公開日時 2026年01月07日 05:00

ベネズエラ攻撃 石井 正文(りそな総合研究所理事) 「米国の時代」 終わり加速 中・ロに居直り余地も
石井正文・りそな総合研究所理事

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琉球新報朝刊

 米国のベネズエラへの軍事攻撃とマドゥロ大統領夫妻の米国移送については不明なことが依然多いが、現時点で論点を整理してみたい。
 まず米国は、なぜこのような行動に出たのか。結論から言うと、損得勘定に合う論理的な説明がなく、非常に不可解だ。
 第一に、トランプ政権が昨年末発表した国家安全保障戦略に沿って、西半球で米国の友好国を増やし、この地域への外からの経済的・軍事的関与を排除するのが目的だとする説明がある。だが、あからさまな武力侵攻には「親トランプ」のアルゼンチンのミレイ政権以外の中南米諸国は反対するだろうから、西半球で友好国を増やすことにはつながらない。
 第二に、今回の攻撃は中国のベネズエラ産石油へのアクセスを阻止するためとの見方がある。ただ現在は供給過剰で原油価格も低迷しており、アクセスを奪われる中国が、それほど困るとは思えない。そうなると、トランプ大統領本人が言うように、ベネズエラの石油に対する米国の支配力を強めることが目的だとでも考えなければ、米国にとってのプラス要因が見当たらない。しかしそれが明確になれば国際社会の共感をますます失うだろう。
 次に今後の注目点は何か。まず米国を後ろ盾とする暫定統治と米中間選挙への影響が挙げられる。
 植民地支配は再び認めないとするベネズエラの主張が強固なため、暫定統治はそれほど容易でなく、下手をすれば、米英軍などが23年前に独裁政権を引きずり下ろしたイラクの二の舞いになる。
 少なくとも11月の中間選挙までにベネズエラの統治を正常化させるのは簡単ではない。仮に米軍派遣が行われれば「米国第一」のMAGA派が分裂し、トランプ氏率いる共和党の中間選挙敗北(下院での多数派喪失)がより確実なものとなろう。
 さらなる注目点は、ウクライナ戦争と台湾情勢への影響だ。
 国際法上の評価は事実関係の確認が必要な一方、麻薬取引などの米国内法違反を根拠に主権国家への武力侵攻と元首の拉致を正当化する国際法上の論拠は見当たらない。
 ロシアと中国は既に今回の動きを「国際法違反だ」として批判を強めている。米国が今後、明らかな国際法違反であるロシアのウクライナ侵攻や、将来あり得る中国の台湾侵攻を断罪しても、国際社会の共感を得られないだろうとの打算が中ロ側に働いている。
 換言すると、米国の「力による現状変更」が認められるなら、中ロに「同じことをしても何が悪い」という居直りの余地を与えることになる。それは有事発生の敷居が下がることを意味し、最大の懸念事項だ。
 最後に今回の事態は、米国の「自力」を試すことになる。正否は別として、米国の中南米などへの軍事介入は初めてではない。国際法上の評価は重要な論点だが、国際社会がそれをどれだけ批判するかという点も見過ごせない。
 これまで米国は一方で国際法違反をしつつも、他方で世界最大の対外援助や自国市場へのアクセス供与で、世界の安定と繁栄に貢献してきた。
 今やそれらの「善行」は見られない。そうした中、今次攻撃への国際社会の批判は従前以上に厳しくなり「米国の時代」の終わりがさらに早まりかねない。これは日本にも大変深刻な問題である。(1面に関連)

 いしい・まさふみ 1957年広島市生まれ。専門は外交・安全保障。外務省入省後、国際法局長、北大西洋条約機構(NATO)日本代表、駐インドネシア大使を歴任。