アジア各国での気候変動をめぐる動きは今、どのような状況…?
ヨーロッパ諸国では先進的な気候変動対策が行われているという印象が強い一方で、日本の周りのアジア各国ではどのような対策が取られているのでしょうか。
ハフポスト日本版は、韓国、台湾、フィリピンの専門家や弁護士、気候活動家に、気候変動をめぐる人々の関心や教育現場、政治分野での「今」について、共通の質問を聞きました。
日本との類似点や、日本が見習える点も多くあるのでは…?
そんな思いで第1弾では、韓国の団体代表を取材。第2弾では、台湾の状況について、「台湾クライメート・アクション・ネットワーク」でリサーチディレクターを務める趙家緯(チアウェイ・チャオ)さんに取材しました。
【インタビュー第1弾:韓国】猛暑や台風が韓国でも深刻化→気候変動への関心高まる。若者は「気候訴訟」で声上げ違憲判断も
趙家緯(チアウェイ・チャオ)さん:台湾クライメート・アクション・ネットワーク(TCAN)のリサーチディレクター。国家気候変動対策委員会の委員も務める。2013年に国立台湾大学で環境工学の博士号を取得。長年にわたり、気候・エネルギー政策に積極的に関わり、エビデンスに基づく政策提言を行っている。
気候変動の否定派も少なく、人々は関心も高い。でも…
──台湾での、人々の気候変動に対する関心はここ5年で変化したと感じますか。人々はどのようなアクションを起こしていますか。
台湾では、気候変動を否定する声は非常に少ないです。5年前の調査でさえ、回答者の85%が気候変動が起こっていることや、対応しなければ私たちの生活に大きな影響を与えることを認識しています。
また、92%以上が気候変動に対処しなければ経済的損害が発生することも認識しています。
気候変動が起きているかどうかの是非について、否定派と議論する必要はありませんが、市民が実際に気候変動に対してアクションを取るということはまだあまり身近ではないようです。
例えば、再生可能エネルギーの支持や、電気自動車や電動スクーターへの乗り換えを検討しているのかと尋ねると、躊躇する様子が見られます。そして、支持するという回答は以前に比べると低下しています。
5年前には再生可能エネルギーの支持率が約90%だったのに対し、現在では70%に止まっています。太陽光発電などに関しては、後ろ向きな報道も多く、人々の考え方の変化にもつながっているようです。
台中の海辺にある風力発電
台湾ではスクーターが多くの人に使われていますが、電動スクーターへの乗り換えに関しては、2020年の調査ではガソリンスクーターの所有者の60%以上が電動スクーターへの乗り換えに前向きでしたが、2024年の調査ではわずか25%までに下がってしまいました。
これは、まずコスト面の懸念、そして電動スクーターのバッテリーが中国製が多いこともあり、議論を呼びました。台湾では比較的ガソリンが安価なのですが、それに比べてバッテリーが高額であることも負担に感じる理由の一つのようです。
台湾では、気候変動の否定派も少なく、人々は関心を持ち、政府への対処も望んでいる状況ですが、具体的な解決策について行動を取るということに関しては、まだためらいが見受けられ、全体としての気候変動の対処に遅れが生じるのではないかと懸念しています。
台北市内の様子
NurPhoto via Getty Images
報道量やCOP取材メディアも増
──メディアでの取り上げられ方や量は。十分な報道がされていますか。過去数年で状況は変わりましたか。
具体的な報道数などの統計を把握しているわけではありませんが、個人的な見解としては、台湾メディアでの気候変動をめぐる報道はここ数年で増えていると感じます。
台湾の主要なビジネス誌でも気候変動が大々的に取り上げられ、3年前に比べると脱炭素や企業戦略における環境面を重視したサービスの販売促進戦略などについての報道も増えています。
環境団体が気候変動について寄稿する際も、以前は独立系メディアなどに限られましたが、今は大手メディアなどでもそのような機会があります。
報道のアワードなどでも、近年では気候変動報道が受賞することも増えており、ハイレベルな気候報道が増えていることを表していると思います。
メディア全体での気候変動への関心は確実に高まっており、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を取材するメディアも増えました。5年前のCOPでは、現地に記者を送ったメディアは1社か2社のみでしたが、2023年にドバイで開催されたCOP28には、台湾からも8社が現地入りして取材をしました。
一方で、台風や干ばつなどの災害が発生した際に、災害の激甚化を気候変動と関連づけて報じるメディアはまだ少ないように感じます。災害の激甚化への気候変動の影響はすでに気候科学者によって分析され、関連性が証明されており、海外メディアでは、頻繁に報じられています。
しかし台湾では、個々の専門家の分析はある一方で、地球温暖化が極端気象(異常気象)に及ぼす影響を定量的に評価する手法「イベント・アトリビューション(EA)」のセンターなどは体系的には組織化されていません。
また、新聞や雑誌などに比べ、テレビではまだそこまで詳細な気候変動に関する報道がなされていないと感じていますが、調査によると、70%が気候変動に関する情報はテレビから得ていると回答していました。その点に関しては、テレビでの報道内容に改善が必要だとも感じています。
気候変動の授業も。公務員向けにも講習
──教育現場では、気候変動に関してどのような授業が行われていますか。
2019年に新しいガイドラインが施行され、小学校から高校までのシラバスに海洋汚染やエネルギー問題などの環境問題の項目が含まれるようになりました。
海洋汚染やエネルギー問題などと一緒に気候変動について教えられることが多く、教員たちも熱心に気候問題について学び、意欲的に生徒たちに教えていると思います。
国際環境NGOのグリーンピース台湾や、台湾のNGOのグリーン・シティズン・アクション・アライアンスなどは教員たちを対象に、定期的に気候変動などについて教えるためのオンライントレーニングコースを提供しています。
また、近年では中学や高校の入学試験でも、気候変動に関するトピックが出題されました。
台湾では50年前から既に環境教育法が施行され、小学生から高校生の学生だけでなく、公務員も毎年4時間の環境問題についての講習を受講する必要があります。
これまでは講習内容は自然保護や生物多様性についてが主でしたが、自治体によってはうち2時間を気候変動について学ぶ時間に指定しています。
若者たちの就職の選択肢に「グリーンジョブ」。関心高まる
気候変動対策を呼びかける、Fridays For Future台湾の12歳の少年。
Billy H.C. Kwok via Getty Images
──若者たちは気候変動をめぐる活動に積極的に参加していますか
代表的な団体として、台湾ユース・フォー・クライメートチェンジ(台湾青年気候連盟、TWYCC)や各大学の学生団体など、気候変動をめぐる様々な若者の団体が活発に活動しています。
団体で活動していた学生たちは大学卒業後も、再生可能エネルギー業界で活躍していたり、気候変動対策の活動で重要な役割を果たしたりしています。
サスティナビリティや環境保全などに関する「グリーンジョブ」が、就活生のキャリアの選択肢の一つとなってきていることは興味深く、5年前と比較すると大きな進歩があったのではないかと思います。
銀行などの金融機関のESG部門やコンサルティング企業、洋上風力発電などの再生可能エネルギー業界などのキャリアなどが確実に、将来のキャリアの選択肢に入ってきています。
企業側も気候変動対策に力を入れていて、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は2030年までに全社的な再生エネルギー使用量を60%に、そして2050年までに100%を目指すと発表しました。
TSMCは、企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ「RE100」にいち早く加盟していました。
国家気候変動対策委員会が立ち上がり、議論の場も増加
頼清徳総統
CHENG YU-CHEN via Getty Images
──政府の気候変動対策は
2024年1月に行われた台湾総統選挙の候補者討論会では、議論テーマの一つとして気候変動対策が取り上げられました。
当選した頼清徳(らいせいとく)総統は、就任後に「国家気候変動対策委員会」を立ち上げました。私も同対策委員会の委員を務めています。
総統自らが議長を務め、会議を率い、毎回4時間にわたることもある長丁場の会議に熱心に耳を傾けています。会議では、各省庁の大臣だけでなく、気候変動の専門家や学者、NGO関係者らが一堂に会し、温室効果ガスなどの削減目標やロードマップについて議論しました。
国家気候変動対策委員会が立ち上がったことで、会議での決定事項などにもメディアからの注目が高まり、気候変動対策に関する報道も増加したように感じます。気候変動に関する議論や会話の場を増やしていくことも大切です。
(取材・文=冨田すみれ子)
1.5℃の約束 ーいますぐ動こう、気温上昇を止めるためにー
