POINT
■中国の習近平政権は米国との長期の覇権競争を見据え、トランプ政権4年間を硬軟両様の持久戦で臨む。中国は、国際協調に背を向ける同政権期を国際的な影響力拡大の好機と見る。

■ウクライナ和平の結末が台湾海峡情勢に影響を及ぼす懸念がある。安全保障を巡る米中両大国のディール(取引)を台湾は警戒する。

■▪同盟軽視のトランプ米大統領は、先端半導体産業の「奪還」と防衛費の大幅増を台湾に迫る。中国は、台湾の世論を米国不信に導く認知戦を強めよう。

■日本は、東シナ海や台湾海峡の安定に不可欠な日米同盟維持に努め、欧州等との連携を強化しつつ、中国との関係を安定化させる難しい外交が求められる。

調査研究本部主任研究員

石井利尚

 トランプ政権の再来(2・0)は、日本、中国、台湾の関係にどの程度の変化をもたらすのか。

 2024年12月末、東京都港区の在日中国大使館。日中交流イベントの表彰式(注1)に自民党の森山裕幹事長の姿があった。湖南省出身の呉江浩大使は、同省・長沙市の名誉市民である森山氏を
流暢(りゅうちょう)
な日本語で紹介し、「中日関係を重視する」(呉大使)同氏の長年の功績を称賛した。呉大使は、元卓球選手の福原愛さんらを交えて笑顔で記念撮影に応じた。森山氏は翌月、公明党の西田実仁幹事長と北京で7年ぶりの日中与党交流協議会に臨み、直後に日中友好議員連盟の会長に選ばれた。中国が今、最も頼りにする与党政治家だ。

中国、国際舞台で積極攻勢

 中国は24年から対日接近のシグナルを発信する。習近平国家主席は11月のペルーでの石破茂首相との会談で「戦略的互恵関係を全面的に進め、新時代にあった建設的で安定した関係の構築」を呼びかけた。中国は直後に日本人の短期訪中査証(ビザ)免除の再開と、15日から30日以内への延長を発表。「(日中関係は)改善と発展の前向きな流れ」と語る王毅共産党政治局員兼外相は3月、日中韓外相会談のため20年秋以来となる来日を果たし、6年ぶりに「日中ハイレベル経済対話」が再開した。

 対日融和の理由は、不動産不況などによる内需の低迷や外資離れなど経済の不振だ。もう一つが、最大の輸出相手の米国との貿易戦争に備える国際環境を整えるため。融和の対象は日本だけではない。5年前の国境紛争でインド兵約20人の死者を出した同国とも関係改善で一致、戦狼外交を封印して多くの国との関係改善を急いできた。

 トランプ氏の「米国第一」主義で国際社会の対米不信が増すほどに中国には追い風になる。特に期待するのが米欧の分断、先進7か国(G7)結束の乱れだ。習主席は1月、コスタ欧州理事会常任議長(EU大統領)と電話会談。トランプ政権と距離を置く欧州に対する重視姿勢を鮮明にする。王外相は2月、10日間の外遊で25か国もの外相らと会談し、「世界平和や国際秩序を守る信頼できる国」との印象拡大に努めた。中国は、バイデン前政権期に修復された米欧関係や「対中抑止網」切り崩しの好機ととらえる。習氏が2月、韓国の最大野党「共に民主党」の
禹元植(ウウォンシク)
国会議長を手厚く迎えたのも日米韓連携の足並みを乱す思惑がある。中国は、新興・途上国「グローバル・サウス」などとの「大団結で(西側)小グループを打ち崩す」(王外相)と強気だ。

融和と強硬、対米持久戦の覚悟

 戦後中国は、戦火を交えた米ソを相手に大国間外交をくぐり抜けてきた。総合国力で米国に及ばない中国は「何らかの妥協を強いられる覚悟」(日中外交筋)はしている。いかにトランプ政権の通商圧力による景気下押しリスクを減らし、社会の安定と習氏の威信を保つかが目下の課題だ。習政権は、成果を急ぐトランプ氏の足元を見つつ、融和と対決を使い分けて全面衝突は避け、29年の同氏退場を待つ持久戦の構え。当面は米中の「共同繁栄」を訴え、トップ外交での関係打開を模索する。トランプ2・0の「メリットとデメリットは五分五分」(中国当局筋)なのだ。

 中国共産党機関紙「人民日報」は1月、習氏が40年前に訪れた米アイオワ州の旧友が春節(旧正月)を祝う習氏の手紙を受け取るエピソードや、彭麗媛夫人とともに米ワシントン州の学生らに「若者の交流」を呼びかける新年の挨拶状を送った記事を1面で掲載。対米関係改善のメッセージであり、景気が悪い国内で反米排外世論が広がり社会不安を防ぐ狙いもあるだろう。ワシントンのスミソニアン国立動物園では1月、中国が貸与再開を決めたパンダ2頭が披露された。お家芸のパンダ外交は、戦前の蒋介石夫人の宋美齢が米中の抗日共闘を訴えるために贈ったのが第一号だ。

 同時に習政権は対決姿勢も押し出す。2月、米国が10%の追加関税を発表するや、液化天然ガス(LNG)などへの最大15%の追加関税を含む多くの報復措置を発動。3月の第2弾では、大豆や小麦など米農産物を報復対象に加えた。王外相はトランプ関税に「
毅然(きぜん)
と応じる」と強調する。

 「もはや(トランプ1・0の)8年前の中国経済とは違う」。来日した中国の経済学者からは強気の声を聞かされた。中国が絶対に譲らないのは「台湾問題」「民主と人権」「(社会主義)政治路線」「発展の権利」の「四つのレッドライン」(習氏)だ。1月のトランプ大統領との電話会談で習氏は「台湾問題は重大問題。慎重に対応すべきだ」と強くクギをさした。

「西乱」見越す強気の自立自強路線2017年11月、北京の故宮を訪れた(左から)米国のメラニア夫人、トランプ大統領、習近平国家主席、彭麗媛夫人(ロイター)2017年11月、北京の故宮を訪れた(左から)米国のメラニア夫人、トランプ大統領、習近平国家主席、彭麗媛夫人(ロイター)

 中国は米国とのデカップリング(切り離し)を覚悟し、「自立自強(自力更生)」を進める。ロシアや東南アジア、南米、中東やアフリカ外交に力を入れて貿易を増やすのは、食糧・エネルギー調達の経済安全保障のためでもある。対抗関税を課せる関税法を24年末に施行、トランプ1・0の貿易戦争を踏まえた対策を急ピッチで整えた。

 人民日報は3月、習氏の講話を集めた「習近平経済文選」発刊を報じ、改革・開放を進めた鄧小平のような経済優先を打ち出す。習氏は2月、かつて冷遇したアリババ集団創業者の馬雲(ジャック・マー)氏ら著名なIT民営企業家らを集めた座談会を6年ぶりに開催。民営企業の統制から支援へと方針転換を示した。官民総動員での経済立て直しと、人工知能(AI)など米国とのハイテク覇権争いのためだ。AI開発企業ディープシークの創業者・梁文鋒氏や、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)創業者・任正非氏も習氏と対面。米国の制裁で先端半導体供給を絶たれた同社は業績の一時大幅悪化を経て持ち直した「自力更生」の代表企業だ。長女の孟晩舟氏はカナダで3年間拘束されて「
凱旋(がいせん)
帰国」している。

 3月の全国人民代表大会(国会)で李強首相は、AIなどハイテク産業振興に一段と力を入れる方針を表明した。中国共産党理論誌「求是」(1月)は23年の習氏の講話を掲載し、欧米と異なる発展モデル「中国式現代化」が「西側式現代化」を「超越」し、グローバル・サウスなどの「途上国の希望になる」とした。講話で使われた「東昇西降」(東側が発展し西側は衰退する)、「中治西乱」(西側は乱れる)は、トランプ氏による「西乱」をあてこすっているかのようだ。

どうにも気になる盟友プーチン氏

 対米対決で欠かせない習氏の盟友はロシアのプーチン大統領だ。「中露関係の安定性と
強靱(きょうじん)
さで外部環境の不確実性に対応する」。トランプ大統領就任にあわせ、習氏がプーチン氏とのテレビ会談で述べた「不確実性」はトランプ氏にほかならない。会談では、手を振り余裕の笑顔を見せるプーチン氏、笑みを浮かべつつどこか不安感もにじませる習氏。ウクライナを侵略するロシアの継戦能力を支える中国にとって、プーチン政権はエネルギーなどの経済安全保障上も不可欠だ。ロシアのG7復帰を口にしたトランプ氏のプーチン氏接近を中露離間策と警戒していよう。ただ「相手が米国と組む裏切りをともに恐れるものの、米国が狙う中露離間は困難」(中露政治の研究家)ともみられる。

 予測不能を嫌う習氏はトランプ1・0の経験からトランプ氏との対面会談には用意周到に臨むはずだ。習氏は17年春、米フロリダ州の別邸での夕食中、シリアへのミサイル攻撃を唐突に知らされ10秒間沈黙、通訳に聞き返している。同年秋に訪中したトランプ氏を故宮貸し切りの「皇帝待遇」で迎えた。だが、トランプ政権はその後、関与から対決へと対中政策の歴史的な転換を図り、台湾支援も強化される苦汁を飲まされた。習氏の威信にかけて対面会談の「成功」は絶対条件なのだ。

トランプ氏の標的となる「護国神山」「護国神山(台湾の守り神)」の別称を持つ半導体受託製造世界大手、台湾積体電路製造(TSMC)。ロイター「護国神山(台湾の守り神)」の別称を持つ半導体受託製造世界大手、台湾積体電路製造(TSMC)。ロイター

 ともに力を信奉するトランプ、習両氏は「米国を再び偉大な国に」「中華民族の偉大な復興」を掲げる。トランプ氏には、小さな台湾は兵器購入の顧客、半導体で潤う金づる、中国を脅す取引のコマにすぎないのだろう(注2)。台湾の頼清徳総統は24年5月の就任演説で「台湾は民主主義世界のMVPに」と誇った。だが、「民主主義の最前線」、同性婚合法化など「多様性や人権、自由」の台湾の理念はトランプ氏の関心外。台湾の清華大学で
教鞭(きょうべん)
をとる小笠原欣幸・東京外大名誉教授(台湾政治)は「トランプ氏は台湾への関心が薄く、手の内は明かさない。台湾に異常な執着心を持つ習氏は米国の出方をみて台湾を含むディールに持ち込みたい」とみる。トランプ2・0は米中台の力学を変化させ、バイデン政権期に高まった台湾の国際的な優位が揺らぎつつある。

 「護国神山(台湾の守り神)」。米アップルなどに先端半導体を供給して業績絶好調の半導体受託製造世界大手、台湾積体電路製造(TSMC)の別称だ。好調な台湾経済を
牽引(けんいん)
し、外交パワーの源泉だ。創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏(93)は23年まで6年連続でアジア太平洋経済協力会議(APEC)代表を務めた。欧州が台湾問題に関心を寄せるのもTSMCの存在が大きい。

 台湾は米国の貿易赤字相手の6番目。米国の半導体を奪ったと言うトランプ氏は3月、TSMCの魏哲家会長兼CEOと並び、同社による1000億ドル(約15兆円)の巨額対米投資計画を発表した。頼総統は「米台関係の歴史的瞬間」とコメント、同社がトランプ氏の威圧を弱める「守り神」の役目を担わされた形だが、生成AI向け半導体でリードする米エヌビディアなどの顧客が集中する米国シフトはTSMCの一大経営判断だろう。台湾の対外投資先の中心は、かつての中国から今や米国に移った。

「シリコンの盾」は大丈夫か

 ただ、TSMCは、半導体生産を集中させて海外の注意を引き寄せ対中抑止機能を果たす「シリコンの盾」として台湾の安全保障上の切り札だ。世論調査(注3)では「米国進出」反対が支持を上回る。野党系学者やメディアからは「先端技術移転は盾の威力を弱め、(核を放棄した)ウクライナのように見放される」「産業空洞化、雇用にマイナス」「トランプ氏は結局32%もの関税を科した」との不安や批判が上がり、政治論議に発展した。

 確かに台湾の半導体産業は米国に学び発展したが、国連から追放された台湾には1980年代から「国策」として育てた誇りがある。そもそも中国に工場を持つTSMCはトランプ1期目に誘致され、生産コストが割高な米アリゾナ州進出を決定。66億ドルの補助金を決めたバイデン政権が望んだ民主主義の半導体網に協力、先端4ナノ製品生産を始めている。

 米台半導体連合を敵視する中国は「台湾住民は『台湾積体電路製造』が『米国積体電路製造』になるのを心配している。台湾は将棋の駒から捨て駒となるだろう」と
揶揄(やゆ)
し、米国不信論に加勢する。

米国不信論が左右しかねない防衛費

 トランプ2・0は、米国を信頼できない「疑米論」を再燃させた。影響を受けるのが防衛費だ。台湾は過去最高額に引き上げ、徴兵期間を4か月から1年に延長する自衛力向上に努める。頼総統は2月、GDP(域内総生産)比3%以上(現在約2・5%)に増やすと表明。「(同盟国には)より自立し、米国の負担をシェアしてほしい」(シュライバー元米国防次官補)(注4)点を理解しているためだ。

 米国防総省の政策担当次官に指名されたコルビー氏は、ウクライナと中東でなく対中競争に専念すべしが持論。同氏は近著(注5)で「台湾自体に重大な権益があるわけではなく、中国とアジアが重要だからだ」「台湾防衛にコストがかかりすぎれば撤退も選択肢」とする。同氏は3月、対中軍事バランス上、GDP比10%が必要と表明した。

 ところが、トランプ1・0時の蔡英文前政権は立法院(国会)が与党多数の強い政権だったが、現在は、中国との融和を重視する国民党など野党が多数を占める。世論調査(注3)では増額支持47%に対し、現状維持37%、減少すべし10%。つまり増額の賛否は割れ、対米関係を重視する国民党も「米国の言いなりの高価な兵器購入への血税投入」(台湾の元記者)への反発に配慮する。立法院は1月、防衛費を含む予算案全体の1割弱を削減した。「自衛意思がない台湾など守る価値がない」と、トランプ氏の怒りをかうことを安保関係者は恐れる。

トランプ氏と中国、どちらを信じるか

 半導体や防衛費を巡る「疑米論」は、中国が最も広げたいナラティブ(言説)だ。米国は台湾有事をけしかけて兵器を売りつけ、いざ紛争になると捨て駒にされるというもの。世論調査(注6)では、有事での米軍派兵を「信じない」57%が「信じる」30%を上回っている。台湾軍は頼れるのかとの「疑軍論」も一部でくすぶる。24年、中国から資金を受け取り、台湾侵攻の際の内応・武装蜂起を企てたとして退役軍人が起訴された。軍関係のスパイ摘発が目立っている。台湾軍は内戦に敗れて大陸から渡った中国国民党軍が前身。「即座に白旗をあげて抗戦しない疑念」(西側軍事筋)がつきまとう。「(ウクライナ等支援の影響で)米兵器引き渡しの遅れ」「兵役延長に伴う指導教官不足」(台北の関係筋)も指摘される。頼総統は3月、「敵対勢力」と名指しする中国の浸透工作を防ぐため軍事法廷制度の復活を表明、世論の危機意識の喚起に懸命だ。

 米国と軍への二つの疑念は、住民の自衛決意を減じ、防衛費増に二の足を踏ませる。台湾では24年、多数派の野党が立法院の権限を強化して行政権を弱める法案などを次々に強行採決し、頼政権の政策に支障が生じている。反発する与党民進党支持者らは国民党立法委員(国会議員)リコールを開始、野党側も対抗してのリコール投票が行われる見通し。トランプ氏に「巨額な保険料」を払う親米の頼政権を支えるのか、対中融和の野党を信頼するのか、究極の選択になる。「中台対決(関係)の最前線は今や立法院という異常な状況」(中台関係に詳しい松田康博・東大教授)。インフルエンサーらも使う中国によるSNS世論工作に警戒を高める頼政権は、中国の軍事威嚇、トランプ氏の関税攻勢、野党の突き上げを受ける「内憂外患」に置かれている。

ウクライナの結末と台湾有事

 台湾有事リスクをどうみるべきか。ワシントンや東京、台北の安全保障や地域の専門家は武力侵攻の可能性は当面低いとの判断でほぼ一致する。台湾海峡の渡航作戦の難度はもとより、中国経済の不振と、ウクライナでの「ロシア空軍の失敗例などを分析中」(安保関係筋)であり、戦略核ミサイルを運用するロケット軍などに広がる汚職で軍引き締めを優先しているとされるためだ。仮に侵攻したとしても本島の完全制圧にてこずり、「ロシア軍のように多くの死者を出せば政権がもたない」(中国研究家)のを何よりも恐れるためだ。

 むしろ中国の短期的な出方については、福田円・法政大教授(中台関係)の「トランプ政権の予測不能性を利用して米台の離間に注力して米国依存の民進党政権への批判を強める一方、米台関係緊密化のシナリオも警戒、そうならないようトランプ政権内で台湾政策に関する論争を引き起こす宣伝工作や働きかけを展開する可能性もある」(注7)との見通しが現実的だ。ただ、ゼレンスキー・ウクライナ大統領へのトランプ政権の高圧姿勢をみて、ウクライナと台湾の将来を重ね合わせる見方が再び高まる。ロシア有利の結末となれば、南シナ海や台湾周辺で力による現状変更を強行する中国を勢いづかせ、中国が広げたい「今日のウクライナは明日の台湾」の言説が現実味を帯びてくる。

 台湾防衛の意図を明言しない米国の「曖昧戦略」は、中国の武力行使や台湾の「独立宣言」を抑える安全弁の役割を果たしてきたとされる。今はトランプ氏の「意思」という変数も加わる。ある防衛省幹部は「戦争は意思(意図)と能力で遂行されるが、意思は急に変わる」と米中トップの意思を注視する。

東京大学の佐橋亮教授東京大学の佐橋亮教授

 「米中の取引が失敗して、いら立つトランプ氏が台湾問題で挑発的メッセージを出し、中国がそれを甘受できない、あるいは深読みして過剰反応し危機がエスカレートする可能性は排除できない」。そう語る東京大学の佐橋亮教授(米中関係)は「より懸念すべきは、米中の取引に台湾問題が巻き込まれること。米国に新たな条件をのませる、またはそうした動きを発信することだ。『台湾独立』『統一』や武器売却に関する米中の新たな文書の作成が懸念される。中国は、台湾世論など気にもとめないトランプ氏との駆け引きを通じて台湾を動揺させる心理戦を仕掛けられる。ウクライナに冷淡な米国をみて台湾は中国の心理戦に
脆弱(ぜいじゃく)
な状態に置かれる。(現状維持のため侵攻を防ぐ)台湾の意思がくじけることが最も怖い」と語る。

米中台の現3トップが
対峙(たいじ)
する3年余り

 トランプ氏29年、習氏27年、頼氏28年―。米中台3トップの「任期」だ。中国軍創設100年の27年は習氏が戦争準備完了を指示した年とされる。「習氏3期目中の26、27年に行動を何か起こすのでは」「(米台で選挙がある)28年前後に危機が高まる」「トランプ氏退任後の29年以降中国は動く」など専門家からは様々な見立てが出る。ただ、台湾防衛を口にしないトランプ氏も「台湾を見捨てた大統領になることは望んでいないはず」(注8)と見られている。中露との取引材料かもしれないが、トランプ氏は、1・0で立ち上げた日米豪印のクアッド、米英豪のオーカスは有用とみているようだ。「今年は米中は内政で手いっぱい」「トランプ氏の出方が計算できず、有事リスクは短期的に下がる」(中国の専門家)が合理的な見方ではあろう。

 それでも中国は、苦境の経済下でも新年度国防予算が前年比7・2%増と4年連続の7%超え。台湾有事への米軍の介入を抑えようと核戦力の増強を着々と進める。台湾周辺では空母などを動員する海上演習が行われ、昨年12月は海軍と海警船が宮古海峡などで海上封鎖と似た活動を実施した(注9)。事前予告なしの演習も始めた。台湾周辺での「軍事圧力の常態化」(中国当局)で、米インド太平洋軍のパパロ司令官は「大規模演習なのか、攻撃準備なのか見分けがつきにくくなる」と懸念する(注10)。

 海に囲まれた台湾の弱点である海底ケーブル損傷も発生。中国は昨年6月、「台湾独立」を扇動した台湾住民らへの死刑執行も可能とする指針を、9月には国防教育の強化を図る改正法を施行、中国版「有事法制」を整える。ウクライナを教訓に、中国が電撃的な短期決戦を仕掛けるのではとの観測も浮上する。中国は、「強制的平和統一」(松田教授)を目指し、「独立派」頼政権の「懲罰」を口実に「国内法執行」と称する海警船による台湾封鎖やサイバー攻撃などグレーゾーン事態を主にした「威嚇による台湾屈服」の準備を加速させるだろう。中国経済のピークアウトや米国の軍拡加速前の「トランプ氏在任中に台湾の頭越しに話し合いでの決着を(習氏が)考えても不思議ではない」(注11)との見方もある。

孤立する台湾へは安心供与を米中双方との交流を重視する台湾の野党国民党との意見交換は重要になる。写真は、来日した台湾の蒋万安・台北市長(2024年5月)米中双方との交流を重視する台湾の野党国民党との意見交換は重要になる。写真は、来日した台湾の蒋万安・台北市長(2024年5月)盧秀燕・台中市長(25年2月)盧秀燕・台中市長(25年2月)

 中国が期待するのは台湾問題への国際社会の関心低下だ。読売新聞で「台湾有事」の言葉は23年をピークに減少している。台湾の数少ない頼みの綱は、超党派で台湾支持が多い米国の議会と、台湾に親しみを抱く日本の世論だ。日米台の橋渡しをしているのは故安倍晋三・元首相夫人の昭恵氏かもしれない。24年5月の頼総統就任式に出席した同氏は同年12月に米フロリダ州の邸宅でトランプ夫妻と会食、「安倍元首相の思い出話に加え、台湾を含む世界情勢にも話題が及んだ」(注12)という。1月のトランプ大統領就任式に招かれ、2月には台北で再会した頼総統から、トランプ夫妻との会食で台湾を取り上げたことに「台湾の人は感動した」と感謝を示された。

 トランプ2・0で孤立感を深める台湾への安心供与として、日台の災害・防疫、自治体間協力が重要性を増す。防衛予算を左右する最大野党国民党の指導層との意見交換も重要になる。2月に来日した、同党次期総統候補に名が挙がる盧秀燕・台中市長は、日台について「一つの運命共同体。東アジアの平和と安定で非常に重要な役割を担っている」と本紙に語っている。

 東大の佐橋教授も「トランプ氏本人は違うが、政権全体では台湾の地政学、戦略的重要性の認識は共有されている。国際社会の支援や関心が細る不安を抱える台湾にはモラルサポートが必要。日本は台湾海峡の平和と安定が国際社会の利益であるとの発信を様々な場面で続けるべきだ。台湾有事の際にはどんな安全保障の協力ができるのか、民間レベルで議論を深めるのがよい。中国の経済威圧、サイバー攻撃、偽情報の流布を受ける台湾から日本が学ぶべきことの方が非常に多い」と提言する。

試される中国との向き合い方

 3月に来日した王外相は、トランプ政権を念頭に「中日は主要な経済国として」「世界に安定をもたらすべきだ」と呼びかけた。こうした中国の姿勢は首脳対話進展のチャンスに生かすべきだろう。「ガザの人道支援や環境エネルギーなど連携可能」(中国の日本専門家)な分野は少なくない。

 もっとも、別の学者が「中国の強国路線を学んでは」と言い放ったように、本来、大国化した中国にとり日本の重要度は低い。対日接近は「トランプ2・0をにらむ戦術調整」(外務省OB)であり、日米、日台の離間が目的の統一戦線工作としての外交戦略だ。3月に石破首相に王外相が「今年は抗日戦争勝利80周年」と言及したように、「日本は台湾の侵略と植民地化の責を負う」(中国外務省報道官)(注13)と歴史カードで台湾問題関与を減らす圧力を強めていくだろう。習氏は9月の80年記念式典にプーチン氏を招待する。中国は「戦勝国」として米露との連携をちらつかせ、日本の対米、対台湾連携を揺さぶる心理戦を進めるだろう。

 そんな中国にどう向き合うべきか。佐橋教授は「トランプ2・0の対中外交は、日米同盟を固めた上で向き合う従来の効力が利きにくくなる。『バイ(2国)』の発想ではなく、欧州など仲間を結集してマルチで向き合う形を構築すべきだ。『中国に対してどうやる』ではなく、『中国とどうやる』へと変える対中戦略も必要になろう」と話す。

 米中露3核大国が世界の影響圏を協議する。そんな悪夢が語られるほど不透明な国際情勢。駐インド、中国大使などを歴任、60年以上アジア外交をみてきた谷野作太郎氏(88)が「天安門事件(1989年)直後、日本は中国に甘いと散々批判していた米国は大統領補佐官を極秘に訪中させていた。72年のニクソン大統領訪中前のキッシンジャー補佐官の極秘接触と同じで、米国務省を外すホワイトハウス主導の外交をするものだ」と語るように、想定外の米中大国外交の歴史も忘れないようにしたい。外交、防衛、あらゆる事態への心構えが必要なのは間違いない。

●注釈

(注1)日本人が中国での体験などをつづる作文コンクール「第7回忘れられない中国滞在エピソード」(日本僑報社主催、読売新聞社など後援)。「日中の橋渡し役になれれば」をつづった福原愛さんのほか、舛添要一・前東京都知事らが特別賞を受賞した。

(注2)トランプ1期目のボルトン大統領補佐官の回顧録には「(トランプ氏は)米製の油性マーカーの先端を指さして『これが台湾だ』と言ってから大統領執務室の机を指し『これが中国だ』というのがお気に入りのたとえだった」と記している。

(注3)台湾「国防安全研究院」1月発表の調査

(注4)「第6回東京グローバル・ダイアログ」(1月29日)

(注5)『アジア・ファースト』145~149ページ

(注6)台湾「台湾民意基金会」24年11月調査

(注7)『国際問題』2月号「頼清徳政権に向き合う中国」

(注8)『読売新聞』25年1月23日 米チャールズ・カプチャン氏の見解

(注9)『読売新聞』25年1月1日1面

(注10)英『FINANCIAL TIMES』25年2月15―16日

(注11)森聡『中国研究月報』1月号「米次期政権の対中安全保障政策の展望」

(注12)『読売新聞』24年12月22日1面

(注13)明治政府は1874年、台湾に出兵。日清戦争後の下関条約(1895年)で清国が台湾を日本に割譲。

●参考文献・資料

エルブリッジ・コルビー(2024年)『アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略』(文春新書)

松田康博、福田円、河上康博編著(2024年)『「台湾有事」は抑止できるか』(勁草書房)

マイケル・グリーン(2024年)『アメリカのアジア戦略史』(勁草書房)

鈴木隆(2025年)『習近平研究 支配体制と指導者の実像』(東京大学出版会)

菊地茂雄、杉浦康之編著(2025年)『「新たなる戦争」の諸相』(防衛研究所)

中国・新華社通信、台湾・中央通信、英FINANCIAL TIMES紙など報道

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