訪日外国人客数は4000万人を超え、今や観光産業は日本経済の柱であるが、オーバーツーリズムなどの問題が出てきた。一方、地方の多くが少子高齢化や人口減少から疲弊している。政府は観光地を分散させ「量から質へ」「都市から地域へ」と転換を図ることで、2つの問題を同時に解決しようと考えている。
旅行者のなかには日本の「日常」に価値をみいだし、生活に溶け込むような旅を志向する人が増えている傾向もあり、地方分散も進みそうなものだが、意外にも成功事例は多くない。この解けそうで、解けない難問に挑むのが、和歌山市の雑賀崎、田野地区だ。2025年、和歌山市とForbes JAPANがこの課題解決のために経験豊富な有識者たちを招聘し、地域住民とワークショップを通じて対話を重ねながら、まちの10年後の未来像を描く取り組みが始動した。そして、協力してもらえる仲間を増やすため、2026年1月29日和歌山市主催のもと、東京都港区の港区立産業振興センターで「わかやま潮騒サミット」を開催した。
テーマは「可能性」「勝ち筋」「実現化のプロセス」の3つで、有識者がそれぞれの視点から議論を交わした。モデレーターを務めたForbes JAPAN編集長・藤吉雅春の言葉を借りれば、このサミットはまさに公開“編集会議”だ。本稿では、前編で地域の可能性と勝ち筋を、後編で課題解決に向けた環境整備を追う。では、「静かな日常が、心を動かすまち」に向けた編集会議は、どのように展開されたのか。
和歌山市の雑賀崎、田野地区は、JR和歌山駅からわずか9キロ、車で20分ほどの小さな漁師町。風光明媚な景観から、1950年には日本一の新婚旅行地として脚光を浴び、多い時にはこの周辺地域だけで年間宿泊者数が350万人に達したともいわれている。ところが、平成、令和と時代が移ろうなかで、1985年をピークに周辺地域での宿泊者数は3分の1にまで減っており、賑わいのシンボルだったホテルのいくつかは廃墟化している。さらに過疎化も進み、2025年の雑賀崎地区の人口は約900人で高齢化率は50.3%、田野地区も約400人で63.4%と、限界集落とまで言われるようになった。漁業の後継者不足や空き家の増加も相まって、いま、その未来が危ぶまれている。
雑賀崎の街並み(すり鉢状の急峻な斜面にある集落の景観から「日本のアマルフィ」と呼ばれている。)
田野の街並み(環境省選定「快水浴百選」に認定された“浪早ビーチ”があり、磯遊びやバーベキューが楽しめる。) 漁師から直接購入できる「はた売り」
こうした悲観的な内容が並ぶなか現地視察を行った識者からは、この地区の魅力の豊富さには「驚かされた」という声があがった。なかでも、印象的だったと口を揃えるのが地元で「はた売り」といわれる雑賀崎漁港の船上販売。その日に水揚げされたばかりの魚を漁師から直接購入できる。特産品の足赤エビや鯛、ヒラメなどが並び、新鮮で価格も手頃とあって、地元住民だけでなく、各地から人が集まる。
漁港に戻った船から獲ったばかりの魚を直接購入できる「はた売り」多い時で30隻の船が並ぶ「はた売り」
文=古賀寛明 編集=川上みなみ 写真=加藤史人
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