NASA(アメリカ航空宇宙局)は2026年2月19日、アメリカの航空機大手Boeing(ボーイング)の新型宇宙船「CST-100 Starliner(スターライナー)」による初の有人飛行試験「CFT(Crew Flight Test)」に関する調査報告書(”Starliner Propulsion System Anomalies during the Crewed Flight Test – Investigation Report”)を公開しました。
NASAはCFTを最高レベルの事故分類である「Type A mishap(タイプAの重大事故)」に指定し、技術的および組織的な課題の改善に向けた方針を示しています。
【▲ 2024年9月、CFTミッションの帰還に向けて無人の状態でISS(国際宇宙ステーション)を離脱するBoeing(ボーイング)の有人宇宙船「Starliner(スターライナー)」(Credit: NASA)】初の有人飛行試験「CFT」の経緯と長期化
BoeingのStarlinerは、アメリカ企業SpaceX(スペースX)の「Crew Dragon(クルードラゴン)」とともに、NASAのCCP(Commercial Crew Program=商業乗員輸送計画)のもとで開発された有人宇宙船です。
初飛行となった2019年の無人飛行試験「Orbital Flight Test(OFT)」では、機内のタイマーの問題で計画通りの軌道に投入できず、ISS(国際宇宙ステーション)への到達を断念して地球に帰還しており、2022年に実施された2回目の無人飛行試験「Orbital Flight Test-2(OFT-2)」でISSへの往復に成功。CFTはStarlinerにとって初となる有人での飛行試験でした。
CFTは2024年6月5日に打ち上げが行われましたが、StarlinerがISSへ接近する過程で推進システムに複数の異常が発生するなど、ミッションは当初の想定を超える困難に直面。ISS滞在は約1〜2週間の予定でしたが、推進システムの調査を行うために地球への帰還は大幅に延期されました。
最終的にNASAは安全を最優先する決定を下し、搭乗していたNASAのBarry ‘Butch’ Wilmore飛行士とSuni Williams飛行士は有人宇宙飛行ミッション「Crew-9(クルー9)」のCrew Dragonに乗り換えて2025年3月に地球へ帰還しました。なお、Starlinerの機体自体はこれに先立つ2024年9月に無人で帰還しています。
CFTを「重大事故」に分類
Starlinerの無人での帰還からおよそ1年半。ISS接近時に機体の操縦性が一時的に失われたことや、それに伴う損害を重く受け止めたNASAは、CFTを「Type A mishap」に分類したと発表しました。これは、死傷者こそ出なかったものの、一歩間違えれば重大な結果を招きかねない事態であったことを認識した上での措置とされています。
NASAの規定において「Type A mishap」とは、クルーの死亡や機体の喪失、あるいは極めて高額な損害が発生した場合などに適用される、最も深刻なレベルの事故を指す分類です。今回の調査報告書において、調査チームは、ドッキングに向けたISSへの接近中にスラスターの故障によって引き起こされた制御不能な飛行(6自由度制御の喪失)という事態そのものが、この重大な事故基準に該当すると指摘しました。NASAはこの報告を受け入れ、公式に「Type A mishap」への分類を宣言しています。

【▲ 2024年6月、CFTミッションのクルー2名を乗せてISS(国際宇宙ステーション)に接近するBoeing(ボーイング)の有人宇宙船「Starliner(スターライナー)」(Credit: NASA)】報告書が指摘する技術的欠陥と組織の課題
今回の調査報告書によれば、問題の背景にはStarlinerのハードウェアの欠陥とNASAおよびBoeingの組織文化、その双方に複合的な要因があったとされています。
技術面では、サービスモジュールのRCS(姿勢制御システム)スラスターの故障が主な要因として挙げられています。推力低下の直接的な原因は、内部のテフロン製シールが熱と推進剤の影響で変形し、流路を塞いだことだと結論付けられています。
また、複数の箇所で発生したヘリウムの漏洩に関しては、シールの素材と酸化剤の適合性不足が判明しました。さらに、軌道離脱に必要なシステムの冗長性が不足しているという設計上の問題が、打ち上げ前まで見過ごされていたことも指摘されています。
報告書では、これらの問題を見逃した組織的な課題にも踏み込んでおり、NASAのCCPにおいて「2つの企業による輸送体制を維持する」という目標がプレッシャーとなり、技術的な厳密さよりも計画の進行を優先する組織文化があったと指摘。NASAのJared Isaacman長官は、プレスリリースを通じて「宇宙飛行士を輸送できる2つのプロバイダーを持つというプログラム上の大局的な目標が、工学的および運用的な決定に影響を与えることを許してしまった」と認めています。
また、本来であればBoeingがStarlinerの安全性を証明すべきところを、NASAがBoeingの過去の経験を過信したことで、NASAの技術チームの側がリスクを立証しなければならないような状況に陥っていたことも問題視されています。
次のミッション「Starliner-1」に向けた再出発
今後の焦点は、運用初号機として計画されていた「Starliner-1」ミッションの扱いに移ります。
2025年11月にNASAとBoeingの間で交わされた契約変更により、Starliner-1は無人ミッションとして実施されることが決定しています。今回の報告書は、Starliner-1を単なる運用飛行としてではなく、CFTで露呈した様々な課題を解決し、将来の有人ミッションに向けたデータを収集するための「実質的な試験飛行」として目標を再定義するよう勧告しています。
NASAは現在Boeingとともに、CFT後に実施された推進システムのアップグレードなどを含むStarlinerのハードウェア改修と、監視体制・組織文化の見直しを進めているとしています。提言されたすべての是正措置が完了し、機体の安全性が客観的なデータによって完全に証明されるまで、NASAは次のミッションを実施しない方針だということです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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