
日経平均株価が映されたモニター。2024年2月22日、都内で撮影。 REUTERS/Issei Kato
[東京 13日] – 衆議院選挙での圧勝で、高市早苗首相の政治資本は拡充された。食料品の消費減税は、2年間限定で実施されることになりそうだ。政権は新規国債の発行は行わない方針であり、「責任ある積極財政」が無秩序な拡張財政に陥ることは回避される模様だ。
これまでの円金利上昇が円回復を促し始めており、日本株高に伴う円安圧力を相殺している。筆者のチームは、160円前後では円買い介入の可能性があり、ドル/円は長期的な天井圏にあるとの見方を継続している。年前半に150円前後へ、年末までには145円を下回る調整を見込んでいる。
<高市首相の圧勝>
2月8日の選挙では高市氏率いる自民党が圧勝し、単独で3分の2超の議席を獲得した。高市氏の取り得る政治的な選択肢が広がって実行力が強化されたのは間違いなく、焦点となっている食料品の消費減税も2年間限定で実施されることになりそうだ。
次に首相が狙うのは衆議院、参議院の双方で3分の2以上の賛成によって発議が可能となる憲法改正だろう。そのチャンスは、場合によっては衆議院とのダブル選挙となる可能性もある2028年夏の参議院選挙の際に訪れる。だが、その際の自民党と日本維新の会の与党連合は改選議席が多く、容易に3分の2議席を超えることは難しいとみられる。
憲法改正に肯定的な国民民主党・参政党を巻き込んでいき、それを実現するには、消費減税を含めて責任ある積極財政で経済を下支えしつつ、円安や円金利上昇を抑制することで、「サナエノミクス」が市場からの信認を得ていることを示す必要があるだろう。
もしも円安や日本国債下落が一段と進行すれば、日本株反落となり、日本市場はトリプル安となるリスクがある。一度厳しいトリプル安を経験すると、サナエノミクスはメディアから失敗の烙印を押され、高市自民党はその経済政策で次の選挙を戦うことはできなくなるだろう。
ベセント財務長官率いる米当局も原則的には高市政権の円防衛策に理解を示している模様だ。ドル/円が160円前後を脅かす場合、日本政府・財務省は円買い介入を実施すると我々は考えているが、その際、米財務省は一定の理解を示すだろう。トランプ政権としても基本的には、高市政権が長期政権となることは望ましいとの判断を持っているはずだ。
米当局は円金利上昇が米国市場に及ぼす悪影響を懸念していると思われ、通貨政策での支援と引き換えに、米当局は高市政権にその財政政策が過度に拡張的になりすぎないように釘を刺すことだろう。
<問われるのは信認>
今問われているのは、通貨と財政政策の信認である。根源的なところでは、クリストファー・シムズ教授らが物価水準の財政理論(FTPL)で示したような、拡張財政はインフレ的(通貨安的)要因であるとの認識が持たれるべきである。この見方が絶対的に正しいと言うつもりは毛頭ないが、歴史的に見てもある程度、実証的に妥当性のある説である。
高市氏の経済アドバイザーの多くを含め、リフレ政策を主張するエコノミストの中には、財政に関するそうした根底的な認識を持たないまま、マンデル・フレミング法則などに飛びつき、拡張財政は円高要因だと主張する声も聞かれるようだ。だが同法則は本質的には諸条件を単純化した理論考察であり、そのまま現実世界に適用するのは無理がある。
その枠組みを受け入れたとしても、基本的な理解としては、拡張財政が通貨高に帰着するのは、あくまでもインフレ抑制のために中央銀行が行う適切な金融引き締めを含めた金利上昇が進む場合である。
市場が円安と日本国債下落の点でサナエノミクスに警戒を示してきたのは、底流に拡張財政への根源的な不安があることに加えて、その枠組みの中でも重要性を持つ中央銀行の金融政策(日銀の金融正常化)に関して、高市氏がかねて懐疑的なスタンスを隠さなかったことが懸念されている可能性が高い。
中央銀行制度を中核とする信用貨幣制度は近代社会の特徴的な制度だ。日本に限った話ではないものの、その独立性を脅かす政治圧力は通貨の信認を不必要に損なうリスクがある。この観点から3月末に任期を迎える日銀の野口旭審議委員の後任人事は決定的な市場インパクトを持ち得るので注意したいところだ。
<2つの力学と財政リスク>
さて、総選挙での高市自民党の圧勝を受け、日本株は改めて騰勢を強めている。意外感があるのはこのタイミングでドル/円が調整反落していることで、リスクオン環境下での円安は思いのほか進行していない。これまでの米連邦準備理事会(FRB)の利下げもあり、米日金利差が縮小してきていることが円高圧力を生んでいることをうかがわせる。
既に円の長期金利は日本の長期投資家が欲している水準を超えて上昇してきており、財政リスクのリプライシングが終わり、中央銀行の独立性に対する懸念が払しょくされれば、これまでの金利上昇が緩やかな円回復を促し始めよう。その円回復は今度は円金利上昇(日本国債下落)に歯止めをかけ、日本株にはさらなる追い風となる可能性がある。その意味では我々は、日本市場はトリプル高となる可能性さえあると考えている。
もしこうした市場変化が生じた場合、メディアは「サナエノミクスは市場の信認を得た」と持ち上げ、それは2年半後の次の国政選挙をにらみ、高市氏にも強い追い風となるはずだ。
景気回復とインフレによる税収増もあり、この数年、先進国の中でも日本の財政赤字は少ない方であり、経済規模比での政府債務残高も低下傾向にある。向こう数年であれば、多少の財政支出の増加には耐えうる状況だ。ただ、市場は食料品の消費減税の期間が2年で遵守されるか否かを、高市政権がポピュリスト的経済政策に陥っていくのか、サナエノミクスの看板通り、供給サイドから構造改革を成し遂げようとしているのかを見極める試金石と見ることだろう。
今年6月頃にとりまとめられる骨太の方針では、所得税の給付付き税額控除や防衛費増額も議論の俎上(そじょう)に上るはずであり、そこで一定の「責任財政」のスタンスを示すことができるか否かは、政治・社会的にも、市場にとっても重要な論点となるだろう。
編集:宗えりか
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*高島修氏は、シティグループ証券の通貨ストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリストを務め、2010年3月にシティバンク銀行へ移籍。2013年5月以降はシティグループ証券に在籍。
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