米ジョージタウン大のダニエル・ネクソン外交学部、政治学部兼任教授=本人提供
かつて米国が唯一無二の覇権国であることが、世界の政治や経済を安定に導くという「覇権安定論」がもてはやされた。だが、中国が経済大国として台頭し、ロシアがウクライナに軍事侵攻する中、米国を中心とした国際秩序は今後、どこまで保たれるのだろうか。
混迷する世界を見通すため、「覇権」を専門とする各国の有識者に聞いた。
第2回は、米ジョージタウン大のダニエル・ネクソン外交学部、政治学部兼任教授(国際関係理論)。中国やロシアなど権威主義国家による覇権が生まれる可能性を分析する。
連載「覇権の行方」は計4回です
第1回 米国は世界にとって必要か 迫り来る次の経済危機
第2回 中国、ロシアが築く新しい覇権 懸念される米国の「オルバン化」とは
第3回 国際秩序を決める「ミドルパワー」 高まる日本への期待
第4回 日韓豪で切り開く未来 日本外交が目指すべき道
米国の成功と失敗
――ソ連が崩壊し、米国1強となった1990年代以降、米国による覇権が国際政治、経済の安定に必要であるという「覇権安定論」が力を持ちました。その後、世界は変わりましたが、現状をどう分析しますか。
◆世界的な公共財である自由貿易を手に入れるため、覇権国が必要であるという初期の覇権安定論は既に古くなり、現在は覇権がどのように機能するのか、国家が秩序をめぐって争うのはなぜか、という問題に関心が集まっている。
相対的に米国が衰退しているのは間違いない。だが覇権が築いた秩序は、私たちが考えるよりもはるかに長く続く傾向にある。米国が44年、金・ドル本位制や国際通貨基金(IMF)の設立などブレトンウッズ体制を築いた時、米国は世界の経済生産の45%を占めていた。90年代、米国が世界貿易機関(WTO)の設立を支援した時には、その比率は22%に下がっていた。
私は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(79年)の著者エズラ・ボーゲルの講義を受けたが、日本の不況が短期的なものではなさそうに見え始めたときでさえ、彼は日本のビジネス慣習を参考にしなければ米国は生き残れないと説いた。私はそういう時代を生きてきた。
――経済指標などを見ると、米国の世界での相対的な地位は低下しています。それでも米国が世界をリードする構図は変わっていないように見えます。
◆米国の衰退が大きな問題にならなかったのは、90年代までに、世界の主要な経済大国が米国の提供する安全保障に依存したからだ。
韓国や日本のような豊かなアジアの国々が、米国のシステムの中核となっている。このシステムは安全保障面でも、経済面でも相互依存の上に成り立っている。
日本の自衛隊は米国を支援し、米国抜きでは大きな戦争を遂行できないように設計されている。これは欧州各国が2011年、北大西洋条約機構(NATO)によるリビア介入で理解した現実と同じだ。欧州だけでは、補給も含めた大規模な軍事行動を実行する能力がない。
そして米国を中心とした秩序は、IMFや世界銀行、NATO、日米安保条約などを通じて制度化されている。米国は90年代、西側の秩序を世界中に拡大しようとし、現在も公式、非公式に高度に制度化されたリーダーシップを持っている。最も強力な国のほとんどがそこに組み込まれている。
一方、米国はいわゆるグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国を、強制的ではない方法で秩序に取り込もうとしてきたが、この15年、特に最近4年間はうまくいっていない。ロシアやブラジル、アルゼンチン、南アフリカについては完全に失敗した。
「体制存続」を目指す権威主義国家
――中国やインドなどの国力が上がってきていますが、米国の覇権は維持されますか。
◆現在の米国主導の国際秩序から、参加国が離脱するパターンは複数ある。一つは挑戦者による別の秩序の構築だ。90年代には代替案が生まれた。イスラム教世界ではイスラム主義が、ベネズエラでは反米社会主義の運動が強まった。しかし、それらは人類全体のための包括的…
