舞台合評 5月に首都圏で上演された良質の舞台作品について、読売新聞ステージ担当記者が語り合った。「ハムレット」の柿澤勇人(写真・宮川舞子)「ハムレット」の柿澤勇人(写真・宮川舞子)
 山内則史 彩の国さいたま芸術劇場での「ハムレット」は今が旬の柿澤勇人が演じたハムレットが素晴らしかった。当代一のハムレット役者の誕生、ではないだろうか。
明晰(めいせき)
なせりふ、沈黙したときの思慮深い表情、苦悩の深さ、にじみ出る知性と色気。これ以上の適役はちょっと見当たらないほど。

 武田実沙子 「ハムレットに魅力があると、観客はハムレットに感情移入をする」と、演出の吉田鋼太郎が取材で語っていた通り。飾り立てたわけではない舞台装置が役者の言葉を引き立たせていた。 祐成秀樹 「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の芸術監督を蜷川幸雄から引き継いだ吉田。演出6本目にしていよいよ独自色を出し、俳優の肉体によるスペクタクルを作り上げたなと思った。 山内 同時期に上演されたパルコ劇場「ハムレットQ1」は女性がハムレットを演じる異色の配役。吉田羊ハムレットはりりしく、痛快。やはり大変優れた俳優だ。ただ、狂気にあるときに不自然に甲高い声になる演出(森新太郎)はどうだろう。「ハムレットQ1」の吉田羊(写真・加藤幸広)「ハムレットQ1」の吉田羊(写真・加藤幸広) 小間井藍子 作為的で賛否が分かれるところだが、ドイツの劇作家ブレヒトが提唱した「異化効果」を狙ったのでは。写実画的な「ハムレット」に比べて「Q1」はどこか風刺画のような印象を受けた。両作品ともに見応えあり、ヒロイン・オフィーリアの違いも興味深かった。 祐成 絶叫したり走り回ったりして狂気を表現した「ハムレット」の北香那オフィーリア。ドイツの名振付家ピナ・バウシュの作品の一場面を思い出す鮮烈さだった。 武田 「Q1」の飯豊まりえオフィーリアは初々しさを最後まで貫くよう。狂気よりも悲哀に焦点が置かれたことで、胸に迫ってくるような苦しさを感じた。
 山内 文学座「アラビアンナイト」は、五戸真理枝の演出に舌を巻いた。平台四つが基本のシンプルな装置が役者たちの動き、アンサンブルや
扮装(ふんそう)
のちょっとした工夫によって様々な場面にめまぐるしく転変していく。
 祐成 俳優たちが「ごっこ遊び」をするように役を演じたり、自ら舞台装置になったりして「アリババと四十人の盗賊」「船乗りシンドバッドの冒険」など有名な物語を躍動感たっぷりに現出させていく。演劇の原点を見たようだ。