
コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の感染拡大が報告され、国際的な警戒が強まっています。この記事では、現在の流行状況をはじめ、主な症状や感染経路、過去の流行事例をわかりやすく解説します。あわせて、日本での対応や海外渡航時の注意点についても紹介しますので、正しい情報を把握するための参考にしてください。
コンゴ民主共和国で何が起きている?
2026年5月15日、アフリカCDC(疾病予防管理センター)は、コンゴ民主共和国東部・イツリ州でエボラ出血熱のアウトブレイク(一定地域で感染症が集中的に発生すること)を確認したと発表しました。発表によると、国立生物医学研究所(INRB)が検査した20検体のうち13検体からエボラウイルスが検出され、疑い例は約246例、死亡例は約65例にのぼるといいます。感染はモンワル保健区域やルワンパラ保健区域を中心に広がっており、州都ブニアでも疑い例が確認されています。
さらに世界保健機関(以下WHO)は5月17日、今回の流行について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると決定。感染が国境を越えて広がるおそれがあり、国際的な連携対応が必要な事態と判断されました。隣国ウガンダでも関連する感染例が報告されており、各機関が封じ込めに向けた監視や医療支援を強化しています。
エボラ出血熱とは?症状や感染経路を解説
エボラ出血熱は致死率の高い感染症として知られていますが、具体的にどのような感染症なのでしょうか。ここでは、主な症状や感染経路や空気感染の有無、ワクチン・治療法の現状について解説します。
主な症状は?
エボラ出血熱の潜伏期間は2日〜21日ほどで、通常は4〜10日前後で症状が現れます。初期には、発熱や頭痛、筋肉痛、強い倦怠感、食欲不振などがみられ、インフルエンザに似た症状から始まるケースも少なくありません。そのため、初期段階では見分けがつきにくい場合があります。
一方、エボラ出血熱では、その後に嘔吐や下痢、腹痛などの消化器症状が現れることが特徴です。さらに重症化すると、皮膚や口、鼻、消化管などで出血傾向がみられる場合もあり、命に関わる状態につながるおそれもあります。また、回復後も関節痛や視力障害などの後遺症が懸念されています。
どうやって感染するのか?
エボラ出血熱は、感染者の体液(血液、分泌物、吐物・排泄物など)に触れ、ウイルスが傷口や粘膜から体内へ侵入することで感染するとされています。特に、患者の看病や介護、医療行為の場面ではリスクが高まりやすい感染症です。
また、亡くなった感染者の遺体に触れた際に感染したケースも報告されています。流行地域では、埋葬時に遺体へ触れる文化や習慣が残る地域もあり、感染拡大につながる可能性があります。
さらに、感染した野生動物との接触にも注意が必要です。エボラウイルスは、オオコウモリやサルなどの野生動物が自然宿主と考えられており、動物の血液や肉に触れたり、食べたりした際に感染したとみられる事例も確認されています。
空気感染するの?
エボラ出血熱について、「空気感染するのでは」と不安に感じる人もいるかもしれません。しかし、厚生労働省は、エボラウイルスは基本的に空気感染しないとしています。
空気感染とは、咳やくしゃみなどで出た病原体を含む飛沫が乾燥して空気中を長時間漂い、それを吸い込むことで起こる感染です。結核や麻疹、水痘などが代表例として知られています。
一方、インフルエンザや新型コロナウイルスなどは「飛沫感染」が中心です。咳やくしゃみの際に飛び散る飛沫を近距離で浴びることで感染が広がります。
これに対し、エボラ出血熱は感染者の体液に触れた際に、ウイルスが傷口や粘膜から体内へ侵入して感染する病気です。こうした感染経路は「接触感染」と呼ばれ、空気感染や飛沫感染とは性質が異なります。
ただし、一部の専門家からは飛沫による感染リスクを完全には否定できないとの指摘もあり、医療現場では飛沫への接触も想定した厳重な対策が行われています。
ワクチンや治療法はある?
エボラ出血熱では、現時点で特異的な治療法はなく、治療は症状を和らげる対症療法が中心です。厚生労働省の資料では未承認の治療薬やワクチンも紹介されていますが、いずれも効果や安全性は検証段階とされています。
一方で、一部の型に対してはWHO承認のワクチンが実用化されており、過去の流行時には感染拡大の抑止に活用されてきました。実際、コンゴ民主共和国で発生した過去の流行では、多くの人がワクチン接種を受けています。
しかし、WHOによると、今回確認されているのは「ブンディブギョ株」と呼ばれる種類です。この型に対しては、有効性が確立されたワクチンや治療薬が現時点で存在しておらず、対応の難しさが指摘されています。
エボラ出血熱は過去にも流行
※イメージ
エボラ出血熱は1976年以降、コンゴ民主共和国やスーダン、ウガンダ、ギニアなどアフリカ各地で繰り返し流行が発生していました。2025年6月まで30回以上のアウトブレイクが報告されています。
特に2014〜2016年の西アフリカでの流行では、ギニア、リベリア、シエラレオネを中心に2万人以上が感染し、医療体制や社会機能にも深刻な影響を与えました。感染は一部で欧米にも広がり、2019年にはコンゴ民主共和国での流行を受け、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しています。
流行地域では、住民の移動が多く接触者の追跡が難しいほか、埋葬時に遺体へ触れる習慣、野生動物との接触・狩猟が感染拡大に関わる場合もあるとされています。そのため、エボラ対策では医療支援に加え、地域の文化や生活習慣に配慮した対応、正しい理解や教育推進も重視されています。
日本への影響と渡航時の注意点
人の往来によって感染症が国境を越えて広がる可能性もあるため、外務省は感染症危険情報を通じて注意喚起を行っています。現在のところ、流行地域はアフリカに限られており、日本国内での発生リスクは低いと考えられています。
一方で、国際的な人の移動がある以上、海外から感染者が入国する可能性を完全に否定することはできません。日本では空港での検疫や健康監視、指定医療機関での対応体制が整備されており、海外渡航時には最新情報の確認や感染予防が重要です。
外務省が感染症危険情報レベル1を発出
出典:外務省|海外安全ホームページ|コンゴ民主共和国(2026年5月15日時点)
WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したことを踏まえ、外務省はコンゴ民主共和国およびウガンダに対し「感染症危険情報」レベル1を発出しています。レベル1は「十分注意してください」という段階で、直ちに渡航を制限するものではありません。ただし、渡航・滞在にあたっては通常以上の注意を払い、現地の感染状況や予防対策に十分留意することが求められます。
外務省では「感染症危険情報」とは別に「危険情報」を発出しています。これは渡航・滞在時に特に注意が必要な国・地域について、治安や政治・社会情勢などを総合的に判断し、安全対策の目安を示すものです。
実際に、エボラ出血熱が発生したコンゴ民主共和国イツリ州では「危険情報」レベル4(退避命令、渡航禁止)が発出されており、その他の地域や隣国ウガンダにも危険情報が設定されています。このように地域ごとに危険度が大きく異なるため、渡航にあたっては最新情報を踏まえた慎重な判断が必要です。
なお、外務省海外安全ホームページや厚生労働省感染症情報、厚生労働省検疫所FORTH などで現在の詳しい状況が確認できます。
旅行者が注意すべきこと
2026年5月22日現在、コンゴ民主共和国やウガンダの感染症危険情報はレベル1ですが、渡航時は十分な感染対策が欠かせません。患者や遺体、血液・体液との接触を避けるほか、感染した野生動物やその死体、生肉との接触・摂食、洞窟への立ち入りなどにも厳重な注意が必要です。
また、外務省は、コンゴ民主共和国やウガンダへの渡航・滞在歴がある人に対し、帰国時には必ず検疫所へ申告するよう呼びかけています。発熱や体調不良がある場合はもちろん、症状がない場合でも、感染発生地域に滞在している方は申告が必要です。
なお外務省は、長期滞在時の「在留届」提出や、短期渡航時の「たびレジ」登録を推奨しています。最新の安全情報を受け取れるほか、緊急時の安否確認や支援にもつながるため、出発前に必要な手続きを済ませておくことが大切です。
現地に寄り添う継続支援が求められている
エボラ出血熱は致死率の高さから強い不安を抱かれやすい感染症ですが、感染経路や予防法の正しい理解が重要です。流行地域では医療体制や生活環境にも大きな影響が及ぶため、現地の状況に配慮した持続的な支援や正確な情報共有が求められています。
現在、WHOやアフリカCDCなどが、感染監視や検査体制の強化、医療・衛生支援を進めています。こうした感染症対策では、医療支援に加え、安全な水や衛生環境の確保、地域住民への教育など、継続的な支援が重要です。
ピースウィンズはこれまで、世界各地で紛争や災害、感染症などの危機に対し、保健医療支援や衛生支援、生活支援に取り組んできました。アフリカ地域でも、給水衛生支援や難民支援などを通じて、人びとの暮らしを支える活動を行っています。私たちは、感染症の流行によって不安を抱える人びとや、厳しい環境のなかで暮らす人びとに寄り添いながら、今後も現地で必要とされる支援活動に取り組んでいきます。
隣国ウガンダより>「エボラ出血熱」感染拡大を受けて
2026年5月17日、WHOは、16日にコンゴ民主共和国と隣国ウガンダでエボラ出血熱の感染が確認されたことを受けて、両国における「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。WHOによれば、現在の感染確認地域が都市部で人口の移動が活発であること、また今後の治安悪化や人道危機により、民主共和国および周辺国への感染拡大のリスクが高いと指摘します。しかし、今回の病原体である「ブンディブギョウイルス」に対して有効なワクチンや治療薬はまだ、承認されていません。
ウガンダ国内でのエボラ出血熱感染の確認を受けて、ウガンダ政府は、毎年数千人のコンゴ国民も参加する6月3日「殉教者の日」の巡礼の延期を発表しました。ルワンダ政府は国境でのスクリーニングを強化し、南スーダンでも保健省が同様の対策を発表し、国民に対し、疑わしい症状があれば早期に報告するよう呼び掛けています。
ピースウィンズは2019年から、コンゴ民難民が多く住むウガンダ西部の難民居住地区で活動を続けており、コロナ禍では感染予防支援を行いました。難民の経済的自立を目指し、現在は農業支援と職業技術トレーニングを通した収入向上支援に取り組んでいます。
国際社会からの支援の減少により、ウガンダでは医療や衛生支援が縮小しているなかで、エボラ出血熱感染が報告されました。活動地に住むコンゴ民難民は、今回エボラ出血熱が確認されたイツリ県や周辺の東部地域から避難してきた人びとが多く、人や貨物の行き来もあります。今回のエボラ出血熱に有効な治療が未承認であることから、事態の悪化の懸念はぬぐえません。
エボラ出血熱感染の報告を受けて、ピースウィンズはウガンダで情報収集を行うとともに、状況を注視しています。決してパニックにならず、一刻も早い、エボラ出血熱流行の鎮静化を願いながら、現地政府や他支援団体と連携し、支援活動を通して正しい感染予防の情報を難民の人びとに伝えるなどできることに取り組みながら、慎重に支援活動を続けていきます。
ピースウィンズ
海外事業部・ウガンダ事業責任者
井上 慶子
【参照】
外務省|コンゴ民主共和国イツリ州におけるエボラ出血熱の発生
外務省|エボラ出血熱に関する感染症危険情報(レベル1)の発出
外務省|「感染症危険情報」とは?
厚生労働省|エボラ出血熱
厚生労働省|エボラ出血熱に関するQ&A
国立健康危機管理研究機構|感染症情報提供サイト
\平和をつくるために、2分でできること/
