石けんの泡やシェービングフォーム、ホイップクリームなどの泡、さらにはマヨネーズのようなエマルション(乳濁液)など、泡のような構造は日常生活のあらゆる場面に現れる。これらは肉眼では安定した固体のように見えるが、いずれもミクロスケールでは微小な気泡や液滴が内部に分散した2相の構造をもつ。

こうした微小な構成要素は、無秩序ながらも本質的には固定された位置に閉じ込められており、ガラスと似た性質をもつ──。そうした考えが、これまでの長年にわたる科学的な解釈だった。

そんな従来の科学的な解釈を覆す研究結果を、このほどペンシルベニア大学の研究チームが発表した。湿った泡の内部における気泡の動きをコンピューターシミュレーションで詳細に追跡した結果、泡は全体の形状を保ちながらも内部では絶え間なく動き続けていることが判明したのだ。この挙動を数学的な観点から見ると、人工知能(AI)を訓練するためのディープラーニング(深層学習)の仕組みと酷似しているという。

「泡は絶えず自己再編成を続けています」と、ペンシルベニア大学教授で化学と生物分子工学が専門のジョン・C・クロッカーは説明する。「泡と現代のAIシステムが同じ数学的原理に従っているように見えるのは驚きの発見です。その理由は解明されていませんが、適応性材料や生命システムについての考え方を根本から変える可能性があります」

AIが発展する過程で得られた知見

従来の理論では、泡の粒子はエネルギー地形(エネルギー状態を座標の関数として可視化した概念)を転がり落ちる岩のように振る舞うと考えられてきた。つまり、粒子は維持に必要なエネルギーが最も少ない位置へと移動し、谷底に到達するとそこに留まるというモデルだ。

この理論的な枠組みは、泡が一度形成されると安定して見える理由をうまく説明できていた。ところが実際のデータを調べると、泡の挙動はこうした予測と一致しなかったのだ。

クロッカーによると、不一致の兆候は約20年前から現れていたが、当時は現象を適切に説明できる数学的な手法が存在しなかったという。固定された配置に落ち着くことなく変化し続けるシステムを記述するためには、まったく新しいアプローチが必要だったのだ。

そこで研究者たちが着目したのが、AIの学習プロセスから得られた数学的な知見である。現代のAIシステムは訓練中、数値パラメータ(AIが“知っている”ことを定義する情報)を継続的に調整することで学習している。

なかでもディープラーニングは勾配降下法という最適化アルゴリズムに基づいており、誤差を減らす方向へとシステムを段階的に導いていく。これは地形の下り坂を進むような動きに相当する。

最適解を避けるという逆説

ところが、初期のAI研究では、科学者たちは訓練データと完全に一致する単一の最適解へとシステムを導こうとしていた。だが研究が進むにつれて、モデルを最も深い谷底へと押し込み過ぎると問題が生じることが明らかになった。訓練データに過度に適合したシステムは脆弱になり、新しい情報に対する性能が著しく低下したのだ。

「システムをとことん深い谷に押し込む必要はないことがわかりました」と、ペンシルベニア大学のロバート・リグルマン教授は説明する。「多くの解が同等に機能する平坦な領域に留めておくことが、モデルの汎用性を高める鍵だったのです」

この視点から泡のデータを再検証したところ、明確な類似性が浮かび上がってきたという。泡の粒子は深く安定した位置に落ち着くのではなく、多数の配置が等しく可能な広い領域を動き続けていたのだ。

この継続的な動きは、現代のAIシステムが学習中に示す振る舞いと数学的に酷似している。ディープラーニングの仕組みを説明する数学の概念は、はるか以前から泡が示してきた挙動も正確に捉えていたのだ。

泡の動きを捉えた顕微鏡写真の早回し映像。

Video: Crocker Lab数学的な意味での学習

この発見は、広義の「学習」という概念が数学的には物理系や生物系、計算系に共通した組織化の原理である可能性を示唆している。泡は生成や観察が容易でありながら複雑な挙動を示すことから、生きた細胞のように高密度で動的な材料を研究するモデルとして、長年にわたって利用されてきた。今回の成果が、周囲の環境に適応する新たな材料の開発につながることも期待される。