コラム:「最弱通貨」になったドル、今後の相場を左右する3つのフロー=佐々木融氏

 昨年は米連邦準備理事会(FRB)が100ベーシスポイント(bp)の利下げを行っても主要通貨の中で最強だったドルが、今年は利下げも行われていないのに主要通貨の中で最弱通貨となっている。佐々木融氏のコラム。写真は4月25日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 8日] – 昨年は米連邦準備理事会(FRB)が100ベーシスポイント(bp)の利下げを行っても主要通貨の中で最強だったドルが、今年は利下げも行われていないのに主要通貨の中で最弱通貨となっている。ドル/円相場は年初から10%弱下落しているが、円は主要通貨の中で真ん中程度のパフォーマンスとなっており、円高ではなくドル安主導でのドル/円相場の下落となっている。

ドルが弱くなっている背景としては、トランプ政権の関税政策などを受けた米国への不信感の強まりが考えられる。昨年までの米国経済の独り勝ち状態を背景に、米国資産の資産配分を増やしていた世界の投資家が、一定程度米国資産の保有比率を減らし、欧州などにシフトしているとの見方がある。

筆者は4月後半にニューヨークと首都ワシントンに出張し、現地のヘッジファンドなどの投資家や当局者の話を聞いてきたが、今後、中期的に世界の投資家が米国資産を売却することにより、ドルが弱くなるという見方は一番のコンセンサスだった。実際、年初来の主要通貨のパフォーマンスをみると、強い順にスウェーデンクローナ、スイス・フラン、ノルウェークローネ、ユーロとなっており、資本の流れが欧州に向かっている可能性を示唆している。

実はもう一つ見逃せないドル安要因がある。それは過去最大を記録している米国の財の貿易赤字の急拡大だ。トランプ大統領による関税引き上げに対する懸念の強まりを受けて、米国の財の輸入額は今年1月に前年比プラス26%、2月は同プラス22%、3月は同プラス31%と大幅に増加した。その結果、今年1─3月期の米国の財の貿易赤字額は前年同期比67%の増加、金額にすると1878億ドル(現在のレートで約27兆円)も増えた。

興味深いことに、米国の対日貿易赤字は昨年同時期と比べてもほとんど変化が無い。一方大きく赤字額が増えているのが、スイスとアイルランドとなっている。中国、台湾、ベトナムもそれなりに赤字額が増えているが、スイスやアイルランドに比べると増加額は少ない。こうしたことも前述のような通貨のパフォーマンスに影響しているのかもしれない。

1─3月期のドルの弱さは米国の貿易赤字の急拡大もそれなりに影響していた可能性は高い。前年同期比で増加した1878億ドル分が全て追加的なドル売りにつながったとは思わないが、トランプ政権の朝令暮改的な政策を受けて、通貨としてのドルやドル建て資産を保有することがためらわれる中では、米国への輸出代金を受け取った世界の輸出企業は、早めにドルを売って自国通貨に替えておきたいというインセンティブが強かったかもしれない。仮に半分でも追加的なドル売りとなっていれば、ドルの全体的なパフォーマンスに十分影響を与えたはずだ。

こうした中、米国の貿易赤字はこの先急速に縮小していくであろう。たとえトランプ氏が主張している高率の関税が今後結果的に引き下げられたとしても、前倒しで輸入してしまった分は後から調整する必要があるので、輸入額が急減することにより米国の貿易赤字も急減することになる。そうなると、今度はドル売り需要が少なくなり、ドルを下支えすることになるかもしれない。

ドルは4月中も最弱通貨となっている。4月は既に貿易赤字が縮小を始めている可能性があるので、ドル安には先行きのドル安を見越した投機的なドル売りも影響していたかもしれない。実際シカゴの通貨先物市場を通じたドルの投機的なポジションはドルショートポジションが増えてきている。

今後数カ月間のドルの行方を考える時には、3つのフローの影響を考える必要があるだろう。ドル売り側の要因としては、世界の投資家によるドル資産離れだ。こうした動きは今後も徐々に進んでいく可能性が高い。一方、ドル買い側の要因としては、世界の輸出企業によるドル売りの減少だ。今後数カ月間米国への輸出が急減すれば、世界の輸出企業によるドル売り需要も急減する。そして、その影響もあってドルが底堅くなり始めれば、投機筋によるドルショートポジションの手仕舞い、つまりドルの買い戻しを引き起こすことになるかもしれない。

ドル/円相場はドル安主導で下落しているため、ドルが強さを取り戻せばドル/円相場も上昇することになるだろう。

編集:宗えりか

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*佐々木融氏は、ふくおかフィナンシャルグループのチーフ・ストラテジスト。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。2010年にマネージングディレクター就任、2015年から2023年11月まで同行市場調査本部長。23年12月から現職。著書に「弱い日本の強い円」、「ビッグマックと弱い円ができるまで」など。

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