小学校の教員採用倍率が2.0倍まで下がりました。中学校は3.6倍、高校は3.8倍。文部科学省が公表した令和7年度の教員採用試験の結果は、学校現場の厳しさをはっきり示しています。

年度末になると、学校や教育委員会の周辺では「誰かいませんか」と知り合いをたどって声をかけることがあります。以前なら、臨時的任用教員や非常勤講師として経験を積みながら正規採用を目指す人たちが、現場を支える大きな力になっていました。しかし、採用数が増えたことで、そうした人たちの多くはすでに正規採用されています。頼れる人が、そもそも少なくなっているのです。

そうした中で、奈良県教育委員会は「カムバック選考」を始めました。過去に正規教諭として3年以上勤務した経験がある人を対象に、第1次試験を免除する制度です。人手不足の現状を考えれば、経験のある人にもう一度学校へ戻ってもらおうとする発想自体は理解できます。

ただし、入り口を広げれば学校が救われる、というほど話は単純ではありません。いま本当に考えたいのは、どう採用するかだけでなく、入った人が学校で働き続けられるのかということです。

採用増に対し志願者が減り倍率は過去最低水準。選考の早期化に加え、働き方改革等の環境整備が急務となっている。

出典:文部科学省「令和7年度公立学校教員採用選考試験の実施状況について」

教員不足対策として、奈良県教委が3年以上の経験者を対象に1次試験を免除する「カムバック選考」を導入。

出典:「再び教育現場へ」教員確保に県教委が「カムバック選考」新設…3年以上の教諭経験者、1次試験を免除 読売新聞オンライン(Yahoo!ニュース配信)

年度末の「誰かいないか」が珍しくなくなっている

教員不足は、数字だけの問題ではありません。年度末になると、管理職や教育委員会の担当者が、退職した先生や講師経験のある人に連絡を取ることがあります。「来年度、お願いできる人はいませんか」と探す姿は、もはや特別なものではなくなりつつあります。

小学校では、採用者数が昭和58年度以降で最多の17,078人となりました。一方で、受験者数は減少しています。必要な人数は増えているのに、教師を目指す人は思うように増えていない。このずれが、現場の苦しさにつながっています。

これまで現場を支えてきた既卒者や講師経験者も、採用拡大の中で正規採用されてきました。そのこと自体はよいことです。しかし、その結果として、年度末に頼れる人の数は少なくなっています。学校が人を必要としているのに、声をかけられる人が見つからない。ここに、いまの教員不足の深刻さがあります。

カムバック選考は、たしかに理にかなっている

奈良県のカムバック選考は、過去に正規教諭として3年以上勤務した人を対象に、第1次試験を免除する制度です。まったく経験のない人を一から採用するより、学校の仕事を知っている人に戻ってもらう方が、現場としても受け入れやすい面はあります。

授業の進め方、子どもとの関わり方、保護者対応、学校の1年間の流れ。これらを一度経験している人であれば、着任後の見通しをもちやすいでしょう。自治体としても、経験者を確保したいと考えるのは自然です。

特に、家庭の事情や転居、出産・育児、介護などを理由に一度学校を離れた人が、もう一度教職に戻りたいと考えることはあります。そのような人に戻りやすい道を用意することには、大きな意味があります。

問題は、制度そのものではありません。問題は、戻る人の状況や離職の理由、いまの学校現場に合うかどうかを丁寧に見ないまま、「経験者だから大丈夫」と考えてしまうことです。

「戻ってもらう」だけでは済まない

一度教職を離れた理由は、人によって違います。家庭の事情だった人もいれば、体調面で続けるのが難しかった人もいます。働き方への不安や、学校現場との相性に悩んで離れた人もいるでしょう。

だからこそ、カムバック選考では、試験を簡略化することだけでなく、なぜ離職したのか、今ならどのような働き方ができるのかを丁寧に確認する必要があります。戻ってくる先生が安心して再スタートを切るためにも、学校側が不安を抱えたまま受け入れないためにも、ここは大切です。

経験者であっても、数年離れていれば学校の状況は変わっています。ICTの活用、保護者対応、特別支援教育への理解、働き方改革の進め方など、学校に求められることは以前より複雑になっています。

「教員経験があるから、すぐに任せられる」と考えるのではなく、復職後にどのように支えるかまで考えておかなければ、本人にとっても現場にとっても苦しい再スタートになってしまいます。

本当に必要なのは、入った後に続けられる環境

教員不足の話になると、どうしても採用の入口に目が向きます。選考を早くする。複数回実施する。社会人選考を広げる。今回のように、経験者が戻りやすい制度をつくる。どれも、人を確保するためには必要な工夫です。

しかし、本当に大事なのは、採用した後です。人を集めても、数年で辞めてしまえば、また同じことの繰り返しになります。穴の空いたバケツに水を注ぐように、補っても補っても足りない状態が続いてしまいます。

若い先生も、復職した先生も、安心して働き続けられる環境がなければ定着しません。授業準備の時間がない。相談できる人がいない。保護者対応を一人で抱える。校務が多すぎる。こうした状態が変わらなければ、入口を広げても根本的な解決にはなりにくいのです。

文部科学省も、選考の早期化や社会人選考の拡充だけでなく、教師が働きがいと働きやすさをともに感じられる環境整備の必要性を示しています。制度をつくるのであれば、採用方法だけでなく、現場を支える仕組みまで一緒に整える必要があります。

数をそろえるだけでは、子どもの学びは守れない

カムバック選考は、人手不足に苦しむ自治体にとって、一つの現実的な手立てです。経験のある先生がもう一度学校に戻ってくれるなら、現場にとって大きな力になることもあります。

ただし、それを「人数をそろえるための制度」としてだけ扱ってしまうと、危うさもあります。教室に立つのは、子どもと日々向き合う仕事です。子どもや保護者が安心して任せられること、本人が無理なく続けられること、周囲の先生が支えられること。そのどれも欠かせません。

教員不足は、もう現場の努力だけでどうにかできる段階ではありません。だからこそ、新しい制度は必要です。しかし、その制度が現場にさらに負担をかけるものであっては、本末転倒です。

必要なのは、入り口を広げることと同時に、戻ってきた先生を支える仕組みをつくることです。研修、相談体制、校務の見直し、管理職や同僚の支援。こうしたものが整って初めて、カムバック選考は現場を助ける制度になるのだと思います。

小学校の採用倍率2.0倍という数字は、学校がかなり厳しい状況にあることを示しています。ただ、数をそろえることだけを急いではいけません。子どもたちの学びを支えるためには、教師を増やすことと、教師が続けられる環境を整えることを、同時に考える必要があります。

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