EVシフトの現状をどうとらえるべきか

◆EUによる“上からのEVシフト”とその翻意

そうしたなかで、EUは追加関税措置を決めた。中国側からすれば容認しがたい内容だろうが、欧州側にとってもこの問題は切実だ。

さかのぼること9年の2015年、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題、いわゆる“ディーゼルゲート”が発覚する。環境対応車としてクリーンディーゼルをPRしているさなかの出来事だけにインパクトはすさまじく、さらに疑惑は他の自動車メーカーにも飛び火していった。

これを契機として、欧州ではエンジン車を排斥する流れができ始める。まずは2016年にノルウェーが「今後10年でガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する」と発表。翌年にはパリ協定の主催国だったフランスや、イギリスなどもエンジン車の販売を規制する方針を表明した。2021年になると、EUも「2035年までにエンジン車の新車販売を禁止する」という規制案を発表。この方針に適合するべく、各自動車メーカーもEVシフトと段階的なエンジンの販売停止を打ち出していったのはご存じのとおりだ。

しかし2023年、EUはこの方針を見直し、合成燃料であるe-fuelを使うエンジン車については販売を認めることを宣言する(参照)。自動車メーカーの間でも、ボルボやメルセデス・ベンツ、ゼネラルモーターズなどがEV戦略の見直しを発表し、今日ではEVシフトの潮目は変わりつつある。

◆それでもEVは有望な選択肢である

EUの翻意の裏側には、欧州メーカーの手になるEVの販売不振がある。EVシフトを掲げながら、どのメーカーも競争力のある製品を開発できずに伸び悩んでいたのだ。いっぽう中国製EVは、圧倒的な価格競争力でおひざ元の欧州市場でも伸長している。EUがエンジン車撤廃の姿勢を緩めたのも、中国製EVに追加関税をかけたのも、ある意味では理解できることといえるだろう。

いっぽうで、こうした変節に翻弄(ほんろう)されてきたのが自動車メーカーで、とりわけ厳しい状況にあるのがVWだろう。中国では1984年にいち早く現地法人と合弁会社を立ち上げ、大きな成功を収めてきたが、昨今はNEV市場が膨れ上がるなかで、すっかり存在感が薄れてしまった。巨額を投じて臨んだEVの不振も経営に打撃を与えており、最近では本国ドイツでの工場閉鎖や人員解雇、電池工場の計画延期なども報じられている。この難局をVWがどう乗り切るか。オリバー・ブルーメCEOをはじめとする首脳陣の手腕に期待するしかない。

こうして世界的なEVシフトの流れを俯瞰(ふかん)すると、昨今のその停滞は「EVがダメだったから」ではなく、「エンジン車からの転換を図るにはあまりに拙速な計画だったから」ととらえるべきだろう。長い目で見れば、EVが今後も有望な選択肢であることに変わりはない。ただいっぽうで、マーケットや技術開発の現状を度外視した施策に無理があることも、この数年で分かったことではないか。EVシフトはどのぐらいのペースで進めるべきか。性急に他の選択肢を排除してもよいものか。いまはエンジンも併用しながら、脱炭素化の道をあらためて考えるときではないのだろうか。

(文=林 愛子/写真=newspress、アウディ、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)


欧州へと輸出される吉利汽車の「ジーカー001」。欧州委員会は2024年10月29日に、中国製EVに対する追加関税の導入を決定。向こう5年にわたり、従来の10%に7.8〜35.3%を上乗せし、最大で45.3%の関税を課すことを決めた。


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EUでは2021年7月に、乗用車や小型商用車の新車によるCO2排出量を2035年までにゼロにする規制案を発表。2022年10月には欧州委員会・欧州議会・EU理事会が合意に至り、加盟国元首級で構成される欧州理事会の承認決議を待つのみとなっていたが、2023年3月に成立した法案では、合成燃料の使用を条件に、内燃機関車の販売が認められることとなった。


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EVシフトの急先鋒(せんぽう)として、投資にも前のめりだったフォルクスワーゲンだが、それもEV販売の不振で完全に裏目に。エネルギー危機やドイツ国内でのインフレーションなども重なり、今日では本国工場の閉鎖(しかも3カ所)を検討しなければならないほどの窮地に立たされている。


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