京都市京セラ美術館(京都市左京区)で、特別展「日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970」が2月7日から開催されます。

戦後、伝統と革新のはざまで揺れる日本画界において、京都では若き画家たちによる前衛的な試みが始まりました。本展では、1940年代以降に結成された3つの美術団体である創造美術、パンリアル美術協会、ケラ美術協会を中心に、日本画の枠を問い直し、新たな表現を模索した気鋭の若手画家とその軌跡を紹介します。

本展を通じて、京都画壇の批評精神と創造性に着目し、現代へと連なる日本画のもうひとつの系譜を紐解きます。本展ではこの戦後京都で生まれた日本画の反骨的創造運動を「日本画アヴァンギャルド」※として総称し紹介します。

※「アヴァンギャルド」という言葉は、フランスにおいて19世紀半ばに文化芸術的な用法として広まり、急進的な芸術家たちを指すようになったものです。その後、過去の伝統を見直し、革新的なものを目指す運動全般を広く示すようになりました。

特別展「日本画アヴァンギャルド KYOTO 1948-1970」

会場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ(〒606-8344 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124)

会期:2026年2月7日(土)~5月6日(水・祝)
※会期中一部に展示替えあり
(前期:2/7~3/1、中期:3/3~4/5、後期:4/7~5/6)

開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は開館)

観覧料:
一般1,800円、大学・専門学校生・高校生1,300円、ペア券3,200円(一般のみ)
※中学生以下無料
※障がい者手帳等の提示により本人および介護者1名無料
※学生料金での入場には学生証が必要

問い合わせ:京都市京セラ美術館 TEL.075-771-4334

アクセス:
地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約8分
京阪電車「三条駅」から徒歩約16分
市バス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ
市バス「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」下車すぐ

詳細は、京都市京セラ美術館公式サイトまで。

本展について(本展担当:森光彦学芸員コメント)

京都は、近代日本画を牽引する文化的中心地のひとつとして発展し、多くの優れた日本画家の輩出の基盤となってきました。

しかし戦後になると、旧体制の反省の風潮のなかで、伝統文化としての日本画への批判の声が高まり、既存の権威や制度への反発からも「日本画を滅ぼすべし」という主張も見られるようにもなり、日本画に逆風が吹きます。

そうしたなか、京都画壇では日本画の枠組みを見つめ直し、継承/革新を模索して前へ進もうとする「前衛日本画」の運動が1940年代以降に活発化していくこととなりました。戦後を担う気鋭の若手画家たちがその中心となり、同志が集まり意欲的な美術団体が結成されます。京都という日本画制作の中心地にいたからこそ、旧態依然とした日本画を身近に批判することができ、日本画の将来を創造する底力を見せることができたといえます。京都市立絵画専門学校、のちの京都市立美術大学(現在の京都市立芸術大学)もまた、同世代の日本画家たちをつなぐ場となり、前衛運動の基盤となりました。

大野俶嵩《緋 No.24》1964年、京都市美術館蔵 (通期展示)
みどころ
1.戦後日本のスター日本画家30名超が集結

上村松篁(1902-2001)、堂本印象(1891-1975)、秋野不矩(1908-2001)など日本画の常識を覆すような表現に挑んだ精鋭たちは、今や現代日本画を語る上では外すことのできない巨匠に。彼らが若き日々を過ごし活躍の中心であった京都から、戦後の日本画の歴史と動向を総覧します。その他にも岩田重義(1935-)、三上誠(1919-1972)、下村良之介(1923-1998)等が出展予定です。

2.復興期・京都の熱狂

日本画界に巻き起こった「アヴァンギャルド」を戦禍の爪痕が残る京都の社会とともに振り返ります。創作への意欲と情熱に燃えた芸術家たち。その作品には街や社会の変化が大きく反映されました。戦後の社会状況を示す資料も併せて鑑賞し美術業界で奮闘した作家たちへ思いを巡らせることができるでしょう。

3.これが日本画?

日本画アヴァンギャルドでは、既成の「美しさ」をくつがえす、自由で挑戦的な表現が多数誕生しました。「余白の美」「墨」「岩絵具」などの<伝統美>など、これまでの日本画のイメージを塗り替える作品が目白押しです。私たちの想像を超える作品に触れることで、「こうきたか!」「これは日本画?」と、思わず目を見張る経験となるでしょう。

野村久之《Sanctuary》1960年、京都市美術館蔵 通期展示
本展で主に紹介する美術団体
創造美術(1948年創立-現在は創画会として存続)

「我等ハ世界性に立脚スル日本絵画ノ創造ヲ期ス」(会の綱領)
世界性に立脚する日本絵画の創造を標榜し、東京と京都の意欲的な日本画家が呼応して結成された在野団体。既存の画壇から脱却し、自由にして純粋なる環境を求めました。本展で主に展示するのは、上村松篁うえむらしょうこう、菊池隆志きくちたかし、向井久万むかいくま、奥村厚一おくむらこういち、秋野不矩あきのふく、沢宏靭さわこうじん、広田多津ひろたたづら京都側の創立委員。

向井久万《浮游》1950年、泉佐野市立歴史館いずみさの所蔵 (前期展示)
パンリアル美術協会(1949年創立-2020年解散)

「吾々は日本画壇の退嬰的アナクロニズムに対してここに宣言する。眼玉を抉りとれ。四畳半の陰影にかすんだ視覚をすてて、社会の現実を凝視する知性と、意欲に燃えた目を養おう。」(パンリアル宣言)

京都市立絵画(美術)専門学校日本画科の卒業生が中心となって発足した前衛団体。意欲に燃える若手画家たちが、戦後の革新的運動として起こした。「パン」は「汎」を表し、「リアル」は「リアリズム」の意で、社会の現実を反映させながら、抽象表現や先端的な西洋美術を取り入れて日本画の再起を目指した。本展では創立会員である三上誠みかみまこと、山崎隆やまざきたかし、星野眞吾ほしのしんご、不動茂弥ふどうしげや、大野秀隆おおのひでたか(俶嵩)、下村良之介しもむらりょうのすけなどを展示します。

三上誠《灸点万華鏡1》1966年、福井県立美術館蔵 (後期展示)
ケラ美術協会(1959年創立-1964年解散)

「20世紀後半は宇宙時代だ。地球上の争いのごときは、宇宙からみれば夫婦げんかにすぎない。ましてや日本の、しかもこの中の画壇の動きに至っては、まるで大海に浮かぶ水泡のようなものだ。われわれはこのような画壇の因襲を強烈な情熱で打破せんとする。」「その反抗を通じて、真にユニークな絵画を創造することだ。われわれは宣言する。」(宣言書)

京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)日本画科出身の若手画家らによって結成された前衛団体。グループ名の「ケラ(Cella)」は、ラテン語で「細胞」や「単位」を意味する言葉で、「細胞が分裂し、拡大するように、この運動があらゆる人たちに賛同される」という願いが込められている。「日本画」の概念にとらわれることなく、より広い視点から「真に創造的な絵画」を生み出すことを目指した。日本画の顔料だけでなく、油絵具やエナメル塗料、ビニール塗料、墨汁、ペンキ、さらには漆、蝋、石膏、布、ゴム、泥、ムシロ、石なども画材とした。本展で主に紹介するのは、創立から活躍した岩田重義いわたしげよし、楠田信吾くすだしんご、久保田壱重郎くぼたいちじゅうろう、榊健さかきけん、野村久之のむらひさゆきなど。

榊健《Opus.63-4》1963年(1990年再制作)、京都市美術館蔵 (通期展示)

戦後の京都で、日本画家たちは伝統を受け継ぎながらも、その枠組みを大胆に乗り越えようとしていました。本展では、創造美術、パンリアル美術協会、ケラ美術協会という三つの団体を軸に、そうした前衛的な試みの代表作が一堂に会します。岩絵具や墨はもちろん、漆や石膏、ゴムや泥といった異素材までを取り込んだ作品群からは、「日本画」の可能性を極限まで押し広げようとする気迫が伝わってきます。激動の戦後社会を背景に、京都の画家たちがどのように現実を見つめ、新しい絵画のかたちを切り拓いていったのか、その軌跡を一望できる意欲的な展覧会として要注目です。(美術展ナビ)