2026年2月15日 午前11時00分

福井県知事選で初当選を決め、万歳する石田嵩人氏=2026年1月25日深夜、福井県福井市

みなさんも、人生で一度くらいは「全力」を出した経験があるだろう。運動会のかけっこや受験勉強、あるいは仕事で社運をかけたプロジェクトなどだろうか。しかし、全力を超えて「全開」になりきれる、という大人にはほとんど出会えたことがない。

今日は、去る1月に行われた福井県知事選挙についてコラム執筆の機会をいただき、筆をとった。私は、政治ニュース好きな福井県民として県政の行方を長年見守ってきただけの中年男子である。偉そうに、その政治的評価をするつもりは毛頭ないことを前置きしたい。巷では様々な裏話や噂話も飛び交うが、ここでは、事実として公表されている情報や報道記事だけをもとに、私なりの「注目点」をしたためたい。

全国最年少・35歳という若さの石田嵩人知事(現在は36歳)が誕生し、その端正な佇まいからも県内ニュースはしばらくお祭り騒ぎであった。そして、当選時には真隣でバンザイしていた御年83歳の自民党福井県連会長であり参議院議員の山崎正昭氏が、石田新知事の一番の支援者であったことも周知のとおりである。山崎氏と言えば、市議時代から数えて実に政治家キャリア50年以上、参議院議長も務めた大ベテランであり、今なお自民党福井県連のトップに座る福井政界のドンである。

その山崎氏が、自民党福井県議会や他の自民党国会議員が推薦する候補者(山田賢一元副知事)に首を縦に振らず、県連執行部会では多数決を避け、福井市議会の保守系会派と協力して独自に擁立したのが、35歳で政治未経験者だった石田新知事であることも報道のとおりだ。そしてこれは、一部メディアでは「分裂を招いた」とも報じられている。

これを、会社での出来事に例えてみよう。多少デフォルメされた表現になるが、イメージ共有のためお付き合いいただければ幸いだ。ある大企業で、やり手で人気だった社長が不祥事で急遽辞任し、新社長候補を選ぶことになった。急なことであり、経営の早期安定を最優先して、取締役や部長など幹部は全員一致で、関連会社社長に収まっていた元副社長を推薦し、本人も承諾。取引先企業の多くも賛同。ところが、会長がそれに納得せず、一部の関連会社幹部たちと協力し、それまで会社とは全く縁のなかった35歳の若者を大抜擢。結論は株主総会に委ねることになるが、社内の分裂は避けられない……、と言った具合だろうか。

結果は、みなさんがご存知の通りである。この「分裂を招いた」とされる山崎氏の政治的行動についてはメディアを通じても様々な声があがっているわけだが、私はそれをむやみに深掘りするつもりはないし、論評する立場にもない。一般論では、自民党福井県連における山崎氏は「破壊者」なのだろう。しかし、若き石田新知事が今後活躍し、県民に大きな利益をもたらすことになれば、それは県政新時代の「創造主」にもなりえる。その最終的な評価は、歴史が下すことだ。

さて、私が注目したいのは、その破壊的創造者(?)たちの勝因である。惜敗した山田候補には高市総理直々の自民党本部支援といったお墨付きもあり、選挙戦序盤までは各メディアの情勢報道も「山田リード」だった。まさに、最終盤の大逆転劇である。大雪で高齢者が投票に行けなかったこと、山田陣営の失言問題、有名ユーチューバーの加勢などが要因としてあげられており、そのいずれも影響したとは考えられるが、私が見逃せなかったのは、35歳と83歳による「全開」のコラボレーション劇である。

選挙となれば、どの候補も、そしてどの陣営も「全力」を出すのは当然である。山田候補も、連日雪の中を走り回り、本当に死力を尽くしたに違いない。しかし、全国の政治ニュースを見漁っている私は、近年台頭してきた新勢力の党首や人気・議席を得ている若手政治家たちに、その「全力」を超えたものを感じ始めている。それが、「全開」である。

「全力」は、一人でも絞り出すことができる。寝る間も惜しみ、気力・体力の限り力を出し尽くす。人生ここ一番のときには、誰もが一度は経験したはずだ。しかし、「全開」となると次元が違ってくる。自分の壁を超えなければならない。恥や外聞を捨てて自分をさらけ出し、人を頼り、積み上げてきたもの全てを捨てる覚悟で目の前の戦に飛び込む。その姿を目の当たりにした者たちは、理屈を超えて感動し(てしまい)、心に興味の火が着く。つまり、見る者を巻き込んでいくのである。政治的評価はさておき、全国的に注目されている若手政治家からは、この「全開」のエネルギーを画面越しにでも感じることが多い。

石田新知事は、当初からまさに「全開」であった。さらけ出し、かなぐり捨て、目の前の途方もない挑戦にダイブしていた。しかしそれは、若さのなせる技でもある。政治的キャリアはまだゼロであり、独身でもあり、確かに失うものは少ない。いくらでもやり直せる。そこにきて驚くべきは、83歳山崎氏の「全開」っぷりである。政治家としての賛否両論は当然ながら、約50年間一度も選挙に負けず、与党の重鎮として三権の長にまで上り詰めたことは、県政に輝かしき足跡を刻むものである。

もし私がその立場なら、決して晩節を汚したくないと思うはずだ。十分すぎる実績にあぐらをかき、華やかに引退したいものである。実質的には身内の大半を敵に回し、結果的に勝利したとはいえ、わずか1.5%差で奇跡の大逆転という勝負に打って出るには、リスクが大きすぎる。まさに決死のダイブである。選挙期間中、報道や陣営の配信を通じて山崎氏の応援演説を何度か見た。声はかすれ、決して聞き取りやすいものではなかったが、「一生の最後の仕事である」「西谷村(現大野市の一部)から三権の長になった私に、何も恐れるものはないし何も失うものはない」という絶唱には、会場にいた者の多くが心を揺さぶられたであろう。他の陣営から、そんな「全開」は感じられなかった。

35歳と83歳といえば、孫と祖父ほどの歳の差である。前代未聞のコラボレーション劇で、その全力を超えた「全開」の両輪が噛み合い、多くの県民を巻き込む熱気と、様々な条件を味方にした強運を生み出したのだろう。くどいようだが、この「分裂劇」への現時点での政治的評価を述べるつもりはない。両氏に注目しているが、支持しているわけでもない。今後、県民の期待を超えれば全てが英雄視され、期待を裏切れば禍根を残すだけだ。ただ少なくとも、やたら閉塞感がマズいと叫ばれる今日の福井において、ここまで「全開」の姿で県民を揺さぶったのは、石田氏・山崎氏の他にいなかったのではないだろうか。さて、次は誰が……。

 

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【ゆるパブコラム】一般社団法人ゆるパブリック(略称:ゆるパブ、2015年福井に設立)の発信の場として始まったコラムコーナー。福井の若者や学生、公務員、起業家、経営者、研究者などあらゆる立場の人が、さまざまな視点から福井のまちの「パブリック」に迫ります。