キーウ(CNN) 米国のドナルド・トランプ大統領とウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統による混乱した米大統領執務室での記者会見の直後、ウクライナ首都キーウの上空から一斉に安堵(あんど)のため息が漏れたように思えた。

ウクライナの国会議員ヤロスラフ・ゼレジニャク氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「良いニュースもある。彼らは争わなかった」と反応した。

2月の米大統領執務室での口論のような正面衝突は回避された。

オレクサンドル・メレシュコ議員はCNNの取材に対し、「もっとひどい展開を予想していた。口調が変わった。トランプ氏は否定的ではなかった。大統領らは互いに慣れてきた印象だ」と語った。

米・ウクライナ議員連盟の副代表を務めるマリアン・ザブロツキー議員は「欧州のパートナーたちの支援には非常に感銘を受けた。皆があっという間に集まってくれた。休暇を中断した人もいた」と述べた。

こうした発言はすべて、米アラスカ州で行われた米ロ首脳会談後の暗い雰囲気とは対照的だ。

多くのウクライナ人は、今月15日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領のために敷かれたレッドカーペットや空を飛ぶジェット機、プーチン氏が大統領専用車に乗り込む様子を目の当たりにして、米大統領と狡猾(こうかつ)な元KGB(国家保安委員会)工作員との間の「男の友情」が再燃したのではないかと懸念を抱いた。

これに加えて、トランプ氏は18日早朝にSNS「トゥルース・ソーシャル」への怒りに満ちた投稿で、ゼレンスキー氏が「もし望めば、ロシアとの戦争をほぼ即座に終わらせることができる。あるいは戦い続けることもできる」と主張。その直後には、いわゆる「フェイクメディア」による自身のウクライナ和平への取り組みに関する報道を激しく非難する投稿を続けた。米国の指導者は会談前の数時間、不吉なほど不機嫌になっていたようだ。

大統領執務室で会談するトランプ大統領(右)とゼレンスキー大統領=18日、米ホワイトハウス/Kevin Lamarque/Reuters
大統領執務室で会談するトランプ大統領(右)とゼレンスキー大統領=18日、米ホワイトハウス/Kevin Lamarque/Reuters

だが、トランプ氏がホワイトハウスから姿を現し、満面の笑みでゼレンスキー氏と力強い握手をかわすと、不安の暗雲はたちまち霧散した。大統領執務室での記者団とのやや混乱したやり取りのなかで、トランプ氏とゼレンスキー氏はお互いに言葉の上で地雷を踏むようなことは避けた。全てはうまくいった。

現在の米政権下で、こうした出来事の様相がこれほど注目を集めているということは多くのことを物語る。

しかし、実態については、答えよりも疑問のほうがまだ多く残されている。

メレシュコ氏は「前線の状況が変化しているのに、休戦も停戦もなしにどうやって和平交渉ができるのか」と問いかける。「状況が変化しているなら、交渉は難しい」

ロシアは14日の夜、ウクライナに向けて140機以上のドローン(無人機)と3発の弾道ミサイルを発射し、1歳半の乳児と15歳の少年を含む少なくとも10人が死亡した。

ウクライナ政府にとって、和平合意の実現は依然としてはるかかなたのようだ。

ウクライナ軍人で芸術家のダビド・チチカン氏の棺を運ぶ儀じょう隊=18日、ウクライナ首都キーウ/Evgeniy Maloletka/AP
ウクライナ軍人で芸術家のダビド・チチカン氏の棺を運ぶ儀じょう隊=18日、ウクライナ首都キーウ/Evgeniy Maloletka/AP

CNNの取材班は18日、キーウの人気芸術家から兵士となったダビド・チチカン氏の葬儀に参列した。チチカン氏は今月に入り、東部の戦線でロシアの無人機によって死亡した。

数百人の友人や親戚、崇拝者、戦友がひざまずき、ひつぎがゆっくりと独立広場へと運ばれるなか、ウクライナの国旗と陸軍機が涼しい朝の風ではためていた。参列した人たちは互いに抱き合い、静かに涙を流す人もいた。

そこで聞こえてきたのは、気まぐれで頼りにならないとされる米政権への不満と憤りだけだった。

葬儀に参列したオレクサンドラ・グリゴレンコ氏は「この戦争で何千人もの人々が亡くなり、私たちは今、ただ裏切られているように感じる」と語った。グリゴレンコ氏はここにいる多くの人たちと同様に、ロシアとの和平の代償としてウクライナの領土の大部分を失う可能性があるという提案に反発している。

最前線での経験もあるマリア・ベルリンスカ氏はホワイトハウスでの出来事を見守りつつ、「要するに私たちは自国の利益を犠牲にして一時的な平和を提示されている。領土を手放し、占領地の何百万人もの人々をロシアに引き渡せば、もしかしたら、長い猶予が得られるかもしれない」と述べた。

次の段階は、トランプ氏とプーチン氏、ゼレンスキー氏による首脳会談だ。22日までに実現する可能性も浮上している。プーチン氏を交渉の場につかせようとする試みは、これまで失敗に終わっている。ゼレンスキー氏は会談の用意があると明言している。果たして会談は実現するのだろうか。

戦争終結に向けてトランプ氏が主導する外交努力全体に漂うのは、この現実離れした米大統領がまたも考えを変えるのではないかという懸念だ。

ジャーナリストのクリスティーナ・ベルディンスキー氏はこう述べた。「私は、こう予測している。ホワイトハウスでは全てがうまくいくだろう。ゼレンスキー氏とトランプ氏の間でも、トランプ氏と欧州諸国との間でも、ゼレンスキー氏とトランプ氏と欧州諸国の間でも。そして、トランプ氏がプーチン氏に電話をかけ、全てがまた100倍も変わるだろう」

本稿はCNNのベン・ウェデマン記者の分析記事です。