6月の2日間、何十機もの中国人民解放軍機が台湾に接近し、中国指導部が「戦争の扇動者」と呼ぶ頼清徳総統率いる新政権を威嚇した。こうした中台間の緊張関係が一段と日常的になりつつある。

  台北の緑豊かな内湖区では、中国軍機が台湾周辺を飛んでいるときでさえ、30人の購入希望者が3200万台湾ドル(約1億4600万円)の住宅を見ようと並んでいた。

  彼らは朝早くからこの物件を見るために何時間も待った。結局、最初の買い手がドアを開けて10分後に契約を結んだ。「この仕事を15年やっているが、こんな需要は見たことがない」とこの家の販売のエージェントとなっている信義房屋仲介のペン・チャンシェン氏は言う。

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融資が受けやすくなり不動産ブームに拍車をかけている

Photographer: An Rong Xu for Bloomberg Businessweek

  中国による台湾侵攻のリスクは依然として非常に低いが、半導体製造の一大拠点である台湾は地政学的な火種になりつつある。新しいテレビシリーズは中国の侵略を想定。頼政権が今年発足すると、中国は「台湾独立派」に死刑を科すと脅した。

  それでも、台湾は不動産ブームの真っただ中にある。住宅価格はここ10年間で最も高い四半期の伸びを記録した後、3月に過去最高値を更新した。低いファイナンスコストと住宅購入者への優遇措置が追い風となり、買い遅れたくないと考える人々の熱狂に包まれている。

世帯年収の16.1倍

  5年前、さまざまな選択肢を検討したが、将来への不安から住宅購入に二の足を踏んでいた教師、ビビアン・シーさんは「もちろん、今でも戦争の心配はしている。でも、私の優先事項は子どもたちにもっと良い機会を与えることだ」と話す。

  彼女は3月、台北近郊に2400万台湾ドルのマンションを購入した。「今買わなければ、次のチャンスはないと思う」と述べる。

  台湾内政部(内務省)によれば、台北の住宅価格中央値は世帯年収中央値の16.1倍だ。シンガポールは3.8倍、ニューヨークは7.1倍で、香港の16.7倍よりは低い。米チャップマン大学の研究員らが昨年後半からのデータを検証した。

  ゴールドマン・サックス・グループによると、台湾の住宅ローン金利は過去3年間の大半で、インフレ調整後でマイナスだった。台湾の中央銀行によれば、5月の新規ローン金利は2.19%と、シンガポールの2.9%、香港の4.1%より低かった。

  中銀は8月21日、住宅市場を沈静化するため貸出量を抑制するよう金融機関に求めていると発表。

  財務部(財政省)は1年前、持ち家のない人の住宅購入が難しいとの批判に直面し、政府系金融機関の融資条件を緩和した。初めて住宅を購入する人向けの融資期間を30年から40年に延長し、融資限度額の引き上げなどを行った。

  5月の住宅ローン認可額は過去最高の1160億台湾ドルを記録。信義房屋によると、4ー6月(第2四半期)に住宅価格は3.6%上昇した。昨年の四半期平均は1.9%値上がりだった。

逃げ場なし

  人工知能(AI)に対する世界的な熱狂と、それに伴う台湾最大の輸出品である半導体の需要急増により、台湾の株式相場は今年24%上昇した。それが住宅価格を押し上げている。

  住宅価格が最も上昇しているのは、半導体の受託生産最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が本社を置き、複数の工場を運営している台湾北部の新竹だ。

  自宅を2020年に売却して賃貸に切り替えたビンセント・チェンさんは「理性的、政治的リスクの観点からすれば、住宅は上がるはずがない」と語る。そのチェンさんは昨年、台北に3ベッドルームの住宅を購入した。「価格がこのまま上昇し続けることを恐れて、購入に踏み切った」のだそうだ。

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内湖の新しいプロジェクト

Photographer: An Rong Xu for Bloomberg Businessweek

  台湾政府は3年前、投機を抑制するため、所有後5年未満の住宅の売却に高額の税金を課した。この政策は住宅市場を冷え込ませるはずだったが、実際の効果は供給を減らし、価格を押し上げたと中信房屋仲介のエグゼクティブマネジャー、チェン・チャンハオ氏は指摘。

  不動産サイトの楽居によれば、台湾の中古住宅在庫はこの1年でほぼ3分の1減少したという。

  永慶房屋仲介の副マネジャー、ジャスティン・チェン氏は政治的な見通しにかかわらず、買い手の熱意はそれほど衰えていないと話す。

  台湾のほとんどの人々は、中国との緊張だけを心配していればいいわけではなく、日々の生活を懸命に生きている。「台湾は欧州と違う。戦争が起きたら車で逃げられるわけではない。リスクがあることは認めるが、ここは私たちが暮らす場所だ」と同氏は言う。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:FOMO Frenzy Fuels Taiwan Housing Despite Risk of China Invasion (抜粋)