■「新潮」120周年特大号
1904年(明治37年)創刊の「新潮」が120周年の記念特大号を組んだ。総勢60人を超える書き手たちが小説や随筆を寄せている。最高齢の谷川俊太郎さん(92)は「意味の美味」で詩の言葉を摂取する人間の感覚を見つめ、最も若い年森
瑛(あきら)
さん(29)はある名作小説に材を取った「逃走」で正義とは何なのかを問い直した。
600ページ超の言葉のつらなりを眺めていると、10年前の110周年特集で対談していた大江健三郎さん、古井由吉さんの名前がないことが、ふと寂しく感じられる。
蓮實重彦さん
蓮實重彦さん(88)の随筆「匿名の、かつ曖昧なものに向けて」は、大江さんのノーベル文学賞記念講演「あいまいな日本の私」、川端康成の「美しい日本の私」について触れ、小説を
真摯(しんし)
に書くとはどういうことか考察する。
<読むに値する作品は、誰のどんな題名のものであれ、絶対的な外国語として書かれている>
<みずからをまぎれもない日本人と自覚し、その国の現実と真摯に
対峙(たいじ)
しつつ優れた日本語を駆使できると思いこんでいる作家など、
碌(ろく)
な連中ではない>
蓮實さんの厳しい言葉は現代の日本の作家たちに向けた
叱咤(しった)
激励のように映る。
3月に早稲田大で開かれた村上春樹さん(75)と川上未映子さん(47)の対談で披露された両者の新作短編も掲載している。村上さんは「夏帆」である男女の会話を、川上さんは「わたしたちのドア」でアパートの隣人との奇妙な時間をかろやかにつづった。両者の作品掲載は、大江さんに続く世界文学を発信しようという編集部の意志を感じさせる。大きな足跡を残した文学者を失った日本文学がどこへ行くのか、その羅針盤としての役目が今の文芸誌には課されている。■転売による興奮
村田沙耶香さん ライブチケットやプラモデル、アイドルグッズなどをいち早く入手し、定価よりも高額で売る行為「転売」が社会的な問題として注目されている。ミュージシャンでもある尾崎世界観さん(39)は「転の声」(文学界)で、あるバンドのボーカルを主人公に、ライブチケットの転売による興奮の渦と、のみ込まれていく主人公の姿を描く。 チケットが定価以上でやりとりされること(プレミアがつくこと)で、ライブはより特別なものになる。物語では転売専門のマネジメント会社が存在し、主人公は自身のチケットが高く転売されることを望み、次第に欲望をむき出しにしていく。作中にはSNSでやり取りされる刹那的な言葉を巧みに織り交ぜた。際限なく承認欲求を高めるネット時代に、人間を踏みとどまらせるものが、愛する対象へのひたむきさであることをにじませた。
尾崎世界観さん 「すばる」2020年11月号から村田沙耶香さん(44)が連載した「世界99」が完結した。あるDNAを持つ人間が差別されている世界を舞台に、階層による社会の分断と救済という大きなテーマに挑んだ。 主人公の女性は接する人によって、ある時は甘ったるく、ある時はぶっきらぼうに、言葉遣いを変えながら生きている。最初は女性の生き方を探る作品かと思われたが、ペットとして飼われている「ピョコルン」という不思議な生き物に「産む機能」が付加されたことで、物語は予想もしない展開を迎える。3年半にわたる連載からは、社会の持つ暴力性、グロテスクさがにじんでいる。■疾走感に満ちた作品
第67回群像新人文学賞は沖縄県生まれの琉球大生、豊永浩平さん(21)の「
月(ちち)
ぬ
走(は)
いや、
馬(うんま)
ぬ
走(は)
い」に決まった。現代の子どもや日本軍の兵士、思春期の男女などの語りをつなげて、沖縄の近現代史を浮かび上がらせようとする試みだ。心の奥底から湧き出る言葉の勢いは、登場人物の改行のない語りで表現されている。馬さながらに歳月が過ぎ去っていくように、作品は疾走感に満ちている。(文化部 池田創)
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