台湾がフィリピンに巡視船を寄贈――動き始めた「第一列島線」の防衛ネットワーク
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2026.9.25(金)
バリカタン26での射撃訓練(5月8日、米陸軍のサイトより)
台湾からフィリピンへ、500トン級巡視船を寄贈
台湾とフィリピンの間で、これまでにはなかった安全保障協力の動きが表面化している。
9月18日付「Taipei Times(台北時報)」によると、台湾海巡署(CGA、日本の海上保安庁に相当)は、退役した巡視船1隻をフィリピンに寄贈したことを認めた。
同紙は、寄贈されたのは改修された500トン級の災害救援・救難用船で、武装や海巡署を示す標識は取り外されていたと報じている。海巡署は船舶の移管について「通常の手続きに従って処理した」と説明した。
同紙の9月23日付の続報によると、9月21日にフィリピン側で引き渡し式が行われ、船はフィリピン沿岸警備隊(PCG)の管理下に入った。
また台湾海巡署は、2027年10月に艦船をフィリピンへ派遣する計画を明らかにしている。
実現すれば、台湾の海上法執行機関の船がフィリピンを訪れる初めてのケースになるという。
「Taipei Times」によると、8日間の親善訪問には、海巡署要員と中央警察大学水上警察学系の学生ら計約100人が参加し、六分儀を使った天体航法や海上活動、海上法執行などについて交流する予定だ。
台湾国防安全研究院の蘇紫雲研究員は同紙に対し、今回の船舶寄贈を、中国による海洋進出に対応する国際的な動きの一環と位置付けている。
中国によるいわゆるグレーゾーン活動への対応という共通課題を抱える台湾とフィリピンが、正式な外交関係を持たないという制約を乗り越え、海上法執行機関同士の協力を強め始めたのである。
この動きが注目されるのは、両者の歴史を振り返れば、その距離が決して近かったわけではないからだ。
フィリピンは1975年6月9日、中華人民共和国(中国)と外交関係を樹立した。これに伴い台湾との公式な外交関係は終了し、その後は経済、文化、人的交流などを中心とする非公式な関係が続いてきた。
中華民国海軍によるフィリピン訪問も、中国との国交樹立前年の1974年を最後に途絶えている。
海軍艦艇の外国訪問には、軍事協力や共同訓練など外交・安全保障上の意味が伴う。
これに対して海巡署は非軍事の海上法執行機関である。このため、海巡署を窓口とする船舶寄贈や人的交流は、外交上の制約を抱える台湾にとって、政治的なハードルを比較的低く抑えながら海洋安全保障協力を進める手段ともなり得る。
台湾人漁師死亡事件から関係修復へ
しかも台湾とフィリピンの間には、海を巡って激しく対立した過去がある。
台湾本島南端とフィリピン最北部のバタン諸島は、ルソン海峡を挟んで近接している。周辺では双方が主張する排他的経済水域(EEZ)が重なる海域があり、豊かなマグロ漁場でもあることから、台湾漁船の操業とフィリピン当局による取り締まりを巡る摩擦が長く続いてきた。
両者の関係が最も深刻に悪化したのが2013年5月の「廣大興28号」事件である。
5月9日、台湾漁船「廣大興28号」が台湾とフィリピンのEEZ主張が重なる海域でフィリピン当局の船から銃撃を受け、台湾人漁師1人が死亡した。
台湾政府はフィリピンに対し、正式な謝罪、被害への賠償、徹底した捜査と責任者の処罰、漁業協定交渉の開始を要求した。
さらにフィリピン人労働者の新規受け入れ停止などの制裁措置を発動し、両者の関係は急速に悪化した。
その後、フィリピン側が謝罪し、捜査や賠償が進められたことで制裁は解除された。
両者は再発防止に向けた協議を重ね、2015年11月には「漁業法執行協力協定」を締結した。
協定には、漁業法執行に際して暴力や不必要な武力の行使を避けること、緊急連絡制度を設けること、拿捕された漁船などを迅速に解放する仕組みを整えることなどが盛り込まれた。
対立の原因となってきた海を、協力の場へ変えようとする仕組みがここで作られたのである。
今回の巡視船寄贈や海巡署の訪問計画は、その延長線上にありながら、海洋安全保障という新たな意味を帯び始めている。
