京都市の隣、西日本最小の市で動き出した駅前再開発

京都府の南西部に位置する向日市(むこうし)。北側で京都市と隣接し、JR京都線(東海道本線)の向日町駅から京都駅までわずか8分という好立地にありながら、その名を知らない人も少なくないだろう。市の面積はわずか7.72km2で、西日本では最も小さく、全国では埼玉県蕨市、東京都狛江市に次いで3番目に小さな市だ。

2009年に誕生した「京都向日市激辛商店街」も向日市の魅力である。市内全域を1つの商店街に見立て、約70店舗が激辛メニューを提供するユニークな取り組みで、“激辛の聖地”としてメディアにもたびたび登場してきた。JR向日町駅前にはマスコットキャラクター「からっキー」の像が設置され、降り立った人を出迎えている。

JR京都線の向日町駅JR京都線の向日町駅JR京都線の向日町駅向日町駅前に佇む京都向日市激辛商店街のマスコットキャラクター「からっキー」

そんな向日市にある向日町駅周辺では、長年にわたる課題が解消されずにいた。

向日町駅の改札口は線路西側1ヶ所しかなく、東側へ出るには踏切や地下通路を回り込むほかなかった。線路による東西の分断は土地利用にも格差を生み、東側には未利用の空き地が点在する状況が続いていた。京都駅へのアクセスが良いという立地でありながら、駅の東側は長く“眠ったまま”だったのである。

その風景が、2020年代後半に向けて大きく変わろうとしている。向日町駅を含めた東側エリアで、駅の橋上化と東口の新設、地上38階建てのタワーマンション、そして商業・医療機能を備えた駅ビルの建設が進んでいるのだ。今回は、向日町駅周辺で進められている官民一体の再開発事業について解説する。

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JR京都線の向日町駅現在、向日町駅の東西は踏切や地下通路を利用して行き来している ※2026年2月撮影向日町駅前再開発の全体像

向日町駅周辺の再開発は、大きく3つの柱で構成されている。「JR向日町駅の橋上化と駅前広場の整備」「地上38階建てタワーマンション『J.GRAN TOWER 京都向日町』の建設」、そして「商業・医療機能を備えた駅ビル棟の整備」である。

最大のポイントは、これまで存在しなかった向日町駅の東口が新たに開設されることだ。東西を結ぶ自由通路が整備され、エレベーターやエスカレーターによるバリアフリー動線も確保される。線路によって長年分断されていた東西の往来が、ようやく一本の通路でつながることになるのだ。

プロジェクト全体のイメージ図(画像引用:向日市「市街地再開発事業 事業計画」)プロジェクト全体のイメージ図(画像引用:向日市「市街地再開発事業 事業計画」)

そして東口の目の前には約2,400m2の駅前広場が整備され、バスやタクシーが発着するロータリーが設けられる。これまで向日町駅の周辺は道が狭く、車の送迎やバスの乗り入れに課題を抱えていた。新たなロータリーが設置されることで、バス・タクシー・自家用車の乗り降りがスムーズになり、駅へのアクセス性が飛躍的に向上する。日常的に駅を利用する住民にとっては、この変化が最も実感しやすい改善点になるだろう。

さらに注目したいのは、駅からマンションや商業施設へと続く歩行者デッキの存在である。駅改札を出て屋根のある通路を利用して移動できる動線が計画されており、雨の日でも傘を差さずにアクセスできる設計だ。

駅の改良、タワーマンション、商業施設、駅前広場。これらが向日町駅周辺の敷地にまとまって整備されることで、駅の周辺は数年後、見違えるような街並みへと変わっていくことになるだろう。

プロジェクト全体のイメージ図(画像引用:向日市「市街地再開発事業 事業計画」)マンション・駅前広場・商業ビルの完成予想図(画像引用:LIFULL HOME’S「J.GRAN TOWER 京都向日町」)向日町駅の改良工事と東口の誕生

向日町駅の改良工事は、JR西日本と向日市が協定を締結し、2022年に着工した「自由通路整備・橋上化事業」が軸となっている。デザインコンセプトは“明日のむこうにつなぐみち”。西口に計画されている正面ガラスの箱状のデザインは、駅前を通っている西国街道の“常夜灯”を表現し、歴史ある街の玄関口にふさわしいたたずまいを意識している。

駅舎の工事は2段階に分けて進められている。第Ⅰ期工事は完了しており、2025年10月に自由通路の西口側と橋上駅舎の一部が供用開始された。現地を訪れると、改札階は天井に木調のルーバーがあしらわれ、自然光が差し込む開放的な空間に仕上がっていた。自動改札と券売機が並ぶコンコースはゆとりある広さが確保されており、点字ブロックも敷かれるなど、バリアフリーへの配慮が随所に見られる。

駅の完成予想図(画像引用:向日市「JR向日町駅自由通路等整備に係る工事説明会」)駅の完成予想図(画像引用:向日市「JR向日町駅自由通路等整備に係る工事説明会」)駅の完成予想図(画像引用:向日市「JR向日町駅自由通路等整備に係る工事説明会」)開放的な造りになっている駅構内のコンコース ※2026年2月撮影

第Ⅱ期工事では、2026年度冬頃に西口エスカレーターや改札内トイレの設置に加え、自由通路が東口側まで延伸され、東口が開設される予定だ。自由通路は歩行者専用通路で、完成すれば改札を出てそのまま東口に抜けられるようになる。

これまで線路の東側に住む人は、踏切や地下通路を迂回して西口の改札まで回り込む必要があった。東口の開設によってこの問題が解消されるだけでなく、東西の人の流れそのものが変わることになる。駅に東西をつなぐ通り道ができることで、東側に整備されるタワーマンションや商業施設との回遊性も高まり、駅周辺全体の活気につながるだろう。

駅の完成予想図(画像引用:向日市「JR向日町駅自由通路等整備に係る工事説明会」)改良工事が進んでいる向日町駅 ※2026年2月撮影駅の完成予想図(画像引用:向日市「JR向日町駅自由通路等整備に係る工事説明会」)向日町駅の東側へ接続予定の自由通路 ※2026年2月撮影京都府最高層・地上38階建ての「J.GRAN TOWER 京都向日町」

再開発の中核を担うのが、駅東口の目の前に建設される超高層タワーマンション「J.GRAN TOWER 京都向日町」である。JR西日本不動産開発と三井不動産レジデンシャルが手がける本物件は、京都府内のマンションとして最高層となる地上38階建て、高さ約128メートルの規模を誇る。計画建築物の概要は以下のとおりだ。

・マンション名:J.GRAN TOWER 京都向日町

・所在地:京都府向日市森本町野田202番地

・敷地面積:1,659.63m2

・建築面積:1,431.32m2

・延べ面積:4万2,014.26m2

・構造規模:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造、地上38階建て

・総戸数:343戸

・竣工予定:2028年7月下旬

・入居予定:2028年9月下旬

・設計・監理:株式会社アール・アイ・エー

・施工:株式会社大林組

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現地では、仮囲いに覆われた広大な敷地内で大型クレーンや重機が稼働し、工事が進められている様子が確認できた。

マンション建設予定地の様子 ※2026年2月撮影マンション建設予定地の様子 ※2026年2月撮影

マンションの3階には二層吹き抜けのエントランスホールが計画されており、天井に桂川の水の流れをイメージした意匠が施される。18階にはコーナービューのスカイラウンジが設けられ、比叡山や東山連峰、西山の稜線を望む眺望を住民が共有できる空間となる。防災面では、大林組独自の超高層制振構造システムに加え、エネファームや非常用発電機が設置され、災害時の対策にも配慮されている。

動線面では、駅ビル棟の3階部分で本タワーマンションと向日町駅が接続される計画のため、住戸から駅ホームまで天候に左右されない点も、日常生活におけるメリットと言える。

このように、厳しい高さ制限がある京都市内では実現が難しいタワーマンションが、隣接する向日市で誕生することになる。このプロジェクトで総戸数343戸の住宅が供給されることで、周辺の不動産市況や人口動態にもよい影響を及ぼすことになるだろう。

商業・医療・保育が集まる駅ビル計画とは

タワーマンションと並ぶもう1つの柱が、駅に直結する形で建設される「駅ビル棟」である。向日市が公表している事業計画によると、駅ビル棟は鉄骨造の地上5階建て、延べ面積は約5,700m2の規模となる。

現時点では、1階に食品スーパーなど日常使いの商業施設が想定されている。2〜3階には診療所や保育所が計画されており、3階は歩行者デッキを介してタワーマンション側と接続される。4〜5階には業務施設(オフィスなど)が入る構成だ。

これまで向日町駅の東側エリアには、徒歩圏内にスーパーマーケットやクリニックがまとまっている場所がなかった。最寄りのスーパーまで徒歩10分以上かかるケースも珍しくなく、日常の買い物やちょっとした通院でも車や自転車が欠かせない状況が続いていた。

駅ビル棟に食料品店や医療施設が集約されれば、改札を出てすぐの場所で日々の用事を済ませられるようになる。タワーマンションの住民だけでなく、以前から駅を利用してきた周辺住民にとっても、利便性が大きく向上するだろう。さらに、駅ビルに保育施設が入ることで、通勤途中の送り迎えがスムーズになり、子育て世代にとっての駅前の価値はさらに高まることになる。

商業ビル建設予定地の様子 ※2026年2月撮影商業ビル建設予定地の様子 ※2026年2月撮影京都のベッドタウンから住みたい街へ

西日本で最も小さな市である事実は、一見すると制約のように映るが、向日市はこの「小ささ」を逆手に取る形で、高密度なまちづくりを進めてきた。市内にはJR京都線の向日町駅と、阪急京都線の東向日駅・西向日駅があり、JR向日町駅と阪急東向日駅の間はわずか徒歩9分ほどだ。JRで京都駅まで8分、阪急で京都河原町まで15分、大阪方面にも直通でアクセスできる利便性は、京都市内の多くのエリアにも引けを取らない。

このような立地を生かして、向日市が特に力を入れているのが子育て世代の呼び込みだ。京都市では住宅価格の高騰によって若年層やファミリー世帯の市外流出が続いているが、隣接する向日市は比較的手の届きやすい住宅価格帯を維持している。駅前に保育所や商業・医療施設が集まる今回の再開発は、こうした施策の延長線上に位置づけられるプロジェクトといえる。

さらに周辺では、日本でも有数のグローバル企業が集積している。京都市南区に本社を構える任天堂株式会社は向日町駅から車で約20分の距離にあるほか、隣の長岡京市には株式会社村田製作所が本社を置き、同じ向日町駅の東側エリアではニデック株式会社(旧・日本電産)が大規模な新拠点「ニデックパーク」を建設している。このような大企業への通勤のしやすさも、駅前の住宅需要を支える大きな支えとなることが期待されている。

向日町駅の東側がタワーマンションや商業施設、駅前広場を備えた新しい街へと姿を変えれば、「ここに住んでみたい」と感じる人は自然と増えていくだろう。西日本で最も小さな市が挑む、駅前まるごとの再開発。その街びらきに向けた動きを、引き続き追いかけていきたい。

京都のベッドタウンから住みたい街へ周辺ではニデック株式会社の「ニデックパーク」が建設中 ※2026年2月撮影

不動産特化ライター

元不動産営業のWEBライター。宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、賃貸不動産経営管理士。12年間の不動産営業を経験後、不動産特化ライターとして大手メディアや不動産会社のオウンドメディアで、住まいや不動産投資に関する記事を多く提供している。不動産業界経験者にしかわからないことを発信することで「実情がわかりにくい不動産業界をもっと身近に感じてもらいたい」をモットーに執筆活動を展開中。