「世界3大スパークリングワイン」の一角を占めるカヴァの世界を紹介する4回シリーズ。最終回となる今回は、カヴァのふるさと、ペネデスのワイン・ツーリズムの訪問先としての魅力と、現地カタルーニャでカヴァがどのように楽しまれているかをリポートする。
写真:浮田泰幸
取材協力:カバ原産地呼称統制委員会(Consejo Regulador de la Denominacion de Origen CAVA)
人間の塔がご自慢の「特権の町」
ワインはそれが造られた土地で飲むに限る。カヴァの9割が生産されているペネデス地区の観光中心はビラフランカ・デル・ペネデスという古都だ。カヴァ誕生の地、サン・サドゥルニ・ダノイアの南西約14kmにあるこの町は約900年前、バルセロナとタラゴナを結ぶ街道の中ほどに建設された。「ビラフランカ」とは、義務のない、自由な町という意味だ。
ビラフランカ・デル・ペネデスの旧市街入り口に立つミラ・イ・フォンタナルスの記念碑。天使の手にミロのビーナスが載っている
現在の人口は4万人弱。歩いてみると、石畳の舗道、回廊に囲まれた広場、19世紀のモダン建築などが残るチャーミングな町だ。町の精神的な中心と言えるのがカタルーニャ・ゴシック&ロマネスク建築の傑作とされるサンタ・マリア聖堂。毎年8月の終わりから9月上旬には、聖堂前の広場で「フィエスタ・マヨール」という祭りが開かれる。
この祭りの呼び物は「カスタリェース」。カタルーニャ伝統の「人間の塔」で、構成の難易度や高さを競うだけでなく、知恵、調和、力、勇気を表すパフォーマンスである。あいにくわれわれが訪ねたのは祭りの時期ではなかったが、街頭にはカスタリェースに関する表示や彫刻等が随所に見られ、いかに人々がこの伝統を誇りに思っているかが窺(うかが)えた。
塔のモザイク屋根が美しいサンタ・マリア聖堂
カスタリェースの興奮を伝える壁画
ペネデスの銘菓、カタニアス(マルコナ種のアーモンドをホワイトチョコレート等で覆ったもの)の専門店では、カタニアスとカヴァの詰め合わせが売られていた。
郷土の銘菓とカヴァがセットになったパッケージ
街歩きに疲れたので、市庁舎前の広場に面したバルに入った。カヴァを頼むとカンブレール(ウェーター)が気前よくフルートグラスに並々と注いでくれる。その心意気やよし。見ているだけでテンションが上がった。
広場のバルでカヴァを飲んでひと休み
サンタ・マリア聖堂の塔の上からビラフランカ・デル・ペネデスの街並みを見下ろすアーティスティックな“カヴァ・ホテル”で夕食を
ビラフランカ・デル・ペネデスの郊外にSF映画から飛び出してきたような奇抜なデザインの建物が立つ。カヴァの生産者「マスティネル」が2013年に開業した「カヴァ&ホテル・マスティネル」で、波打つ屋根は熟成庫で眠るカヴァを、壁面を埋める円形の窓はカヴァの泡を表しているという。また側面のカーブを描くデザインとモザイクは建築家アントニ・ガウディへのオマージュだ。
造り手としてのマスティネルは1997年、スペイン王女クリスティーナのロイヤルウェディングの公式カヴァにも選ばれた実力派。付属のレストラン「アン・リマ」でクリエーティブな料理とのペアリングが楽しめる。レストランや客室の窓からはブドウ畑越しにビラフランカ・デル・ペネデスのスカイラインが遠望できる。カヴァの世界にどっぷりと浸(つ)かることができる場所というわけだ。
「カヴァ&ホテル・マスティネル」は5つ星。ユニークなデザインは2011年に上海のデザイン博で金賞に輝くなど、高い評価を得ている
「マスティネル エレタ ブルット・レアル グラン・レセルバ 2015」は、カヴァ主要3品種のブレンド。澱(おり)引き前の熟成期間は30カ月。りんごや洋梨の香りにフローラルなトーンが混じる
カタルーニャ語で「いただきます」は「ボン・プロフィット!」と言う。
カタルーニャの郷土料理といえばイカ墨を使ったコメ料理、アロス・ネグロやコメの代わりにパスタを使うパエリア、フィデウアー、あるいはデザートのクレマカタラーナだろうか。豚・羊・牛の精肉、ハモンセラーノ(生ハム)、チーズといった山の幸と、タコ、イワシ(アンチョア=アンチョビ)といった海の幸の両方に恵まれ、調理法においては南フランス、アラブの影響も受けたカタルーニャの食文化は、たとえばオリーブオイルとラードを併用する、肉とシーフードを一緒に使うなど、マルチカルチャーの色合いが濃く、チャレンジ精神に富み、多彩だ。
巨大なパン・コン・トマテ
イワシの酢漬けとトマトのサラダ
そして、今回この連載で取り上げてきたような、レセルバ以上のカヴァなら、パン・コン・トマテ(トーストしたパンに生ニンニクとトマトを擦り付け、オリーブオイルと塩をかけたもの)のようにシンプルなものから、手の込んだ煮込み料理まで多様な料理と合わせることができる。何人かでテーブルを囲むなら、味わい(ブルット/ブルット・ナチューレ)や色(白/ロゼ)の異なるカヴァを2本開けて、どちらがどの料理と合うかを試しながら、食事するのも楽しいだろう。
伝統的な卵料理、エステレーリャス・イ・パタタに焼いたハモンセラーノを載せた素朴ながらも美味しい一皿。ブルットのカヴァとよく合う
カヴァを使ったシャーベット
バルセロナっ子のナイトライフをきらびやかに彩るカヴァ
取材の最後に、バルセロナに立ち寄り、産地に近い大都市でどのようにカヴァが楽しまれているのかを覗(のぞ)いてみた。時は夕刻、正方形に綺麗(きれい)に区画された街区を斜めに貫くように走るディアゴナル通りでは、カフェやレストランのテラス席で夕食前のアペリティフにカヴァのグラスを傾ける人々の姿が見られた。ガウディの「カサ・ミラ」の斜(はす)向かい、メリーゴーラウンドのあるシュールな内装の「レストラン・ガラ」のバーカウンターでは優美なクープグラスにカヴァがなみなみと注がれ、出番を待ち受けていた。華やぎと饒舌(じょうぜつ)の予感……。
「レストラン・ガラ」。店名はサルバドール・ダリの妻の名前から
「オリオル・ロッセール」のカヴァ、ブルット・ナチューレ。シトラスの香り、軽快な飲み口
モダン・カタルーニャ料理の店「ウィンザー」で食事をとった。カリフラワーを3種のフレーバーで食べさせる前菜、ブリーチーズを春巻きにし、ビーツを添えた一皿、さらにアンガス牛のリブを70℃で22時間かけて調理した“ステーキ”と、創意に富んだメニューが続く。ソムリエに頼み、カヴァに絞って、各皿に合うものを注いでもらった。今回の旅を通じて頭に浮かんでいた「カヴァは食事を通して楽しむことができる」という予感が、デザートのレモン風味のメレンゲを食べる頃には確信に変わっていた。
22時間煮込んだリブは口の中でとろける
本連載は今回が最終回です。
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![弾けるスペインの泡、カヴァの世界へ④ | 朝日新聞デジタルマガジン&[and] 弾けるスペインの泡、カヴァの世界へ④ | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]](https://www.walknews.com/wp-content/uploads/2025/03/TFV_001-2-1024x683.jpg)