ツキノワグマの出没が広島県廿日市市内で相次ぎ、市職員や警察署などが対応に追われている。クマの行動範囲が人の生息圏にまで拡大する中、市街地での目撃情報も目立ってきている。県も様々な対策を講じており、専門家らは警戒を呼びかけている。(岡本与志紀)正覚院の防犯カメラに映っていたクマ(広島県廿日市市で)=正覚院提供正覚院の防犯カメラに映っていたクマ(広島県廿日市市で)=正覚院提供 「クマが学校の塀を乗り越えるのを見た」。海岸線に近い住宅街にある県立廿日市高(桜尾)で5月28日未明、通行人から県警廿日市署に通報があった。同校は生徒の安全のために臨時休校とした。クマの足跡などは見つからなかったが、同日朝に付近で「1メートル以上のクマを見た」など、6件の目撃情報があった。

 高校から西に約600メートル離れた同市天神の正覚院では同日午前5時30分頃にクマが境内を歩く様子が防犯カメラに映っていた。菅梅弘順住職(49)は「初めての体験で驚いた。今後、朝の時間帯に来る参拝客も増えるので、懸念を感じる」と話した。 同29日夕にも、同市下平良の国道2号西広島バイパスの側道付近で、クマが出没。近くの市立佐方小は30、31両日臨時休校した。市教育委員会によると、複数の小中学校で一斉下校をしたり、学校職員が通学路を見守ったりと対応に追われている。同署もパトカーでの巡回など警戒を強めているという。◇ 広島県自然環境課によると、県内でのツキノワグマの目撃件数は2015年度以降、平均約650件だが、20年度は1219件と突出。同年度には、自宅の裏で草取りをしていた女性がクマにひっかかれるなど4件の人的被害が生じた。 背景にはクマの生息圏拡大があるという。県が、島根、山口両県と共同で実施している調査によると、3県のクマの生息範囲は1999年度には山地を中心とする約5000平方キロ・メートルだったが、2020年度には約8000平方キロ・メートルまで拡大した。 広島県廿日市市吉和のNPO法人「日本ツキノワグマ研究所」の米田一彦所長(76)は「人口減少に伴って山に近い集落から人がいなくなっていることが大きい。放棄された果樹などを食べるために山を下りてくるクマが増えた」と指摘する。 廿日市市の市街地でのクマの目撃情報は、21、22年度は数件程度だったが、23年度は29件と急増している。市の担当者は「人里への定着を防がないと、いずれ人的被害が出る」と危惧する。 県も人里への定着対策を講じている。自衛組織「クマレンジャー」を01年度に創設し、現在、県内の猟師ら約350人をレンジャーとして認定。地域の見回りやツキノワグマを威嚇して追い払うなどの活動に従事している。また、県は市町の放棄果樹伐採事業に補助金を出すなどしている。 米田所長は「冬眠前の秋が近づくと、さらに出没件数が増える。侵入できないように戸締まりを徹底し、遭遇しても、クマは動くものに反応するので、慌てて逃げ出さずに物陰に隠れるなどしてほしい」と呼びかける。