いまの地政学的な出来事は、わずか数分の動画に圧縮されてしまう。従来のメディアを凌駕しているソーシャルメディアは、制作や拡散のスピードだけでなく、わたしたちの「現実認識」をかたちづくる力においても勝っている。人々は、重大な世界的出来事が起きてから数時間、あるいはそれ以下の時間で、「この出来事で何が起き、なぜ起きたのかを完全に理解した」という錯覚を抱く。しかし、現実ははるかに複雑だ。
1月3日(米国時間)の未明、米国はベネズエラを攻撃した。そのとき、カラカスの空には爆発音が轟いた。キューバ大統領ミゲル・ディアス=カネルは、 米国の介入によりキューバ兵32人が戦闘で死亡したことを認めた。『The New York Times』の報道によると、そのほかの軍人や民間人を含め、少なくとも80人が死亡したという。さらに、この攻撃の一環としてベネズエラ大統領ニコラス・マドゥロは拘束され、麻薬テロ共謀などの罪で裁かれるため、ニューヨークへ移送された。
数時間後、米大統領ドナルド・トランプは、自身が「満足できる政権移行」が実現するまで南米のこの国を統治すると述べた。同時に、米国の石油企業がベネズエラの石油産業を再建すると語った。その後、カラカスからベネズエラ副大統領デルシー・ロドリゲスはマドゥロの解放を要求し、「この国は二度と、いかなる帝国の奴隷や植民地にもならない」と主張した。一方、マドゥロは拘束後に移送されたブルックリンのメトロポリタン拘置所で夜を過ごしていた。
米国によるラテンアメリカ諸国への直接的な軍事介入を、多くの人々は過去のものだと思っていた。しかし、この攻撃はその時代を再び世界に呼び戻した。そしてその現実は、TikTokで目にするものとはまったく異なる形で進行している。
デジタル時代における「事実」の崩壊
『WIRED』は、メキシコ国立自治大学(UNAM)の心理学研究者であり、人文・科学学際研究センターの学術事務局長を務めるフリオ・フアレスに、現代のデジタル世界において「情報を出典で検証する」という慣行の崩壊がどのように起きているのかについて分析を依頼した。
「従来のメディアが情報を検証するために必要としていた時間は、ソーシャルメディア時代のスピードに飲み込まれてしまいました」とフアレスは語る。「ベネズエラ攻撃に関する最初の報告の段階から、ソーシャルメディアは単に異なる視点を伝達する巨大な拡声器として機能しただけでなく、“現実そのもの”を構築する役割を果たしました。これは、デジタル・コミュニケーションが最優位に立つ時代を示しています。つまり、何が起き、なぜ起きたのかを(デジタル・コミュニケーションが)規定するのです。ドナルド・トランプのナラティブは偶然ではありませんでした。それは正当化のための実践であり、世論を二極化させるものでした。今日の市民は、熟慮よりも即時的な反応を引き起こすよう設計された環境のなかで、批判的判断力を行使しなければならないという課題に直面しています」
トランプは攻撃後、自身のTruth Socialのアカウントで米国が「ベネズエラに対する大規模攻撃」を成功裏に実行したと発表した。マドゥロは妻のシリア・フローレスとともにヘリコプターで拘束され、国外へ連行された。ふたりは軍用機で米国の艦船に移送され、その後グアンタナモ基地へ運ばれ、そこからニューヨーク行きの航空機に搭乗した。夕方にはニューヨークに到着した。
地図や風刺を用いて歴史を解説するスペイン語のInstagramアカウント、Historia Para Tontos(「バカのための歴史」)は、2026年初頭の地政学的緊張を一本の短い動画に凝縮して描いた。動画では、楽観的なメキシコが新年の到来を祝う一方で、帝国的なアメリカを擬人化した存在がこう豪語する。「世界の安全のために、ベネズエラを爆撃し、マドゥロを捕らえたところだ」。オチはアメリカ例外主義への痛烈な批判であり、そのキャラクターは続けて「そして、世界とはつまり俺のことだ」と言い放つ。
