50代の産婦人科医が2009年に過労自殺した事件を巡り、遺族が勤務先の長門総合病院(山口県長門市)側に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が12月24日、大阪高裁(長谷部幸弥裁判長)で言い渡された。請求を棄却した一審・神戸地裁判決を覆し、病院を運営する山口県厚生農業協同組合連合会に対し、遺族2人に計約1億5000万円の支払いを命じた。判決では、医師にかかっていた心理的負荷について、労災認定基準において精神障害の発症原因となり得る「強」の段階に至っていたと認定、業務と自殺との間に因果関係を認めた。

 遺族は、「産婦人科の業務の特殊性の周知につながり、産婦人科の医師たちの労働環境の見直し改善の布石となることを願っている」とのコメントを公表した。

 病院側は、「判決で、こちらの主張が通らなかったことは残念だ。上告するかどうかは判決の詳細を把握した上で判断する」と答えた。

自院に入院中も分娩や手術に対応

 50代産婦人科医は当時、医師として約25年の経験を有していた。1999年から長門総合病院に勤務。同院の病床数は当時は305床(現在は260床)で、産婦人科医は2人のみだった。

 遺族は、2011年3月に労災申請、不支給・再審査請求等を経て、2019年5月に労災不支給決定を取り消す判決が出ていた。その後、病院側に2020年5月に約1億7200万円の損害賠償を求めて提訴、2024年12月の神戸地裁では請求を棄却(『労災認定・死亡の産婦人科医遺族の請求を棄却、神戸地裁』を参照)。遺族は判決を不服として控訴していた。

 遺族は、カルテは当時電子化されていなかったが、カルテの記載内容等から、死亡前7カ月の時間外労働時間が、月に最低でも79時間26分、最大で122時間20分に及び、産婦人科医が高血圧で入院している間も、分娩や手術に従事せざるを得ない現状があったと問題視。しかし、神戸地裁判決では、パソコンへのログイン記録や出退勤記録など客観的な証拠以外には時間外労働は認めず、最大でも73時間52分にとどまるなど、産婦人科医の業務が量的・質的に過重ではないと判断し、遺族の請求を棄却した。

 高裁では、▽被災者の時間外労働時間について、どのような証拠からどのような時間を認定するの か、▽常勤医が2人しかいないことによる心理的な負荷をどのように評価するのか――などが争点になった。

 高裁判決は、産婦人科医の精神障害の「発病前おおむね6カ月」について検討。カルテや分娩記載台帳など様々な書類を参照し、パソコンのログイン記録等に表れず、時間外勤務命令票にも記載されていないものがあったと認めた上で、2008年から2009年の年末年始をはさんだ13日間、2日空けての20日間の連続勤務のほか、月80時間以上の時間外労働の月があったり、自院に入院中も分娩や手術で通常に近い業務をしていたことなどを挙げ、精神的負荷の強度は総合して「強」と認定。病院は、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する安全配慮義務を負っていたにもかかわらず、怠ったと判断した。

 遺族は、「普通のお産でも常に危険をはらんでいるという、産婦人科の業務の特殊性を、少しでも周知されればと思っております。それにより、今後、産婦人科の医師たちの労働環境の見直し改善の布石となり 心身の負担の軽減、精神衛生上の改善の一助となることを願っております。 すべては、産婦人科の患者さんやそのご家族の安全安心な医療体制の確保につながることと信じております」とのコメントを公表した。