例えば、中国東部の北侖区には、ケーキ型からテスラの自動車部品の金型まで製造できる、3,000以上の金型工場が集まっている。また、そこから数時間の場所にある高郵市には、街灯をはじめさまざまな道路照明を製造する工場が約1,300軒ある。

こうした町では、ある工場が新製品を設計すると、周囲の工場がすぐにそれを模倣したり、少し変えたバージョンを製造したりする。こうした模倣品を意味する「山寨(シャンツァイ)」という中国語まである。

このように密集し、素早く改良を重ねられるエコシステムの構築には、長年にわたる集中的な取り組みが必要だ。「こうした仕組みを実現するには、サプライチェーンの高い柔軟性が欠かせません。一朝一夕にできるものではなく、さまざまなレベルの技術者同士による長期的な協力が必要なのです」とジャンは語る。

工場は一夜にしてならず

過去に米国内での生産の道を模索したものの、コストの高さ、原材料の調達の難しさ、人手不足、規制の制約などさまざまな課題に直面したと、米国の事業主の多くが『WIRED』に語った。

タトゥー用品を扱うローガンはかつて、米国内で自前の針カートリッジの製造工場を立ち上げることを真剣に検討したという。しかし、機械の購入や金型の作成、滅菌設備の整備などを含め、工場を稼働させるには800万~1,000万ドルかかることがわかった。また、生産を自動化する機械を製造しているのは中国だけであり、それをいま輸入しようとすれば、トランプ政権が課した関税がかかることになる。

ハンドバッグブランドBoggの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるキム・ヴァッカレラは、EVAという素材を使って商品を生産している。石油の副産物であるEVAはゴムに似た素材で、ビーサンやヨガマットなどに使われる。ヴァッカレラによると、ベトナムでもEVA製品をつくることは可能だが、詳しく調べてみたところ、多くの工場は中国資本であり、そこでは中国人の技術者が働いていた。「中国はEVAの扱いを熟知しています。20年以上にわたりEVA素材の靴を製造してきた実績があるので、わたしたちにとっても第一の選択肢でした」とヴァッカレラは語る。

Boggが米国内で商品を生産する場合、生産体制をきちんと整えるには中国人の技術者を採用する必要があると、ヴァッカレラは考えている。ただ、トランプ政権が掲げる移民を制限する政策を踏まえると、それも難しくなるのではないかと懸念している。「国境を巡る状況を考えると、中国人の協力者にビザを出して来てもらい、事業を一緒に成長させていくことは難しいかもしれません」と語る。

もうひとつの課題は、多くの製品においてサプライチェーンがすでに完全にグローバル化しており、それぞれの工程が各地域の得意分野に合わせて分担されていることだ。例えば、バッテリー用のリチウムは、まずチリやオーストラリアで採掘され、中国で精製される。その後、日本や韓国で製品として組み立てられ、それが最終的に欧州や米国で自動車に組み込まれるのだ。

「そうしたサプライチェーンを米国に移すというのは、最終製品だけでなく、すべての工程で米国の工場が競争に勝たなければならないということです。これは非常に大きな課題だと思います」と、米中関係を中心に貿易と政治を研究する戦略国際問題研究所(CSIS)のアソシエイトフェロー、ヒュー・グラント=チャップマンは語る。

先が読めないトランプ関税

トランプ政権による関税措置が毎週のように変わるなか、事業主たちは自社の明日の状況さえ見通せなくなっている。製品や部品の発注を当面見合わせている企業もあれば、少なくとも一時的に事業を停止しているところもある。