。体への負担が小さく、高齢者や進行・再発がんの患者も受けやすいとされる。

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