欧州が防衛分野に新たに数兆ユーロを投じる計画は、各国が軍への投資方法や兵器の開発・生産体制を見直さなければ、大きな機会損失に終わる可能性がある。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、防衛支出の経済的恩恵は一時的なもので、3年以内に消えてしまうと試算している。
欧州は24日から始まった北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、巨額の防衛支出の実現に一歩近づく見通しだ。ロシアに対抗しうる欧州の防衛能力再建が最大の動機だが、欧州連合(EU)やドイツなどの当局者らは、こうした資源の投入が、経済にも恩恵をもたらすことを内心期待している。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も5日、 「防衛やインフラへの政府投資の増加は、中期的には成長を一層支えるだろう」と語った。
ただ、欧州は自前の研究能力の育成や、国内生産体制の確立に苦戦している。冷戦終結後に国防費を削減できた「平和の配当」が終わったにもかかわらず、防衛支出を増やしても「成長の配当」が得られない可能性がある。
BEのグローバル・エコノミスト、バールガヴィ・サクティベル氏は「重要なのはいくら遣うかより、どう遣うかだ。研究開発への投資は、単に海外から装備を購入するよりもはるかに大きな経済成長を生む」と指摘した。

トランプ米大統領からの圧力や、米国が欧州の防衛から手を引くかもしれないとの懸念から、欧州各国は防衛支出の大幅拡大を相次いで表明している。NATOのルッテ事務総長が掲げる、国防予算を国内総生産(GDP)比3.5%以上とする目標を達成するためには、ドイツは2035年までに追加で6890億ユーロ(約115兆9800億円)を支出する必要がある。サクティベル氏の試算では、イタリアとフランスも、それぞれ4000億ユーロ超が必要になる。

ハーグでのNATO首脳会議を前に警備にあたる兵士(6月23日)
Photographer: Simon Wohlfahrt/Bloomberg
サクティベル氏の試算によると、経済押し上げ効果は極めて限定的だ。ユーロ圏の主要4カ国はいずれも、2025年の成長率が0.1-0.2ポイント押し上げられるにとどまり、その効果は3年以内に消滅すると見込まれる。
この予測は、欧州が大半を人件費、維持費、装備品購入に充て、研究開発にはわずか4%しか投じないという従来の支出構成を維持するという、生産性向上に資する投資が非常に少ない前提に基づいている。
EU域内の防衛装備購入の約80%は域外からの調達に頼っているため、国内産業への波及効果も限られている。その上、生産性の高い部門から軍事部門への労働力の再配置が起きることで、効率性にも悪影響が及ぶ。
もっとも、欧州には強化が可能な兵器産業基盤はある。ラインメタルやレオナルド、タレスをはじめとする多数の企業に対しては、株式市場では強気の見方が広がっている。
ECB政策委員会メンバーのパネッタ・イタリア中銀総裁は先週、ミラノでの講演で、「防衛支出の増加によるポジティブな影響を最大化するためには、技術への投資が必要だ。もちろん、防衛支出は成長を支える理想的な手段ではないが、過去には前向きな効果をもたらした事例もある」と語り、研究開発を強化する重要性を強調した。
原題:NATO Cash Bonanza Risks Becoming Europe’s Lost Chance for Growth(抜粋)
