トップニュース半導体最強の台湾が直面する「AIの壁」 GPUはあるがデータがない?主権AIを阻む「繁体字」のジレンマ
デジタル発展部は現在、「データイノベーション利用促進発展条例」草案を推進している。これは法的インセンティブを通じて政府のオープンデータの質を強化し、官民連携による恒常的なデータ共有メカニズムの構築を目指すものである。(資料写真:顔麟宇氏撮影)
台湾では「AI基本法」による法的枠組みが確立され、AI社会実装のフェーズへと正式に移行した。しかし、条文上の整備から真の技術的自律、そして社会的な公平性を実現するまでには、依然として多くの課題が横たわっている。ハーバード大学ケネディスクールの研究員、朱宸佐(しゅ・しんさ)氏は、計算資源(算力)やデータ主権、現地での監査能力を確保する「主権AI(Sovereign AI)」の構築が世界的な戦略トレンドになっていると指摘する。その一方で、台湾独自の国産大規模言語モデル(LLM)である「TAIDE」などを推進する過程において、学習に不可欠な「繁体字データの不足」と「計算資源の配分」という構造的な欠陥(ボトルネック)を克服する必要があると警鐘を鳴らす。
文化的な壁:圧倒的に少ない「繁体字」データ
朱氏の分析によれば、主権AIの核心は、その国の多元的な文化的価値を反映できる学習データ(コーパス)を保有しているか否かにある。台湾のAI基本法第13条では、政府によるデータの開放と共有メカニズムの構築が求められている。しかし、現実には英語や簡体字に比べ、繁体字の学習データは圧倒的に少ないという先天的な劣勢に立たされている。朱氏は「データ量の不足や誤りは、AIモデルの出力結果に偏見(バイアス)をもたらす」と直言する。さらに、民間企業やメディアが保有する良質なデータについても、著作権料やライセンス契約などの商業的なハードルが、データ統合の進捗を阻む要因となっている。
インフラの壁:半導体強国でも「算力」は課題
この課題に対し、台湾のデジタル発展部(デジタル省)は「データ・イノベーション促進条例」草案の策定を進めている。法的インセンティブを通じて政府データの質を高めると同時に、官民協調による持続的なデータ共有メカニズムの確立を目指すものだ。朱氏は、AI基本法第13条に基づくデータガバナンスを徹底し、知的財産権と国家的価値を守りうる学習データの確保こそが、台湾の主権AIを実効性あるものにする鍵だと強調する。
データと並ぶもう一つの重要資源が「計算資源(コンピュートパワー)」だ。ある財団法人のCEOを務める張麗卿(ちょう・れいけい)氏は、AIサービスには現地で監査可能な計算環境(ソブリンクラウドなど)が不可欠だと指摘する。台湾は世界有数の半導体製造能力を持つが、国家レベルでのGPUリソースの配分においては、国際的な巨大テック企業と比較して遅れをとっているのが実情だ。張氏は「インフラの国有化とフレンド・ショアリング(友好国とのサプライチェーン構築)の並行」を提唱。計算資源の自律性を強化しつつ、信頼できる国々とAIエコシステムを構築することで、地政学的リスクによる供給網の分断に備えるべきだとしている。
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朱氏もまた、「これは技術の問題である以上に、信頼の問題だ」と述べる。AI基本法第12条が国際協力を推進している背景には、計算資源、重要部材、ファームウェア開発において国際基準との整合性を保ち、安全保障と開放性の間で戦略的なバランスを取る狙いがある。

実戦大学講座教授兼財団法人人工知能法律国際研究基金会執行長の張麗卿氏は、AIサービスには現地で監査可能な計算環境が必要であり、台湾には半導体の優位性があるものの、国家レベルのGPU資源配置では国際的大手と依然として差があると指摘した。(写真はFacebookページ「財団法人人工知能法律国際研究基金会」より)
法治のラストワンマイル:デジタル弱者をどう守るか
法整備の最終段階において、AIガバナンスの核心的指標となるのが「社会的公平性」と「弱者保護」だ。張氏は、デジタル弱者への保護が単なるスローガンに終わらないよう、「原則」「手続き」「救済」の三位一体で実装すべきだと主張する。
原則面: AI基本法第4条に基づき、社会的公平性とデジタル格差の解消を義務付ける。手続き面: 金融機関の与信スコアリングや医療診断など、個人の権利に重大な影響を与える「高リスクAI」については、「ブラックボックス化」を許容しない姿勢が重要だ。張氏は、偏差の検知、記録の追跡可能性(トレーサビリティ)、そして「人間による再審査(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」の仕組みを必須とし、当事者が異議申し立てや訂正を要求できる権利を保障すべきだとする。救済面: AIの導入による非自発的な失業や労働権益の侵害に対し、AI基本法第15条は政府による再就職支援を規定している。
張氏は総括として、第17条で高リスクAIの責任の所在を明確化し、具体的な救済・補償メカニズムを構築することでのみ、抽象的な倫理規定が制度上の義務へと昇華されると指摘。「AI時代の進歩が、デジタル弱者の犠牲の上に成り立つものであってはならない」と結んだ。
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