諸刃の剣、超攻撃サッカー
キックオフ1時間半前。第3節の大宮vs福島の報道控室からは、この試合でメンバー外となっていた男の話題が聞こえてきた。
コンディション不良で欠場となったキング・カズこと、福島FW三浦知良のことだ。
今季より横浜FCから期限付き移籍で福島に加入し、5年ぶりとなるJリーグ復帰を果たしたカズ。メディアは、59歳を目前にしてもなお第一線に立ち続ける男の話題で盛り上がっており、今季の福島とカズは切っても切り離せない関係となっている。
この日も一部の記者やファン、サポーターからは、Jリーグの生ける伝説であるカズの不在に落胆する声も聞こえた。ただそれ以上に、福島が大宮戦で見せたサッカーには、カズの欠場を気にさせないほどの魅力があったことも確かだった。
福島の寺田周平監督が「点を取って勝つためには、このサッカーだと思っている。これが一番勝てる方法だと信じているので、貫いていきたい」と言い切る福島のスタイルは超攻撃的。前線に3枚を並べる[4-3-3]のフォーメーションで、キックオフ時にはセンターサークル付近にフィールドプレーヤー全員が集まるという、珍しい戦術だ。
福島のサッカーは、指揮官の描いているビジョンがピッチ上でのプレーに分かりやすく投影されているから面白い。
この日も、前線から激しいプレッシングを仕掛けてくるホームチームに対して、後方からのビルドアップを試みる。「そこを通すか!」と思わず声が出るような狭い局面でも、恐れずにボールをつないで、敵陣に侵入していった。
一方で、このスタイルは諸刃の剣といってもいい。
相手から自陣に押し込まれている局面でも、パスを通そうと徹底しすぎるあまりにボールを奪われて、ショートカウンターをくらう場面もしばしば。また、サイドバックが攻撃に参加して前がかりになったところを突かれて、相手のサイドアタックからピンチを招く場面も多かった。
攻撃的サッカーの弊害は数字にも如実に表れており、この日も大量6得点を許した福島は、22日時点でリーグワーストとなる13失点を喫している。だが、試合終了の笛が鳴るまで、福島のスタイルは変わらなかった。
開幕3連敗と厳しいスタートだ。
それでも指揮官は「何か攻撃の仕方を変えれば失点が減るとも思っていない。攻守はつながっている部分はありますが、このスタイルを貫くなかで、いかに失点を減らしていくかを考えている」と改善の必要性を認めながらも、攻撃的なスタイルをやめる気はないと語る。
寺田監督の哲学に足並みをそろえる選手たちは、百年構想リーグの先を見据えていた。
先を見据えながらのチャレンジ
Getty Images
昨季、J3を10位でフィニッシュした福島。昇降格のない百年構想リーグでは、歯を食いしばりながら、スタイルの定着を目指している。目線の先は、来たる2026/27シーズンでのJ2初昇格だ。
もちろん、決して平たんな道のりではないだろう。大敗後の選手たちの表情は険しく、寺田監督も「スコアを見ると非常に悔しい。残念な気持ちですし、受け入れがたい結果ではあります」と苦渋の表情を浮かべ、サポーターに謝罪した。
それでも福島は悲壮な覚悟で懸命に前を向いている。
先発出場したMF岡田優希は「J3であれば突破できた部分も、J2では潰されるきびしさがある。そのなかでこのチームは、自分たちが成長してうまくなって、相手を凌駕していこうとしている。個人的にはJ3で圧倒しても意味はないと思っていて、J2に上がるためにはJ2 で戦えるような強さをつけなきゃいけない」と力強く語る。寺田監督の志向するサッカーの可能性を信じてーー。
サポーターも、福島のチャレンジを後押しする。
決して納得できる試合結果ではなかったはずだ。それでも、この日のスタジアムに集まった200人以上の福島サポーターは「大丈夫! 大丈夫!」と頭を下げるイレブンを拍手と声援で激励した。
「サポーターのみなさんには、信じてほしい。僕らは下を向くつもりもないですし、次のゲームも前を向いて、その先も見据えながらとにかくチャレンジしていきたい」と寺田監督。福島イレブンは攻撃的サッカーを諦めないし、クラブが一体となって愚直に突き進む姿勢がとても魅力的だった。
「選手たちには、ミスが起ころうが失点しようが、ここでのトライが次につながると話しました。そのなかで選手たちがこれまでやってきたことに向き合って、ピッチで躍動してくれた。この結果なのでポジティブに捉えるのは難しいです。それでもチャレンジしないで1-0で勝つよりは、負けてでもチャレンジしたほうが次につながる。そういう意味では、選手の姿勢にとても満足しています」(寺田監督)
残念なのは、結果がついてきていないこと。福島に関わる人々は、攻撃的なパスサッカーで相手を翻ろうして、J2の舞台でも魅力的なプレーを披露するチームに夢を膨らませる一方で、大きな不安も抱いているに違いない。
指揮官の「間違いなく2026/27シーズンの昇格につながる貴重な経験ができたゲームだった」という言葉を、今季初勝利という形で早く証明し、自信につなげたい。
取材・文=浅野凜太郎
