2月18日に召集された特別国会で、衆参両院にて第105代首相に選出された高市早苗首相。Kazuki Oishi/Sipa USA via Reuters
2月8日の衆議院選で圧勝した自民党の高市早苗首相は、労働規制の緩和を模索している。手始めに、「裁量労働制」(※実際の労働時間によらず、労使で事前に定めた時間を働いたものとみなす制度)の見直しを表明する方向のようだ。
裁量労働制は、労働基準法38条に定められた「みなし労働時間制」の1つで、実際の労働時間には関係なく、労使協定で定めた一定の時間を労働時間とみなして、賃金を支払う制度のことだ(編注:高市首相は、この仕組みを導入可能な職種の拡大を進めていく方針を示している)。
裁量労働制を採用するメリットなりデメリットは、職種に応じて異なってくる。一方、その選択のすそ野が広がること自体は歓迎すべきことだろう。どのような分野でも、政府が強い規制を課せば経済活動の活力が失われるのは自明の理だ。
こうした観点で見ると、高市政権が模索する労働規制の緩和は、これまでの「働き方改革」の名の下で進んできた労働規制の強化の揺り戻しだ。
時代は常に揺り戻るものだし、もっと給料が欲しいから働きたいという素朴なニーズに応えることも、また重要なことだろう。
メンバーシップ型の雇用がいまだ根強い日本では、労働規制の緩和そのものに関して否定的な印象を持つ人は少なくない。そういう人は、日本とは真逆に、2026年4月施行の「雇用権利法」の下で労働規制を強化するイギリスに好感を持つかもしれない。
ただし、ここには厳しい現実と学びがある。
労働規制の強化で労働者の権利が守られるという期待とは裏腹に、実際は、雇用情勢の悪化が進むとの懸念が高まっているからだ。

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日本と真逆、イギリスが進める「雇用権利法」に学ぶ
イギリスの首都ロンドン市内の風景。Shutterstock
雇用権利法は、大きな流れとしては、労働者の権利と使用者の義務の双方を拡大するという、典型的な労働規制強化を目指す法律である。これは、2024年7月の総選挙で地滑り的に勝利した、労働党のキア・スターマー首相にとっての肝煎政策のうちの1つとなる。2025年末に国会で成立し、2026年4月より段階的に施行される予定だ。
主なポイントは以下の2点だ。
(1)解雇権の制限
まず解雇規制の強化として、使用者の解雇権の制限がある。これまでイギリスの使用者は、就労が2年未満の労働者に対しては、基本的に解雇権を行使できた。それが6カ月へ短縮されることで、企業は解雇しづらくなり、雇用整理にブレーキが掛けられることになる。また解雇に当たり使用者が支払う補償金の上限も撤廃される。
当初、この使用者の解雇権制限に当たっては、労働者の勤務の初日からの適用、つまり解雇権を強力に制限しようという議論されていた。しかし使用者である経済界の強い反発を受けて、6カ月への短縮という決着となった経緯がある。解雇権の濫用は問題だし、不当解雇は許されざる行為だが、一方で解雇権が制限されれば、使用者は極めて慎重に労働者を採用せざるをえなくなる。
(2)経営不振の「整理解雇」の規制
また整理解雇(経営不振による人員削減を目的とした会社都合の解雇)に対する規制も強化される。イギリスでは同一の事業所で20人以上の整理解雇をする場合、労使で協議をすることが義務付けられている。協議の義務に違反した場合、これまでだと使用者に対し、裁判所が90日分の手当てを労働者に支払うよう命じることが可能だったが、これが180日分と倍増される。
それ以外にも、就労形態の多様化、例えば就労初日からの時短勤務や在宅勤務の適用を認めるといったように、労働党らしく、使用者の権利を制限し、労働者の権利を拡大することを重視する内容となっている。ただし、ここで問題となってくるのが「使用者のコスト負担の増大」だ。そして、それを嫌気した企業が採用を手控えることである。
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雇用を守ろうとしたら、企業は真逆に動いたイギリス
