
学校での平和教育は、コロナ禍の前まで戦争体験者を講師に招く形が多くとられてきました。しかし、沖縄戦から80年がたち、体験者が少なくなる中、こうした形ではほとんど行えなくなっています。
家庭でも同様です。高校生を対象にしたアンケートでは「家族・親族で沖縄戦について話してくれる人はいますか」という設問に対して「いない」という回答が6割近くにのぼりました。

こうした中、学校での平和教育の重要性がますます高まっていることを示すデータがあります。これまで受けた平和教育について「とても有意義」「よかった」と回答した高校生は、合わせて88.1%にのぼり、過去6回の調査で最も高くなりました。平和教育を肯定的にとらえているのがわかります。
学校現場の平和教育が転機にさしかかる中、新たに始まった取り組みを取材しました。
(NHK沖縄 西銘むつみ記者)
VRで教える授業
豊見城市の中学校で6月5日、新たな教材を使った平和教育が全クラスで行われました。
教材はVR=バーチャルリアリティーのコンテンツです。豊見城市教育委員会が地元の戦争体験者から聴き取った証言や、当時の写真を踏まえて制作しました。まずは、アニメやゲームのような感覚で親近感を持ってもらい、沖縄戦についてしっかり学んでもらおうという狙いです。

生徒たちはおよそ80年前の豊見城に「時空記者」としてタイムスリップし、戦争で自分たちのふるさとの風景が失われていく様子を、画面上に現れる人たちから聞いていきます。配布されたワークシートの質問に答えるため、誰に話を聞くかなど自分で選択しながら進んでいきます。

(女子生徒)
今までにやった事のない体験だったから楽しかったし、それと同時に命の大切さとか戦争の悲しさも分かったので、いいなと思いました。
目指しているのは、どの教員でも教えられるようになること。体験者を招いた平和教育ができなくなる中で、沖縄戦について教えることのハードルを下げると期待されています。

(体育科の教員)
教員の立場としては、教えないといけないということで多少プレッシャーであったりとか、すごい感じるものがあるんですけど、こういう授業の形態というのはそれも取り除けますし、すごく助かります。
共通の教材を 教員有志の模索

行政だけでなく教員の有志も模索を始めています。県内全域から集まり、共通の教材を作ってカリキュラム化することはできないか。この春から月に1度、情報交換をしています。
集まりの中で、南風原町の社会科教諭は「日々忙しく、自分1人で教材を作るというのはやはり難しいので、こういうところに参加してみんなで何か作れたら」とあいさつしていました。
また、沖縄市の小学校教諭は「転勤してきたばかりなのですが、資料があまりにも多すぎてどうしていいかわからなくて、先生方の今の取り組みを聞いて、どうにかできないかなと思っての参加です」と話していました。
平和教育の教材は、証言集や映像、絵本など、さまざまなアーカイブが使われたり、過去に教職員組合が作成したりしてきましたが、幅広く共有されているものはありません。

しかし、県が行ったアンケートでは、平和教育に求める支援体制で1番多かった回答は「教材」でした。戦争体験者を招いた平和教育がほとんどできなくなる中、いま、教材を求める声が高まっているのです。
この日、南風原町の社会科教諭は「フォトランゲージ」と呼ばれる写真を教材にした手法を紹介しました。

まず、グループごとに沖縄戦に関する写真と絵が何の情報もないまま配られます。参加者は生徒になったつもりで、いつ、どんな場面のものなのかをグループのメンバーと話し合いながら書き込んでいきます。
この日は、いわゆる「集団自決」を描いた絵や「鉄血勤皇隊」に動員された少年たちの写真が配られ、各グループで意見を出し合っていました。正しい答えを導くことよりも、生徒が自分で気付いたり考えたりすること、考えを周りに伝えるということに重きが置かれます。
生徒の立場で臨んだ参加者たちの感想は…。

(読谷村の美術科教諭)
まず1つは、子どもの意見がアウトプットがしっかりできるというところは、すごくよかったなという意見がありました。

(本島南部の高校の国語科教諭)
文章だけだと、言葉が流れてしまう子どもたちもいると思いますが、フォトランゲージだと残る。授業を通して、沖縄戦って何だろうというのを考え続けられるというふうに感じました。

(豊見城市の数学科教諭)
どんなふうに子どもたちに感じさせることができるかなというヒントを、きょうはもらえた感じがしました。

(宜野座村教委の指導主事)
「あっ、こういう伝え方があるんだ」ということと、それからやっぱりこのネットワークですよね。こういう取り組みありますよ、じゃあ行ってみようかとか。このネットワーク、集まるだけで人はいろんなつながりが出てくるので、とてもいい取り組みだと思います。
教員の意識を変える
琉球大学の北上田源准教授は「生徒に教えなくては」という教員の意識を変えることが求められていると指摘します。

先生方が体験者の代わりに授業をしていくことになりますよね。その時に先生方が自分も知らないことを、あたかも自分が体験したように生徒に語ることはやっぱりできないと思いますし、やっぱりきっちりと生徒たちと一緒に考えていくこと。ともに学んで考えていくということができるのが大切なのかなと思っています。
