米国のテクノ・ファシズムはもはや、8時間ダイエットや治療目的のケタミン投与のように曖昧に語られるシリコンバレーの哲学論ではない。いまや憲法の限界を試す実際の政策となり、マスクの会社とつながりがある経験の浅いエンジニアたちで構成されるDOGEが連邦政府内で暴れまわっているのだ。

マスクはすでに連邦政府職員の数を大幅に削減し、自身の権限を脅かす機関を閉鎖し、人工知能(AI)を活用して削減先を決定し、自社が開発したAI「Grok」などのチャットボットによって政府を運営しようとしている。いまやDOGEは米国民の個人データにアクセスできるし、連邦政府全体に一括でメールを送信するツールも開発された。デジタルメガホンとでも呼べるそのツールを使い、マスクは職員たちに毎週の成果報告書を提出するよう要求した。

ミムラが言うように、「技術的な概念や合理性を人間および人間社会に適用しようとすると、全体主義のようなものに近づいていく」。テクノ・ファシストのご都合主義はマスクだけにとどまらない。ほかのテック系起業家や投資家も、トランプ主義とシリコンバレー資本主義の結びつきを利用して国家規模のインフラ構築を狙っている気配がある。

OpenAIのCEOであるサム・アルトマンもトランプ政権と直接契約を結び、5,000億ドル(約74兆8,000億円)規模の超大型データセンタープロジェクト「Stargate」を計画している。アップルも今後4年間で米国に5,000億ドルを投資する計画を発表し、そのなかにはテキサス州でAIサーバーの建設を開始するというものもある。まだ具体性に欠けるとはいえ、こうした大型投資計画は協力する意思の表明だ。自身のSNSであるTruth Socialでトランプは、アップルの計画について「われわれがやっていることへの信頼の証だ」と投稿し支持を示した。

ワシントンDCの“シリコン化”

シリコンバレーを研究するワシントン大学の地理学者エリン・マッケロイは、サンフランシスコやルーマニアのクルジュ・ナポカなど、多くの欧米テック企業にとってITサービスのアウトソーシング拠点となっている場所が、シリコンバレーの価値観やイデオロギーのもとでつくり変えられている様子を「シリコン化」と表現する。マッケロイによれば、現在のワシントンDCのシリコン化は、FacebookなどのSNSを政府の情報発信手段として利用していたバラク・オバマ政権にその最初の片鱗を見ることができる。

しばらくの間、オンラインプラットフォームは政府に市民の声を伝えるメガホンのような役割をして民主主義を支えているように見えたが、それから10年経ったいま、テクノロジーは政府の権威を奪い取ろうとしているかのようだ。「これは国家の危機です」とマッケロイは言う。シリコンバレーはより迅速にその権威を手に入れるために「国家権力を腐食させようとしている」のかもしれない。

シリコンバレーの基本理念は、起業家やエンジニアこそが誰よりも物事をうまくこなせるというものだ。自分たちこそ、情報の発信も、オフィスの設計、人工衛星の開発、宇宙旅行の実現化も人よりうまくやれると。それと同じ論理で、自分たちは政治家や連邦政府職員よりも優れた統治ができるに違いないと考えているのだ。

海上都市やネットワーク国家といったシリコンバレーでの流行りの構想は、テクノロジーを基盤に運営される独立した自律型社会を特徴とする。いままでこうした計画は失敗に終わるか、地中海にテクノロジー主導の新都市を建設するという新興企業Praxisの構想のように話題づくりの域を出ていない。しかし、トランプ政権下では米国政府そのものがモルモットとして提供されようとしている、とマッケロイは言う。「マスクが国家を動かしているいま、もはやかつて求められていたほど、小さなオフショアの泡のような優遇措置など必要とされていないのかもしれません」

MAGA右派 VS テック右派

しかし、このようなテクノロジー社会のビジョンは、第一次トランプ政権を牽引した「米国を再び偉大にする(MAGA)」のポピュリズムとは相容れないものだ。