岩手の魅力を動画で発信する「ミセテイワテ動画コンテスト」。そのチャレンジ部門で最優秀賞に選ばれたのは、盛岡市の老舗・白沢せんべい店を題材にした短編動画作品。

南部せんべい作りという、一見すると単純で変化の少ない作業。その繰り返しの中に流れる長い時間と、作り手の想いを、音と映像だけで丁寧にすくい取った作品。本記事では、特別審査員を務めた大友啓史監督の講評と、制作者の沢田泰人氏、そして白沢せんべい店の白澤紅子氏へのインタビューを通して、作品の背景と制作の裏側に迫ります。

ミセテイワテチャレンジ部門 最優秀賞受賞
『変わらないモノ』白沢せんべい店

第3回ミセテイワテ動画コンテスト

岩手県が主催する「ミセテイワテ動画コンテスト」は、映像を通して岩手の魅力を国内外に発信することを目的とした企画。今年で3回目となる本コンテストでは、岩手の豊かな自然や文化、街並み、暮らし、ものづくりや伝統文化など、応募者自身が感じる“岩手らしさ”を自由な表現で形にする場として、幅広いクリエイターから作品を募っている。

チャレンジ部門(31秒~3分)とインスタ部門(30秒以内)の2部門が設けられ、映像表現の自由度とともに、視点の独自性や被写体との向き合い方も重視される。コンテストを通して、地域文化の発信や関係人口の拡大、岩手への好奇心を喚起することも大きな目的のひとつ。

審査員には岩手県出身の映画監督・大友啓史氏が参加

本コンテストの特別審査員を務めたのは、映画監督の大友啓史氏。岩手県盛岡市出身で、映画『宝島』、Netflix『10DANCE』、『るろうに剣心』シリーズをはじめ、大河ドラマ『龍馬伝』、ドラマ『ハゲタカ』など、数々の話題作を手がけてきた、日本を代表する映像作家のひとり。

地元を知り、なおかつ映像表現の第一線で活躍する監督が審査に関わっている点は、本コンテストの大きな特徴と言える。そんな大友監督をはじめとする審査員陣から評価を受けたことは、受賞者にとっても大きな励みとなる。

特別審査員・大友啓史監督の評価

講評の中で大友監督は、白沢せんべい店についてこう語っている。

「白沢せんべい店さんって、僕も小さい頃から知っている、本当に地元に根づいた、古くから続くせんべい屋さんなんです。盛岡市民なら、たぶんみんな知っていると思いますし、県民にも結構知られている存在だと思います」

評価したポイントとして挙げたのは、その白沢せんべい店に流れる“時間”の表現だった。

「長く長く積み重ねられてきた、大事な時間の流れみたいなものを、あの短い映像の中でちゃんと捉えているなと感じました」

さらに大友監督が強調したのは、映像から伝わってくる作り手の思い。

「やっぱり映像には、作り手の想いが如実に現れる。この作品からは、白沢せんべい店に対する愛情や、深い思いがストレートに伝わってきました」

その想いを伝える方法も非常に的確で美しく、白沢せんべい店という“地元に根づいたお店の特徴”を、オリジナリティあふれるやり方で捉えていたことが、審査員の評価を得る結果につながった。

最優秀賞受賞の知らせを受けて

映像を制作した沢田氏は、受賞の知らせを聞いた瞬間を振り返る。

「まさか最優秀賞をいただけるとは思っていなくて、ただただ、とにかくうれしい気持ちでいっぱいでした」

題材となった白沢せんべい店の白澤氏も、「うれしいです、感激しています」と率直に語る。日々の仕事は淡々と続いていくが、その積み重ねが評価されたことは、言葉以上の意味を持っていた。

単純な作業の中にあるもの

沢田氏が作品づくりで意識していたのは、「単純な作業の中にあるもの」をどう映像にするかだった。

「せんべい作りは、基本的に単純作業ではあるんですが、その中で、作り手さんの想いや情熱を映像の中に出せたところが、評価されたのかなと思っています」

白澤氏(白沢せんべい店)も、完成した映像を見て、改めて時間の流れを感じたという。

「作業は本当に単純なものの繰り返しなんですけど、手巻きの時計の音が入ることで、時の流れを感じられるというか、すごく素敵な作品になっているなと思いました」

涙が止まらなかった初視聴

完成した映像を最初に観たのは、白沢せんべい店の白澤氏だった。

「本当に涙が止まらなくて……。日々のみんなの作業が報われたような気がしました。みんな頑張ってくれていてよかったなって」

そこには、映像を作ってくれた沢田氏への感謝とともに、毎日現場に立ち続けてくれている職人たちへの感謝の気持ちが重なっていた。

一方、沢田氏自身は、見せる瞬間まで不安を抱えていたという。

「最初は正直、恐る恐るでした。『どうかな……』という不安もあって。でも、いいリアクションをもらえて、『素敵でした』という一言をいただいたときは、本当にホッとしました」

変わらない手仕事、映像で気づいたこと

白沢せんべい店が大切にしてきた“変わらないもの”は、手作りへのこだわり。なるべく昔ながらの手作業で南部せんべいを作り続けてきた。手間はかかるが、その姿勢は変えていない。

現場では、一度せんべいを焼き始めると、焼き終わるまで席を立つことができない。生地が大きい、小さい、焼きが早い、遅い。そうした最低限のやり取り以外、会話はほとんどできないそう。

「話ができないというか、そういう状況でのせんべい焼きの作業が、こんなふうに素敵に映るんだな、というのを再発見しました」

手作業だからこそ失敗は許されない。良いせんべいを届けたいという気持ちで、毎日同じ作業に向き合っている。その“当たり前”が、映像になることで初めて別の角度から見えてきた。

撮影現場の空気と、ありのままの姿

撮影中、工場には独特の緊張感があったという。白沢せんべい店では、店主と女性職人2人の計3人で作業をしている。店主は職人気質で、気難しい一面もあるそう。

「良いおせんべいをあげたいという気持ちで、毎日気を張って作業しているので、工場はどうしてもピリピリした雰囲気になります。そこで撮影していただいたので、申し訳ない気持ちと感謝の気持ちと、両方ありました」

しかし完成した映像を何度も見返し、一番喜んでいたのはその店主だったという。

「何回も見て、『こんなふうにできたんだ』って。めんどくさい職人を撮っていただいて、本当にありがたいです(笑)。いつもの様子、ありのままを撮ってくださったと思います」

音と動きで“気持ち”を伝える

沢田さんが演出面で最もこだわったのは、音の扱いだった。当初はBGMを入れていたが、時計の音を取り入れたことで、BGMが逆に雰囲気を壊してしまうと感じた。

「BGMなしで、時計の音一本。あと、作業の機械の音も時計のリズムと似ていたので、その音だけでいこうと考えました」

また、動きの少ない現場をどう見せるかという点では、スライダーを使い、わずかなカメラの動きで感情を表現した。

「飾らないで、その作業を捉える。でも、その中にも気持ちが乗る部分――手だったり、職人さんの動きだったりを、うまく捉えたいと思っていました」

時間を映すということ

本作が映し出したのは、特別な出来事ではない。しかし、長い時間をかけて積み重ねられてきた日常と、その中に確かに存在する想いを、誠実に映し出している。

作り手の想いは映像に現れる。その言葉を、静かに証明するような一本だった。

◉第3回ミセテイワテ動画コンテスト
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