わたしはいま、中国・雲南省の都市「大理(だいり、英語ではDali)」からこの文章を書いている。この街は、一時的に社会から距離を置きたいテック業界の労働者やアーティスト、放浪者たちの避難先として知られ、「Dalifornia(ダリフォルニア)」という愛称でも呼ばれている。
ここは、米大統領ドナルド・トランプが2017年以来初となる訪中を行なっている北京の喧騒とは、まるで別世界だ。Didiのタクシーサービス運転手は、霧に包まれた山々や田園風景の間を走りながら、古いカラオケソングを静かに口ずさんでいる。大理は、多くの外国人が中国に抱く「高層ビル群、高速鉄道や、超効率的な配送ネットワークを備えた巨大都市」というイメージとはまったく異なる場所だ。
ここ10年ほどで、大理は北京や上海のような都市での熾烈な就職競争や、依然として高騰する住宅価格に疲弊した若い中国人都市生活者を惹きつける場所となった。古都には現在、ヴィンテージショップや流行のカフェ、陶芸スタジオ、タトゥーパーラー、DIYアートスペースが点在しており、世界共通で認識される「クールな街」の雰囲気を醸し出している。
この街の空気感は、周囲の地形にも大きく形づくられている。大理は優雅にそびえる蒼山と美しい洱海(じかい)湖に挟まれた標高約2,000mの場所に位置し、中国南西部の山岳都市らしく、カフェでゆったり過ごしたり、アートマーケットを巡ったりするのに最適な環境だ。雲南料理は、東南アジアに接する土地柄を反映し、タイやミャンマー、ラオスの影響を感じさせながらも、紛れもなく中国的な味わいを保っている。
この地域は野生キノコでも有名だ。2023年、当時の米財務長官ジャネット・イエレンが北京訪問中に雲南産のキノコを食べたことをきっかけに、“幻覚性キノコ”ブームが巻き起こったことを覚えている人もいるかもしれない。わたしのお気に入りの名物は実はチーズだ。雲南省は中国では珍しく乳製品文化が根付いている地域で、地元では「乳扇(ルーシャン)」と呼ばれる塩味のチーズを焼いて食べる。味はハルーミチーズに近い。
しかし、今回書きたいのは燃え尽きたテック労働者たちや料理についてではなく、むしろ大理は、旅のなかでわたしが強く実感するようになったある変化を象徴している。それは、中国での観光のあり方が西洋諸国とは根本的に大きく異なっているということ。その背景には、「小紅書(Xiaohongshu)」、海外では「RedNote」として知られるアプリの存在がある。
“中国版Instagram”では語りきれない
先週末、わたしは四川省の都市・雅安にある人里離れた茶畑を歩いていた。『Following the Yuan』というニュースレターを執筆している友人のヤーリン・ジャンと共に、わたしたちは丘陵地帯を取り囲む茶畑が巨大な同心円状に広がり、まるで緑色の巨大な指紋が地面に刻み込まれたように見える、「大地の指紋」と呼ばれる景勝地を探していた。
わたしたちはふたりともこの地域に詳しかったわけではなく、わたしにとって四川省を訪れるのも初めてだった。それでも、ほとんど誰もいないこの辺鄙な場所にたどり着くことができたのは、小紅書のおかげだった。
小紅書は、米国のアナリストたちからしばしば「中国版Instagram」と評される。しかし、その呼び方だけでは、このアプリの実態を十分に捉えきれない。確かに、美しい写真や憧れを抱かせるライフスタイル投稿は多い。だが同時に、小紅書は包括的な地図機能を基盤にした、強力な“情報発見ツール”としても機能している。
小紅書では、レストランやカフェ、ショップ、公園、観光名所、さらには街区単位まで直接検索できる。アプリ内蔵の地図機能では、位置情報ベースで投稿を閲覧できるため、周囲で人々が話題にしている場所を即座に確認可能だ。さらに、気になったスポットまでのルート案内もきれいにアプリ内で完結し、現在地から店舗までの距離も正確に表示される。
