リデル=ハートの「間接アプローチ」で読み解く戦争の行方
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2026.4.6(月)
編隊を組んで飛ぶ米空軍のステルス爆撃機「B-2」(右)とステルス戦闘機「F-35CライトニングⅡ」(左)、中央の2機は「F/A-18Eスーパーホーネット」戦闘機(2月12日撮影、米空軍のサイトより)
イラン戦争は「間接アプローチ」の戦争
中東で再び火の手が上がったイラン戦争は、表面上は報復と反撃の応酬に見える。
しかし、その背後では、米国とイランが互いに正面衝突を避けながら、相手の均衡を崩すという、リデル=ハートの「間接アプローチ」が静かに作動しているように見える。
編集部注:リデル=ハート(1895-1970)は英国の軍事思想家で、プロイセンの軍事学者カール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780-1830)の徹底的な撃滅を中心に論じた「戦争論」とは異なり、最小限の犠牲で最大の成果を得る「間接アプローチ」を提唱した。
イラク戦争の教訓から大規模地上戦を避けたい米国。
対してイランは、湾岸諸国への攻撃、ホルムズ海峡封鎖、米国内世論操作、象徴的テロの可能性まで含め、世界を揺らす多層的な間接戦を展開しようとしている。
つまり、この戦争は正面戦では決着せず、長期化と世界拡散を宿命づけられていると言っていいだろう。その影響は、コロナ禍を上回る規模で国際社会を覆い始めている。
間接アプローチ:正面を叩かず均衡を崩す
戦争とは、しばしばお互いに正面の扉を叩き壊す力比べだと誤解されやすい。しかし、ハートが示した「間接アプローチ」は全く逆である。
それはいわば、相手が固く守る玄関ではなく、相手が気づかないうちに裏口から入り、家全体の電源を落とす戦い方だ。
正面から押せば押すほど、敵の抵抗は最大化する。ハートは、だからこそ戦略の核心は「戦うこと」ではなく敵が戦えない状態をつくることにあるとする。
均衡を崩すとはどういうことか
巨象を正面から押し返す必要はない。足元の小石を抜けば、象は自らの重さで崩れ得る。
チェスでも同じだ。王を取るために真正面から突っ込む者はいない。まずは相手の駒を攪乱し、動ける選択肢を奪い、詰むしかない状況を静かに作り上げる。
ハートの間接アプローチとは、まさにこの「均衡破壊の技法」といえる。
間接アプローチを構成する手段
敵の正面を叩くのではなく、敵の姿勢を崩すための技法が用いられる。
・奇襲:相手の裏口を叩く
・迂回:守りの薄い側面から攻撃して戦いの重心をずらす
・攪乱:相手の視線を散らし、判断を狂わせる
・分断:味方同士の腕と脚を切り離して戦う
・象徴攻撃:物理的破壊より心理の急所を突く
・世論操作:戦場の外側から敵の意志を腐食させる
これらはすべて、最小の力で最大の効果を得るための「重心ずらし」の技法である。
現代戦における間接アプローチ
現代の戦争は、もはや戦車や大砲だけの世界ではない。サイバー攻撃は、国家の「電源を落とす」裏口攻撃であり、代理勢力は、本体を叩かずに相手の「腕だけを縛る」方法である。
海峡封鎖は、相手の呼吸を止めるように経済の酸素を奪う。ドローン攻撃は、象徴的な一点を刺して心理の均衡を崩す「針」である。
イラン戦争は、まさにこの間接アプローチの典型例だろう。
正面からの全面戦争ではなく、海峡・サイバー・代理勢力・象徴攻撃が複合的に絡み合い、相手の均衡を静かに、しかし確実に崩していく戦いとなっているようにみえる。
