大人こそ「自分の生活圏を出る」
オホーツクエリアには違う季節に何度も訪れて流氷を楽しみました。撮影:山本裕介
私たちは、油断するとすぐに「日本は」「日本の社会は」「日本人の価値観は」といった大きな言葉で語りがちです。経験を通じて知ったのは、地域ごとに全く異なる暮らしがあるということでした。
水揚げの様子。撮影:山本裕介
撮影:山本裕介
例えば知床で見学したサーモン漁。サーモンは知床の名産品で、好漁期なら半年で数千万円の収入を得られるそうです。一方、不漁が続けば収入がない時もある。都会に住んでオフィスに行って毎月決まった給料をもらうという自分の働き方は、一部に過ぎないという事実を改めて突きつけられました。自分が知っている「仕事」とはあくまで狭い範囲のもの。
実は、子どもたちも楽しんだ流氷の着岸と、この漁の状態は密接に結びついています。流氷の底には大量のプランクトンが付着しているため、流氷が来て春に氷が溶けることで魚介類の成長が促進され、水産資源の拡大につながります。
冬のオホーツク海の猛烈なしけと荒波は、流氷が蓋となって鎮める効果があると言われています。この地域にとって重要な流氷は、温暖化の影響を受けて小さくなったり着岸が遅れたりするのです。
単に美しい景色や珍しいものを見て終わりではなく、「自然のサイクルと共にある暮らし」というフィルターを通し、子どもたちの発見と大人の発見が同時に進行することで、「家族としての学び」が深まっていく感覚がありました。
徳島・上勝町で知った現実
くるくるショップという、自分が持ってきたおもちゃなどの重さと同じものを持って帰って良いリサイクルのコーナーでおもちゃの重さを測る次男。撮影:山本裕介
徳島県・上勝町では、地方自治体におけるゴミの現状を知りました。
上勝町は2003年に「ゼロウェイスト宣言」を打ち出して、その取り組みを手掛けた方がダボス会議に出席されたり、「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」という建築家が手掛けた建物をつくられたりと、国際的にも評価されていました。
私も訪れる前は「社会に良いこと」「環境保全」をしているイメージを持っていましたが、現地で聞いた話は少し違っていました。もちろんその要素もありますが、前提として上勝町では自治体の財政難から焼却場を維持できず、近隣の自治体に焼却を依頼しており、そのコストを減らすためにゴミを細かく分別し始めたということでした。
滞在中は自治体の方、NPOの方、移住した方から地元の方まで、さまざまな方に話を聞いて、都会とはそもそも前提が違うこと、そこから新しい取り組みが立ち上がっているという現実に、自分の知識の狭さと浅さを思い知りました。
実際に暮らしている方の家に子どもと一緒に伺いました。撮影:山本裕介
上勝町で地元の方のお家にお邪魔してお話をお聞きした時の様子。撮影:山本裕介「頭の中の地図」が描き換わる瞬間
我が家で大きな変化が起きました。少し抽象的な言葉になりますが、「頭の中の日本地図が描き換わった」のです。
北海道の知床エリア、茨城の県北エリア、徳島の神山町と上勝町エリア、長野の大町白馬エリア、諏訪・富士見町・八ヶ岳エリア、福岡の市内と糸島エリア、 群馬のみなかみエリア、和歌山の南紀白浜エリア、鹿児島の奄美大島エリア、長崎県の五島列島エリア……。合計15カ所が、「観光で行ったことがある場所」ではなく「そこで短い間ながら暮らした、◯◯さんがいる場所」になりました。
例えば保育園の給食の食材表を見て「この野菜は◯◯で取れた野菜だって、〇〇さんのところだね」と言い出したり、台風や地震、大雪などのニュースがあれば「◯◯さん、大丈夫かな」と言うようになったり。子どもたちの頭の中に、今までとは異なる、人との関わりをベースにした日本地図が出来上がっていました。
一方で大人は、「地方は遅れていて都会は進んでいる」「地方はお金は稼げないが都会は稼げる」「新しい概念や流行は都会から生まれて地方に浸透していく」という固定観念が覆され、むしろ新しいことや面白いことは地方から生まれるという感覚を持つようになりました。子どもたちの変化、そして大人である自分の変化を目の当たりにして、「これこそが学ぶということである」と確信したのです。
単なる情報であれば、ここで書いたことはすべてどこかに書いてあります。ただ、それについて「本当の意味で理解する」ということは、現地に行き、短い時間でもそこでの暮らしを体験、体感し、人と交流してじっくり話を聞いて初めて可能になるのだと心の底から理解できました。
2016年から2020年にかけて、全国でこうした体験をしたことで、我が家にとっての学びの定義が変わり、その先の国内教育移住へと繋がっていきました。
テレワークの様子はなんと地理の参考書にも掲載いただきました。撮影:山本裕介
次回は軽井沢への国内教育移住について書きたいと思います。

東京→軽井沢→マレーシア。「移動型家族」を続けて感じた国内・海外教育移住のリアル | Business Insider Japan
山本裕介:日本最大級のハイクラス / グローバル人材特化の人材紹介会社であるエンワールド・ジャパンの代表取締役社長。大手広告代理店でキャリアをスタートした後、SNSサービスの事業開発に携わり、Twitter(現:X)日本進出時の事業開発・ユーザー獲得の責任者として日本市場の成長を牽引。東日本大震災をきっかけにグーグルへ入社し、テクノロジーによる被災地支援、国政選挙におけるネット活用、世界49カ国・3700万人以上を支援した日本発の女性サポートプログラム「Women Will」、日本全国のべ1000万人にデジタルスキルトレーニングを提供した「Grow with Google」、スタートアップ支援拠点「Google for Startups Campus Tokyo」の日本立ち上げなど、一貫して個人・ビジネスへのエンパワーメントを通した社会貢献のプロジェクトを手掛ける。2025年7月まで日本市場におけるグーグルのコーポレートブランディング責任者として、AIに関する世論形成、ビジネスリーダーへのAI活用啓発など日本での重点戦略施策を主導。これらの知見を活かして内閣府をはじめ複数の公的組織の委員・アドバイザーを歴任。2025年8月から現職。
