柔らかな光のなか、ニューヨーク州プラッツバーグ近郊のシャンプレーン湖をカヌーが進む。一帯の先住民たちは何世紀も前から、こうした湖などの水域を交易や移動のために利用してきた。(PHOTOGRAPH BY AMY TOENSING)

柔らかな光のなか、ニューヨーク州プラッツバーグ近郊のシャンプレーン湖をカヌーが進む。一帯の先住民たちは何世紀も前から、こうした湖などの水域を交易や移動のために利用してきた。(PHOTOGRAPH BY AMY TOENSING)

米国ニューヨーク州からメーン州北部まで延びるノーザン・フォレスト・カヌー・トレイル(NFCT)を旅すると、懐かしい光景とともに新たな可能性が見えてくる。

 激しい雨がフォース湖の水面を波立たせる。米国ニューヨーク州のアディロンダック山地の中心部に位置するこの三日月形の湖は、「フルトン・チェーン」と呼ばれる8つの湖群のなかで最大の面積を誇る。私はパドルを膝の上に置き、周囲を見回した。私たちのグループは10人余りの漕(こ)ぎ手を乗せたカヌーとカヤックの一団で、長さ1キロほどの範囲に広がっていた。だが土砂降りのせいで、仲間の多くは、姿がよく見えない。私たちは1.5キロほど離れたフィフス湖にあるカヌーの引き揚げ場へと急いでいた。

 わずか数時間前、私はニューヨーク州北部のオールド・フォージという小さな集落を出発し、米国先住民のグループとともに、メーン州まで1200キロ近く続く昔からのルートの一部を東へと進んできた。80以上の湖や池、川や小川をつないだルートである「ノーザン・フォレスト・カヌー・トレイル(NFCT)」は、オールド・フォージを起点に、バーモント州やカナダのケベック州、ニューハンプシャー州といった北米北東部の中心を蛇行し、最後はメーン州の深い森を500キロ以上旅して終点へとたどり着く。水路の多くはつながっていないため、そうした区間は自分たちのカヌーやキャンプ用具、食料などを陸路で運ばなくてはならない。ポーテージと呼ばれる作業だ。

約20年前に正式にルートが指定されたノーザン・フォレスト・カヌー・トレイル(NFCT)は、23の河川と59の湖沼で構成されている。ニューヨーク州北部のブラウンズ・トラクト・インレットは、その起点近くに位置する川だ。(PHOTOGRAPH BY AMY TOENSING)

約20年前に正式にルートが指定されたノーザン・フォレスト・カヌー・トレイル(NFCT)は、23の河川と59の湖沼で構成されている。ニューヨーク州北部のブラウンズ・トラクト・インレットは、その起点近くに位置する川だ。(PHOTOGRAPH BY AMY TOENSING)

 幸いなことに、フィフス湖でカヌーを引き揚げ、この旅で最初のポーテージを行ったとき、その距離は1キロ足らずと短かった。また、途中にガソリンスタンドがあったので、雨にぬれない場所で態勢を立て直すことができた。仲間たちの大半は店内に集まって温かい飲み物を飲んでいたが、数人は正面の日よけの下でたばこを吸っていた。あまり士気は上がらなかったが、だからといって、旅をやめるのも簡単なことではなかった。

 2000年、米国ニューイングランド地方のカヌー愛好家のあるグループが、この長大な水路をNFCTと定め、正式にその地図の作成に取りかかった。以来25年間、トレイルと同名のNPOが、この北米屈指の壮大なカヌーの冒険を、さまざまな人々に知ってもらおうと活動してきた。もちろん、NFCTという名前がついて初めて、この水路が利用されるようになったわけではない。先住民の部族連合「ホーデノショーニー(イロコイ連邦)」に属する共同体やアルゴンキン族などは、何千年も前からこの水路を行き交ってきた。そして1600年代以降は、ヨーロッパの入植者にとって、この川と湖のネットワークが、輸送手段を確保して毛皮猟や林業を拡大するために欠かせないものとなった。さらに南北戦争後の数十年の間に、米国のアウトドアレクリエーション精神の起源とも言うべきものが、この地域で根づき始めた。こうしたことはすべて、1つの同じ理由に根ざしている。この地域では、陸路よりも水路を移動する方が簡単なのだ。

 生まれてからずっとニューイングランド地方で暮らしてきたとはいえ、私は山岳ガイドであり、カヌーの経験はほとんどなかった。それでも、ある友人から初めてNFCTのことを聞いたとき、チャンスだと感じた。今ならまだ、週末の行楽客やいわゆる「インフルエンサー」が押し寄せる前に、自然を満喫できそうだ。NFCTを一度のカヌーの旅で一気に漕ぎ通した者は、これまでに300人もいなかった。私自身は、そこに名を連ねようという気はなかったので、4カ月間にわたって、いくつかの先住民のメンバーが率いる旅に参加し、トレイル内の数百キロを航行した。

北方の森をカヌーで旅する

北方の森をカヌーで旅する

20年以上前、カヌー愛好家やハイカーのグループが発案して、連邦政府からの助成金を得たうえで、ニューヨーク州からメーン州へと至る全長約1200キロの「ノーザン・フォレスト・カヌー・トレイル(NFCT)」の地図を作成した。先住民の共同体が古くから交易に利用してきた水路に着想を得たこのルートは、小さな町や辺境を通っている。(地図:ROSEMARY WARDLEY, NGM STAFF. 出典: JAMES FRANCIS, PENOBSCOT NATION; DARREN BONAPARTE, SAINT REGIS MOHAWK TRIBE; NORTHERN FOREST CANOE TRAIL; NATURAL EARTH; OPENSTREETMAP; USGS; NASA MODIS; NASA SRTM)

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