2026年2月2日
スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。
慶應義塾大学法学部を卒業後、新卒で広告代理店に入社した夏目志穂さん。順風満帆に見えるキャリアのスタートだったものの、「自分の心が震えることをやりたい」という想いを貫き、アイドルグループ『Palette Parade』への加入を目指してオーディションに挑戦。見事、最終審査に合格し、夢を手にしました。
安定した環境から飛び出して夢を追った背景や、その裏にある葛藤、そしてアイドルとしてはたらく今、どんなことを感じているのか。率直な気持ちを伺いました。
「劣等感」と「抑圧」でふさぎ込んだ学生時代
──夏目さんは、幼少時代どんなふうに育ったのでしょうか。

両親が沖縄出身で、沖縄でのびのびとすごしていました。ただ、両親はすごく教育熱心でしたね。当時は、家族がみんな医療系の仕事をしていたので、私にも医者を目指してほしかったみたいです。塾やそろばん、バレエなど、いろいろな習い事にも通わせてもらって、教育には本当に力を入れてもらっていたと思います。
──中学受験をして、夏目さんが東京の学校に合格した際には、一家で上京されたそうですね。
記念受験のつもりだったので、まさか受かるとは思っていなくて。合格後すぐに進学手続きをしなければならず、短期間で上京を決断する必要がありました。せっかく受かったのだから、「もう、行くしかない」という状況でしたね。上京した時点では両親の仕事も決まっておらず、引っ越してから仕事探しを始めたんです。
私のために、家族も人生をかけて動いてくれました。なのに、上京後は環境の変化があまりに大きくて、私にとってつらい毎日が続いてしまいました。
──特に、どんなところがつらかったのでしょうか。
当時の気持ちを言葉にするなら、「抑圧」と「劣等感」の二つです。
中学・高校はカリキュラムが非常に厳しくて、勉強から逃れられないような環境でした。沖縄ではのびのびと育ってきたぶん、そのギャップに耐えきれず、強いストレスを感じていたのだと思います。
そして、沖縄では比較的成績が良いほうだったのですが、進学先には自分よりも何倍も理解が早くて、努力を惜しまない同級生が多くて……。「どうして自分はこんなにできないんだろう」と自信をなくし、次第に陰鬱な性格になってしまいました。
そんな日々の中でも支えになっていたのが、大好きなアイドルの存在でしたね。
──アイドルを好きになった時期や、きっかけを教えてください。
小学生のころにAKB48を好きになったのが始まりです。アイドルを応援することは私にとってはじめての趣味でした。
カリキュラムが厳しい中学・高校では、外で遊ぶことも少なかったので、インターネットでアイドルの動画を見る時間が唯一の娯楽だったんです。
明確に「アイドルになりたい」と思っていたわけではなかったのですが、アイドルというかたちに限らず、ステージに立つことへのあこがれはありました。それで、中学ではダンススクールに通い、高校の部活ではダンス部に入り、自然とダンスに打ち込むようになりましたね。
慶應へ入学→広告代理店へ。「これまでの人生、全部捨てられるなら」
──その後、大学受験をして慶應義塾大学に入学されたそうですが、慶應に惹かれた理由や入学を決めた経緯を教えてください。
第一志望は別の国立大学だったのですが、第二志望が慶應の法学部 政治学科でした。
もともと、政治や社会哲学に興味があったんです。学校生活や就活を通して、「この子はこんなに頑張っているのに成果が出ないのは悪いことなのか」「アイドルのスキャンダルは、アイドルとしてはアウトでも、人間としては本当に悪いことなのか」など、物事の善悪や白黒について考える機会が多くて。
慶應の法学部 政治学科は、法律をベースに「善悪とは何か」を捉え直す視点が強いと感じ、「自分に合っているかもしれない」と第二志望にしていました。
第一志望には落ちたものの、慶応に合格したときはとてもうれしかったですね。
──大学卒業後は、新卒で広告代理店に入社されたんですよね。「アイドルになりたい」という想いがはっきり表れたのは、いつごろでしょうか。
就職活動の時期です。それまでは「なんとなく生きていれば、いつか奇跡が起きてステージに立つことができるんじゃないか」と甘い期待を持っていました。でも、いざ就職活動が始まると「このまま普通に就活をしてしまったら、私は本当にステージには立てない」と現実を突きつけられたように感じて。そこで感じた苦しい気持ちによって、初めて「私、本当にアイドルになりたかったんだ」と気付きました。
でも、「この年齢で芸能経験ゼロの自分が、アイドルになれるはずがない」と思ってしまい、行動に移す勇気もなかった。とにかく周りから浮かないように、「普通の就活生」として振る舞っていました。Web面接では「御社に入って実現したいビジョンは〜」と建前を語りながら、パソコンを閉じた数秒後にはアイドルのオーディションを探している、という矛盾だらけの日々でしたね。
無事内定をいただき、大学卒業後は広告代理店に入社しました。
──広告代理店ではたらいていた当時、将来のキャリアをどんなふうに描いていましたか?
当時、将来のキャリアはまったく描けていませんでした。1年後ぐらいなら、「もう少し胸を張ってはたらける社会人になりたい」など漠然としたイメージはあったのですが、10年後、20年後の自分がどうなっていたいかは、何も想像できなかったんです。
──そうして会社員としてはたらく中で、アイドルになるために動き出したきっかけを教えてください。
最初のきっかけは、会社の人事の方との面談です。人事の方に、「積み重ねてきた学歴や経験に縛られているように見える。本当にワクワクする“なりたいもの”は何?」と聞かれて。その瞬間、心の中で湧き上がってきたのは「全部捨てられるなら、アイドルになりたい」という想いでした。
とはいえ、両親とともに歩んだ10年以上の東京生活、大卒の肩書き、人間関係や職場環境に恵まれた就職先など、ありがたい環境や積み上げてきたものが私にとってあまりにも大きくて。
「積み上げてきたものを無駄にしたくない理性」と、「夢を見続けないと苦しくて仕方がない本能」が交わった結果、「受からなそうなオーディションを受けて、現実を突きつけてもらえたら、アイドルになる夢をきっぱりあきらめられるかもしれない」という結論に至りました。
──そんな中で出会ったのが、夏目さんが今所属しているアイドルグループ『Palette Parade』のオーディションだったと。

そうです。正確には、Palette Paradeのレーベルが主催する『Atelier IBASHOオーディション2024』の中で、Palette Paradeに加入する新メンバーの募集が行われていました。
ただ、書類審査・面接審査と選考が進むうちに、「どうせ落ちるだろう」という気持ちと、「もしかしたら」という期待が入り混じるようになって。
課題曲としてPalette Paradeの楽曲を聴き込んでいるうちに、力強い歌詞にも勇気付けられました。実際に当時のメンバーが行うライブにも足を運び、だんだんと「このグループの一員として夢を追ってみたい」という想いが大きくなっていきましたね。
そして、何度も審査を重ね、最終審査では当時のメンバーとも面談をして、晴れてオーディションで合格をいただくことができました。
──合格後は迷わずアイドルの道へ進むと決断できたのでしょうか?
いえ、本当にアイドルになるかどうかは最後まで悩みました。ですが、レーベルのプロデューサーさんが私にいろいろな話をしてくれて、ようやく決心がついたんです。
「アイドル一本でその道を極める方法もあるけれど、今のアイドル業界は飽和している。これまで積み重ねてきた受験勉強や会社員としての経験、悩み抜いてきた日々と、『アイドルになりたい』という気持ちを掛け合わせることで、唯一無二のアイドルになれるのではないか」と言われて。
掛け算の大事さなどを教えてもらい、その言葉で「私、アイドルを目指しても良いんだ」と自分を肯定できたんです。
自分に責任を持つと、楽しい。アイドルとしてはたらく夏目さんの今
──正直なところ、アイドルには下積み時代もあり、広告代理店の時代と比べると生活水準が下がってしまう懸念もあったと思います。その点はどう折り合いをつけていたんでしょうか。
たしかに、会社員時代と比べると、特に最初のほうはお給料が大きく下がってしまいました。
でも、当時の私の中で、アイドルという活動への想いが、自然と優先順位のトップになっていました。アイドル活動に打ち込みすぎて、「お金を使って何かをしたい」という気持ちがほとんどなくなっていったんです。
会社員のときは少し高級なカフェに行ってみたり、贅沢なお金の使い方をしたりしていたのですが、アイドルを始めてからは「ここでお金を使ったからといって、今のアイドル活動以上の幸福が得られるわけではないな」と思うようになりました。
それよりも、今は仕事に打ち込んで、自分なりに納得できる成果を出せたほうがずっと楽しいと思ったんです。

──アイドル活動を始めてから、慣れないことも多く、涙を流すこともあったとほかの記事で拝見しました。どのように壁を乗り越えてこられましたか?
加入当初は私がアイドルとして未熟だったので、つらいこともたくさんありました。でも不思議なことに、どん底まで落ちることはなかったです。きっと、「このつらさは、自分が選んだ道の中で起きていることだ」と思えていたからだと思います。
自分で決めた道なんだから、ここで落ち込んだままでいたら過去の自分に申し訳ないと、とにかく立て直そうとしていました。具体的には、歌やダンスの練習をしたり、SNSを更新したりするなど、やるべきことを一つずつ行動に移すことでモヤモヤを晴らしていましたね。
──過去の夏目さんのように、周りの期待や環境によってやりたいことに気付けなかったり、気付いていても「やめておこう」とあきらめてしまったりする方も多いと思います。そんな方に、どんな言葉をかけたいですか?
「夢」という言葉は、とても大きく、ドラマチックなものとして語られがちです。私でいえば、「アイドルとして武道館に立ちたい」というのは分かりやすい夢ですよね。ですが、必ずしもみんながそういう大きな夢を持っている必要はないと思います。やりたいことはもっと細かく、目標や期待、「小さな願い」くらいのサイズで考えてみても良いのかなと。
「1年後に少しでも昇進したい」でも良いし、「最近できたあのお店に行ってみたい」でも良いので、小さなやりたいことを一つずつ大切にしてかなえていく。その積み重ねの先に、「夢をかなえた自分」がいるんだと思います。

人それぞれに背負っているものや葛藤は違うので、簡単に「やりたいことをやったほうが良い」とは言えないと思っています。
その上で私が伝えたいのは、「自分の選択に責任を持つ人生は、とても楽しい」ということです。うまくいかないことや落ち込むことがあったとき、その出来事が「誰かに敷かれたレールの上」で起きているとしたら、人のせいにしてしまうかもしれません。でも、自分で選んだ道の中で起きたことなら、「これは夢をかなえるためのステップなんだ」と、前向きに捉えられます。
──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?
「自分の人生の選択に責任を持つこと」にプラスして、「自分の価値」にも気付いてほしいとも思います。私は大学時代、周囲が本当に優秀な人たちばかりで、「これができて当たり前」「この企業に行くのが普通」といった空気の中ですごしていました。でも、少し距離を置いて振り返ってみると、「できて当たり前」なことなんて本当はなくて、一つひとつ積み重ねてきたことには、必ず価値があるんですよね。
だからこそ、自分の「当たり前」が固まってしまう前に、今いる場所とは異なる世界をのぞいてみるのも、一つの手段だと思います。そういう意味でも、もし仕事などで少し疲れてしまったときは、ぜひアイドルのライブに足を運んでみてください。もちろん、私たちのライブに来ていただけたらとてもうれしいですが、そうでなくても大丈夫です。
「同じ日本でも、こんなふうに生きている人たちがいるんだ」と感じるだけで、世界が少し広がるはずです。私たちは、いつでもライブ会場であなたを待っています。

(「スタジオパーソル」編集部/文:朝川真帆 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:水元琴美)
