国際自動車連盟(FIA)のシングルシーター部門を統括するニコラス・トンバジスは、2026年に導入される新たな財務レギュレーションにより、チームがパフォーマンス向上のために行う“戦略的なパワーユニット(PU)交換”は事実上不可能になるとの見通しを示した。
予選結果が振るわなかった場合や、グリッド降格を受ける場面で新しいPUを投入し、パフォーマンスを底上げする――こうした戦術は来年以降、過去のものとなりそうだ。
ブラジルでの事例とライバルの不満
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決勝前、ガレージ内でクルマに乗り込むマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)、2025年11月9日(日) F1サンパウロGP(インテルラゴス・サーキット)
この話題が再燃したのは、2週間前のサンパウロGPがきっかけだ。
レッドブルは決勝を前に、予選Q1敗退を喫したマックス・フェルスタッペンのPU一式を交換した。後方グリッドに沈んだ以上、ピットレーンスタートになったとしてもフレッシュなエンジンパワーを得たほうが得策との判断だ。
だがライバルは黙っていない。財務規定に明記はないものの、マクラーレンはFIAの非公開ガイドラインを根拠として、破損していないユニットを交換するコストは本来バジェットキャップ(予算上限)に含まれるべきだとして、FIAへ照会を入れた。
この“攻勢”に対し、レッドブルのチーフエンジニア、ポール・モナハンは次のように反論する。
「誰かがこういう手榴弾を投げてきても驚きはしない。立場が逆なら我々だって同じことをするだろう」
「我々のやったことは筋が通っているし、何ら問題はない。22年から今年までの現行世代を見ても、PU交換は他チームも普通にやってきた。珍しくもない」
FIAが認める現行ルールの”ほころび”
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マイクを握る国際自動車連盟(FIA)シングルシーター部門責任者のニコラス・トンバジス、2025年11月20日(木) F1ラスベガスGPフリー走行(ラスベガス市街地コース)
トンバジスはラスベガスGP初日のパドックで、現行レギュレーションはこの領域を十分にカバーし切れていないと認めた。
「現時点で我々FIAが関わりたくないのは、エンジン交換があった際に、テレメトリーの一部が信頼性の問題を示しているかどうかを、チームやPUメーカーと議論しなければならない状況だ」とトンバジスは語る。
「本当に信頼性に関わる問題なのか、それとも戦略的な変更なのか。我々にそれを見極め、彼らと議論するだけの専門知識があるとは思えない」
故障かどうかの判断ができない以上、コストキャップに絡めて議論することもできない――これこそが「現行レギュレーションの弱点」だとトンバジスは認める。
「1基100万ドル」が抑止力に―コストキャップ本格施行
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2026年仕様の雨用タイヤテストに取り組むフェラーリのリザーブ・ドライバー周冠宇、2025年6月19日フィオラノ・サーキット
だが、2026年からは状況が一変する。チームだけでなく、PUメーカーにもコストキャップが”本格導入”されるためだ。トンバジスは、この“財政的な縛り”こそが戦略的交換を封じる抑止力になると見ている。
「来年(2026年)、PUメーカーとチーム双方にコストキャップが適用されることで、この問題は解決するだろう」とトンバジスは語る。
「PUメーカーにとって、戦略的な変更を行うことは得策ではなくなる。なぜなら、交換のたびにコストがかかるからだ。内燃機関(ICE)だけでも100万ドル(約1億5700万円)程度かかるだろう」
PUメーカーにはすでにコストキャップが導入されているものの、それは2026年以降の次世代PU開発を対象とした枠組みであり、現行PUに関わるコストはコストキャップの対象外とされている。一方で、来季以降は新しいユニットを製造するたび、予算が圧迫されることになる。
2026年の新たな財務規則下では、PUメーカーがチームに対して一定数を超えるユニットを供給した場合、以下の基準額をベースとして、数量(シーズン何基目か)に応じて別途定められた値を減額した額をコストキャップに算入しなければならない。
ICE(内燃エンジン):100万ドル
ターボチャージャー:15万ドル
MGU-K:17万5000ドル
CE(コントロール・エレクトロニクス):21万5000ドル
ES(バッテリー):21万5000ドル
「現行レギュレーションはPUコストキャップがないために弱点があったが、来年からは完全に解消され、この話題自体が消えるはずだ」とトンバジスは自信を示した。
F1の風物詩とも言えるこの光景が消えることに一抹の寂しさはある。だが、財務規則の導入により競争力の平準化を図る昨今のF1では、避けられない流れと言える。
