米国の核・宇宙研究に関わった科学者らが相次いで死亡・失踪し、共和党議員や右派インフルエンサーの間で陰謀論が拡散。FBIや議会が調査、さらにはドナルド・トランプ大統領の発言にまで発展している。少なくとも11人の米国人科学者が近年、死亡または行方不明になっており、この事態についてトランプは「かなり深刻な問題だ」と述べた。一方、家族や専門家からは「無理な関連づけ」との声も上がっている。

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発端とされているのは、2023年7月に死亡したマイケル・デヴィッド・ヒックスである。ヒックスはカリフォルニア州にあるNASAのジェット推進研究所(JPL)で、彗星や小惑星の研究を専門としていた59歳の科学者だった。

一方で、一部メディアやネット上の論者は、さらに過去の事例にも注目している。2022年に自殺した反重力研究者エイミー・エスクリッジの死である。アラバマ州を拠点としていた彼女は、2020年のインタビューで、UFOや地球外生命体に関する情報を公開する計画があり、そのため脅迫を受けていると語っていた。彼女の死はのちに『Daily Mail』によって、他の死亡・失踪事例と結びつけられた。

2024年7月には、JPLの宇宙研究者フランク・マイワルドが死亡した。死因は公表されていない。さらに同年、元空軍情報将校マシュー・ジェームズ・サリヴァンが薬物過剰摂取で死亡している。この名前も後に、共和党議員エリック・バーリソンによって「精査が必要な事例」として挙げられることになる。

2025年5月には、ロスアラモス国立研究所で核兵器研究に携わっていた退職エンジニア、アンソニー・チャベスがニューメキシコ州の自宅から姿を消した。翌6月には、同研究所の事務補佐員メリッサ・カシージャスが行方不明となる。彼女は自宅から数マイル離れた高速道路沿いを歩いている姿を最後に目撃されていた。

同じく2025年6月、JPLで材料加工部門のディレクターを務めていたモニカ・ハシント・レザが、友人とエンジェルス国有林でハイキング中に失踪した。家族は後に、彼女が命を危険にさらすような研究に携わっていたという見方を否定している。親族のひとりは『LA Mag』に「彼女は家族のいる、ごく普通の人でした」と語った。

2025年8月には、アルバカーキにある国家核安全保障局関連施設で、高レベルの機密アクセス権を持つ資産管理担当者だったスティーヴン・ガルシアが行方不明になった。

同年12月には、ポルトガル出身の核科学教授ヌーノ・ゴメス・ロウレイロが、マサチューセッツ州の自宅で銃撃され死亡した。彼はその直前、MITプラズマ科学・核融合センターの所長に任命されたばかりだった。この事件をきっかけに、YouTuberのダニエル・リスト、通称「Dark Journalist」が、ロウレイロは先端核融合研究のために暗殺されたのではないかという説を展開した。彼はロウレイロの研究を「潜在的に非常に変革的なもの」とし、研究者自身が「消去されるべきデータベース」のような存在になりうると主張した。

同じ時期、製薬科学者ジェイソン・トーマスも行方不明となった。彼は2026年3月17日に遺体で発見されている。

2026年2月には、右派インフルエンサーのジェシカ・リード・クラウスがSubstackで、ロウレイロの死と、カリフォルニア州の田舎にある自宅の外で射殺された天体物理学者カール・グリルマイヤーの死との類似性を指摘した。別の投稿では、元米空軍少将ウィリアム・ニール・マッキャスランドの失踪を「陰謀アラート!」と評した。

そのマッキャスランドが行方不明になったのは、2026年2月27日のことだった。68歳の彼は、妻によってアルバカーキの自宅からの失踪を届け出られた。処方された眼鏡、携帯電話、電子機器を家に残していた一方、38口径のリボルバーを持って出たとみられている。2カ月が経っても、当局は彼の行方を説明できていない。

マッキャスランドはかつて、ロズウェル事件と関連づけられることもあるライト・パターソン基地の司令官を務めていた。UFO伝説や機密扱いの宇宙兵器計画との接点が、ネット上の憶測をさらに加速させた。

2026年3月には『Daily Mail』が「5人の科学者失踪の謎が全米を震撼させる」と報じ、この話題は一気に広がった。核・宇宙研究に関わる人物が相次いで死亡または行方不明になっているという構図が、右派メディアや陰謀論者の間で注目を集めるようになった。
4月15日、FOXニュースのピーター・ドゥーシー記者が、ホワイトハウス報道官キャロライン・リーヴィットにこの件について質問した。その2日後、リーヴィットはホワイトハウスが調査に乗り出すと発表した。

4月20日には、下院監視委員会が一連の死亡・失踪について調査を行うと発表した。同委員会のジェームズ・コマー委員長(共和党、ケンタッキー州選出)は、『Fox & Friends』で「何か邪悪なことが起きている可能性がある」と発言。当初は「ある種の馬鹿げた陰謀論」だと思っていたが、今では国家安全保障上の懸念になりうると考えていると述べた。

CNNによれば、FBIは死亡・失踪した科学者たちの間に関連性があるかどうかを調べており、エネルギー省、国防総省、州・地方の法執行機関とも連携している。NASAもXで「行方不明の科学者に関して、関係機関と調整・協力している」と明らかにした。ただし、現時点で国家安全保障上の脅威は確認していないとしている。

共和党の一部議員は、これを米国の科学技術をめぐる国際競争と結びつけている。トランプ政権2期目では科学研究への予算が大幅に削減されており、中国、ロシア、イランなどが米国の研究者を引き抜く余地が広がっているとの見方もある。バーリソン下院議員はXに「われわれは核技術、先端兵器、宇宙をめぐって中国、ロシア、イランと競争している。その一方で、わが国のトップ科学者たちは次々と姿を消している」と投稿した。FOXニュースに対しては、「これは外国による作戦の特徴をすべて備えている」とも語っている。

一方、専門家や批評家からは、こうした見方に疑問の声も上がっている。元FBI捜査官のジェニファー・コフィンダファーは『Newsweek』に対し、こうした主張は「基本的な捜査原則に照らして検証すれば崩れ落ちる」と述べた。政治コメンタリーポッドキャスト『Hysteria』の共同司会者エリン・ライアンは、これをMAGA陣営の反科学的レトリックの一部とみなし、「極右の人々が、科学者にとって実際に危険な環境をつくり出した自分たちの責任を洗い流そうとする方法なのだと思う」と語った。

『The Atlantic』のダニエル・エングバーは、さらに辛辣だ。「これを陰謀論と呼ぶのは、あまりにも寛大すぎる。なぜなら、一連の出来事のパターンを説明する包括的な理論など、何ひとつ提示されていないからだ」と書き、この騒動を「信じがたいほど愚かだ」と評している。

議会内にも慎重な見方はある。監視委員会でコマーやバーリソンとともに委員を務めるジェームズ・ウォーキンショー下院議員(民主党、バージニア州選出)はCNNに対し、「米国には何千人もの核科学者、核専門家がいます。外国の敵対勢力が10人の個人を標的にすることで、重大な影響を及ぼしうるような核プログラムではありません」と述べた。

トランプ大統領自身も、調査では死亡・失踪の関連性を示す証拠はまだ見つかっていないと述べている。「われわれが調べたなかには、非常に悲しいケースもある。病気だった人もいる。自ら命を絶った人もいる。別の事情があった人もいる」と記者団に語りつつ、「完全な報告書をまとめるつもりだ。そしてこれは非常に深刻な問題だ」とした。

当事者の家族たちは、渦巻く陰謀論に苛立ちを隠さない。ヒックスの娘ジュリア・ヒックスはCNNに、「私が知っている父の姿からすれば、この連邦捜査に父が関係しているという論理の道筋はまったく見えません」と語った。「父の死と、ほかの行方不明の科学者たちとのつながりが理解できません。思わず笑ってしまうほどですが、同時に、事態は深刻になってきています」

エイミー・エスクリッジの父であり、元NASA科学者のリチャード・エスクリッジも、娘の自殺が不審なものだったという見方を否定している。「科学者もほかの人と同じように死ぬのです」と彼は述べた。

マッキャスランドの妻はFacebookに、夫が空軍在籍時に「高度に機密性の高いプログラムや情報」にアクセスしていたことは認めつつ、彼は10年以上前に退役していると説明した。「かなり古い秘密を引き出すために連れ去られたとは、非常に考えにくいです」
また、モニカ・ハシント・レザの家族は、連邦捜査が報じられているにもかかわらず、ホワイトハウスやFBIから家族の誰にも連絡は来ていないと話している。彼女が命を危険にさらすような仕事に携わっていたという見方も否定している。

それでも陰謀論は広がり続けている。『Mercury News』によれば、バーリソン下院議員はさらに2人の名前を挙げた。2024年に薬物過剰摂取で死亡した元空軍情報将校マシュー・ジェームズ・サリヴァンと、2021年に車にはねられ、79歳で亡くなった反重力物理学者ニン・リーである。さらに、昨年アラバマ州で交通事故死したNASAの核科学者ジョシュア・ルブランのケースも取り沙汰されている。

4月30日、バーリソンはXにこう投稿した。「数は13人に増えた。核・宇宙研究に関わっていた13人の米国人科学者が、行方不明または死亡している。地球上のあらゆる敵対勢力は、われわれがその一人ひとりを失うたびに祝杯をあげている。これらの損失によって、国家としてのわれわれは今日、より弱くなっている。私は答えを得るために動いている」

from Rolling Stone US

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