佐々木 れな

習近平率いる中国共産党が2027年に台湾有事を起こすという予測がある。国際政治学を研究する佐々木れなさんは「2027年は人民解放軍建軍100周年。中国は台湾にじわじわと圧力をかけているが、時間をかけてはいられないとも考えている」という――。


※本稿は、佐々木れな『自滅する米中』(SB新書)の一部を再編集したものです。


日中首脳会談を前に習近平国家主席と握手する高市早苗首相

写真=時事通信フォト

日中首脳会談を前に習近平国家主席と握手する高市早苗首相(=2025年10月31日、韓国・慶州[代表撮影])



習近平は台湾に実力行使するか

習近平の頭のなかには、驚くほど多くのメーターが並んでいる。軍事力の整備度合い、経済の安定性、台湾世論の動向、人口の推移、米中関係の緊張、技術格差の広がり――彼はそれらを1つの「ダッシュボード」のように見つめながら、今が動くべき時なのか、まだ待つべきかを計っている。


つまり台湾問題は、単なるナショナリズムや歴史的宿命ではなく、複雑な現実要素が絡み合う“計算問題”として扱われているのだ。


米国パトリック・ヘンリー大学のグレゴリー・J・ムーア教授は、この「習近平の台湾ダッシュボード」を詳細に分析している。


彼によれば、そこには13の主要な指標があり、そのうち11が「時間は中国の味方ではない」と警告を発している。軍事と経済だけは時間を稼ぐことで有利に働くが、他の要素――台湾社会の意識の変化、中国の高齢化、半導体をめぐる地政学、米国の台湾関与の強化、米中関係の悪化など――は、待てば待つほど不利になる“閉じゆく窓”を示しているという。


言い換えれば、習近平にとって「今はまだ早い」という現実と、「今こそ動くべきだ」という心理が、同時に点滅しているのである。


ムーアの結論は明快だ。習近平は単なる思いつきで台湾を狙っているのではない。だが、ダッシュボード上の計器の大半が「待つほど不利」と傾いているため、彼が2027年末までに何らかの“行動”を起こす可能性は高い。その年は人民解放軍に「台湾奪取への準備完了」を命じた期限であり、同時に彼自身の政権延命と評価がかかる節目でもある。


軍事的準備はなお不完全だとしても、時間が味方でなくなるという焦燥感が、慎重さよりも決断を前へ押す力として働くかもしれない。習近平のダッシュボードを読み解くことは、台湾海峡の未来を占ううえで最も危険な針の動きを知ることにほかならない。


台湾有事のシミュレーション

台湾有事について世の関心の中心は、台湾有事が「いつ」来るかにあるが、真に重要なのは「どのように」台湾有事が始まるかということである。


台湾有事を想定したシミュレーションは、ここ数年、ワシントンの有力シンクタンクをはじめとして、世界各地で繰り返し実施されている。東京でも防衛関係者や有識者による机上演習(TTX)が定期的に行われており、台湾有事はすでに国際的な「思考の戦場」で発生している。


ちなみに台湾を研究する中国の学者はこのような軍事シナリオを想定したシミュレーションについて批判的である。中国が台湾を統一する方法は何千通りとあり、軍事シナリオはそのごく一部にすぎないと。