2026年1月15日、京都市主催による「カルチャープレナー」に関する意見交換会が開催された。Forbes JAPANが2023年から継続してきた「CULTURE-PRENEURS 30」の受賞者を中心に、カルチャープレナーの振興に関わる京都市の担当者や関係者が集い、「カルチャープレナーのこれから」をテーマに、率直な意見や視点が交わされた。
カルチャープレナーとは、文化やクリエイティブ領域で新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようとする文化起業家のこと。伝統工芸や地域文化、アート、デザインなど、その領域は多岐にわたるが、共通するのは「文化」と「経済」を分断せずに捉えている点にある。
漆の現場から始まる対話
会場となったのは「UND. 堤淺吉漆店」。縄文時代から使用されてきた天然素材である漆を現代のモノづくりに応用しつつ、漆木の保全・育成や文化学習にも貢献している堤卓也(堤淺吉漆店代表/23年受賞者)の活動拠点だ。
堤淺吉漆店代表の堤卓也(左)
意見交換会に先立ち、まずは工房の見学からスタート。1階のフラッグシップショップには、箸や椀といった日用品から、漆染めのTシャツ、金継ぎや拭き漆を体験できるキットまで、漆の可能性を日常へとひらくプロダクトが並ぶ。漆で塗装されたサーフボードや自転車といった、従来の用途にとらわれない試みも目を引いた。
「漆の木は、15年かけてようやくようやく直径15cmくらいの太さに育ちます。1本の木から1日に採れる漆は、ほんの10グラムほど。漆掻き職人さんは、毎日数十本の木から漆を集めて回ります。採る人によって掻き方が違うから、出てくる漆の質も全然違って面白いですよ」(堤)
耐水性・抗菌性・防腐性に優れ、文化財修復にも欠かせない漆だが、一方で、職人の高齢化や担い手不足、そして需要に対して自給率が5%程度にとどまる現状など、課題も多い。堤は、漆の採集から精製、調合、調色までを自社で行う老舗の4代目。2016年からは「うるしのいっぽ」と題した情報発信を通じ、素材としての漆や、それに関わる人々の仕事を伝える取り組みも続けてきた。
工房奥の保管庫には、大小さまざまな漆桶が積み上げられている。堤がひとつの蓋を開けると、黒茶色に艶めく漆液とともに、独特の甘酸っぱい香りが立ち上り、参加者から驚きの声が上がった。
国産漆。空気に触れるとみるみるうちにミルクティーのような色から飴色に変化する
「これは国産漆の8割をつくっている主要生産地・浄法寺町(岩手県二戸市)のもの。採集者と地理的認証制度の証明書がつけられてブランド化されているので、指名も多く、重要文化財の修理などにも使われています。少量を試し焼きなどもして、水分量や粘度、透明度、渇きの早さなどを確認してから、色味や艶の調整といった、それぞれの漆が持っている個性を伸ばす作業へと進みます」(堤)
攪拌機や鉄鍋、木桶といった代々受け継がれてきた道具に囲まれた工房では、攪拌の時間や回数、速度といった条件の違いによる艶や色味の変化を記録・分析し、蓄積。文化財修復からサーフボードブランド「漆板 siita」に至るまで、用途に応じた最適解を導き出している。
採集直後の原料から精製の工程、そして実際に商品化された完成品までをも間近で見ることができた工房見学は、高級塗料としてのイメージが根強い漆に、誰もが新鮮な親しみを感じるひとときとなった。
